第7話

 2人と別れ意味の無い感傷ののち、マンションに寄ったついでに端末を開いた。


「乃村さん!明日の説得対象者は異界地で林業女子(?)をしてるそうです。服装はどうすればいいですか?それとラムネさんが男の人のスーツにヘルメット姿って萌えるよねって――」 

(飛羽流さんのメール、もう少しどうにかした方がいいな…)


 途中飛び込んだメールに苦笑しつつ、再び黒い糸をぐしゃぐしゃにしたような、言葉の羅列を追う。

 ネット上に溢れる゛失敗した少女゛への誹謗中傷を、政府の異界対策室という肩書きで削除を求め、殺害予告、レイプ予告など強く犯罪性を伴うものは対策室に回し個別対応を要請する。

 だがあらゆる言語で世界中に蔓延するそれら悪意は野放し状態で、殺害予告者などが捕まったという知らせも無い。私の行為もきっと、焼け石に水だろう。


 それでも今日まで、この作業を怠ることは1日も無かった。

 ゛失敗した少女゛――。

 初めて見たその彼女はまだあどけなさも残る中学生で、不安げに机の上の通学カバンに手を重ねていた。

 突然国の中枢に連れて来られ、次回起きる異界物質の落下飛散を防ぐよう言われたのだから当然だった。




 この国で起きた、多様な異界への接点が数多あまた出現する現象は、これら異界接点から人々が新しい人生を求め出奔するという事態を引き起こした。

 殊に若年層の流出が顕著であり、若者の生きづらさを象徴するものとして、広く非難を伴う指摘も受けた国が、迅速な対処に追われる中でそれは起きた。


 ――国土にランダムに散らばる異界接点は、その場所に常時出現しているわけではない。『点滅現象』と呼ばれ、現れたり消えたりを不定期に繰り返す。その際、何らかの微粒子が異界側(または異界とこちらの隙間から)から流れ込むことが分かったのだ。

 その残留異界粒子(最終形態を優先し『異界物質』とされる)は、大気の流れにほぼ左右されることなく上昇し、ある空域で留まる。

 異界への出入りも物質を増やす一因で、つまりこの国上空に異界の成分が日々溜まってゆくこととなった。




 

 

 




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