第16話

 ゛魔法を使う少女゛は、この国の少女がマンガやアニメなどで親しみ、一度は憧れる。

 それは彼女のささやかな望みだった。

 希望を聞いたデザイナー等に失笑が広がりかけた時、1人のスタッフがそれを遮り、優しい水色と、若草を思わせる黄緑を合わせた衣装が出来上がった。

 真冬に春を呼び込むような軽やかな衣装に、彼女はこれまでで一番嬉しそうに顔を綻ばせた。

 こっちはマジシャンだと、彼はマントを翻し身にまとうと、2人揃って顔を見合わせ、照れ笑いしていた。



 彼女はミエノ女史の予言どおり、強大な反発力を完璧に発揮し、制御出来るようになっていた。

 彼との息も合い、心配されていたメンタル面も、気づけば話すとき下を向きがちな癖も見なくなり、控え目なのは変わらぬものの、それは却ってしなやかな芯の強さを感じさせた。

 夜間訓練後の件も本番には影響無かった、という調査結果に私も同意だ。

 逆に2人の絆がより強まった出来事だったと思う。

 

 ―――こうして本番前日、上空での最終調整までを終えた。

 その際、彼女の衣装が破けるアクシデントが起き、壮行セレモニー直前で間に合ったのは第2案のものだった。

 私は自身の移動途中、偶然行き合いこれを知った。

 彼女は残念そうではあったが、気持ちが沈んでいる様子などはなく、同行の職員と笑顔で話していた。


 だが様子に安心して通り過ぎ、ふと気になって振り返った時、彼女の表情は心なしか強張って見えたのだ。

 本番への緊張とは異なる違和感を、なぜか感じた。


 だがそれも、直後に彼が来るなり新しい衣装を褒めそやす束の間のことで、或いは後から思えば私の簡略なのも含め、衣装は非常に特殊な生地で出来ていて、それが本番以外で裂けるだろうか、というこの時あった、微かな疑念がそう見せたのかもしれなかった。

 尤もこれはのちに探ってみたが、はっきりとしなかった。


 それでも私は後悔している。

 あの時直感を信じ、彼女に声を掛けていれば、一言でも言葉を交わすことが出来たなら、違う結果が待っていたのではないかと―――。



 午後4時過ぎ、3組目が挑んだミッションは失敗。 

 変化した異界物質による2度目の落下飛散――ジュエリーショーが始まった。





 

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