第8話

 ある空域より上昇することのないこの物質は、やはり気象に左右されることなく今度は横滑りに広がってゆき、この世界の成分や点在する他の異界物質も取り込んだり、融合したりしながら、緩やかに細長く繋がっていった。


 国の地形に沿うそれは、この異常がことごとくこの国に起因すると見えなくもなく、とはいえ観測では日照をはじめ、気象や環境等への障害は見られなかった。

 だがこれらが、徐々に色のついた雲霧状として目視されるようになった数日後の昼下がり、全てが一変した。

 つらなった異界物質の一カ所で突如物質が急成長を始めると、そこからすべての物質が加速度的、連鎖反応的に成長を始めたのち、落下飛散をはじめたのだ。




 急成長した1つ1つの粒子は、最大でも全長数センチを超える物はなく、様々な色、形状、透度、質感を認めることが出来、さながら宝石か綺麗な鉱物のようで、それが個別の生き物であるかのように1コ1コ、或いは密集して多方向に煌きながら飛んで行く様は見る者の目を奪った。

『ジュエリーショー』と呼ばれる所以である。


 だが美しいショーの終着点は゛惨劇゛の開演へと続いた。

 成長し、落下飛散をはじめた異界物質に共通する法則は、最悪と言っていいものだった。


 これら物質は途中で消滅することなく、ほぼ全て地上に到達し、例外なく地上のと接触して、される形で消えるのだ。

 しかも識別可能な同種と思われる個体も含め、落下速度、飛距離の法則は不明。中には落下途中にロストし、一瞬後に数千キロ離れた地点で再観測されるたぐいも少なくなかった。

 つまり予測を立て回避するのは非常に難しい。

 『接触』は、単純な衝突の他、軽く触れただけで生物や機器の内部に狂いを生じさせるのもあり、航空機の落下、走行中の鉄道などの事故も引き起こされ、これだけでも有史以来の大惨事となった。



 要はこの国上空に溜まった異界物質は、成長し落下が始まったが最後、世界中に飛散して惨禍をあらゆる国々に巻き散らし、所構わずこの世の地獄を再現するということである―――。


 

 

 







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