最終話
冷え込みが続く晴天の午後、白く照り返しのある道を少女が一人歩いていた。
脇の斜面にあるわずかなロウバイの群生に差し掛かった所で、私は、少女の行く道をそっと立ちふさがるように歩み出た。
昼日中にシルクハット、マントの下はタキシード風衣装という私に驚く様子もなく、少女はゆっくりと立ち止まった。
風にあおられたマントに微かな反応を見た気がしたが、やはり風に巻かれ、枝から離れたロウバイの薄黄の花弁を、少女は追っただけだった。
少女は――、゛彼女゛は私を認識しない。
唯一、私の存在だけは認知しないよう、脳に手を加えられている。
その条件で、私は彼女を見守ることを許された。
間もなく7回目のショーが始まる。
原則として屋内退避が求められ、いま
澄んだ冷たい空気に時折風がある他は、どこか
街中にサイレンが響き渡る。
彼女が空を見上げた。
「今から彼らが行くよ―――」
私は話した。
彼女は空を見たままだ。
セレモニーが終わり、これから彼らは専用機で上空まで運ばれる。
撫ぜるように流れた風が、
文字どおり薄黄色の
花の少ない時期に凛と咲く美しい花木、なのにどこか控え目で静謐な――そのわずかな群生が、彼女にこの街を選んだ理由の一つだ。
私にとってロウバイはただ一つ、彼女との共通の記憶だった。
といっても木の名前を聞かれ、教えた。ただそれだけで、元の記憶に繋がる回避リストでもなく、私用の簡略式ではあるが、゛彼゛の衣装を真似をすることもまた、認識されない私であれば問題ない。
但し絶対ではないので直前まで迷い、それでも今日ここに着てきたのには
あの日の『真実』を知る者は私を含めわずかだ。
゛彼゛はほんの少し、彼女をびっくりさせようとしただけだった。
確かめる術はもう無いが、おそらくは、衣装の変更でがっかりした彼女を元気づけようとして…――少年らしい、純粋さだったのだ。そして彼女も普段なら、それと気づけたように思う。
私はずっとそれを伝えたかった。彼女にはいない私であれば、可能なことだったから――。
私が目の前にいる限り、ぼんやり
「こんなことになって、ゴメン、こんなことになるなんて思わなかった。君のせいじゃないんだ」
返事も、何も無かった。
足元に落ちた半透明のロウバイの花が、日の光を受けて綺麗だった。
シルクハットを脱ぎ、マントを脱いだ。
「…彼のせいでも、きっとなかった……俺は君たち2人を、君を、助けられなかった」
彼らはまだ中学生だった。
たとえ並外れた力を持ち、相応の運命を課せられたのだとしても、真実がどうあれ、失敗の責を負うのは私を含めた大人達であるべきなのだ。
なのに守られたのは彼だけで、事実は伏せられ歪められ、彼女だけが一身に非難を浴びることになった。
私はこの時もまた、無力だった。
(――だけど)
彼女は再び空を見上げた。
彼らは成功するだろう。自分たちの二の舞には決してならない。
「今度は守る、きっと守ってみせるから―――」
四時、UヨIHSうOHaMー帰ってください‼異世界への人口流出が止まりません!ー 季早伽弥 @n_tugatsu18
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