第2話

「――きっかけは、1人目の『自力帰国者』だった。

 数ヵ月間行方不明だった少年が、失踪付近から数十キロ離れた場所で発見された。数ヵ月もどこへ…という警官の問いに彼は」

「異世界にいたって答えた。何で真っ正直に答えたのかしら、信じて貰えるわけないのに」

「でも担当警察官は彼の話を最後までちゃんと聞いたそうだよ、作り話にしてはやけに詳細な上、まるで本当に経験したかの様で、つい聞き入ってしまったって、――実際真実だったわけだけど」

「それまとめサイトで見た。ラノベとか好きな子が凄い、行きたいって羨ましがってた」

「言っとくけど―、ああいうのは――」

「真偽入り混じりなことくらい分かってるわよ」


「信じてしまう人も多い…。一応、異界地で見聞きしたことを公開したり、営利目的に使ってはいけないことになってる。誓約書もサインしてもらうし、破れば罰則もあるんだけど」

「そうなの?知らなかった、言っちゃダメなのは分からないでもだけど、1人分くらい正式発表すればいいのに、気になるから皆つつくんでしょ。

 こことか『この最初の生還者で異世界との接点の存在が判明した』ってあるけど、どうせならその子の話した内容、書いとけば面白いのに」

「そうだね…じゃあ取り敢えずきっかけ部分だけでも補足しようか、1人目の生還…自力帰国者は地方の男子中学生だった。

 行方不明になった当日彼は、その頃中高生の間で話題になっていたネットの゛噂゛を確かめるべく街中まちなかに行き、スマートフォンのカメラを起動させた」


「そのまま画面見ながら歩いてたら本物の異世界が発見出来る――ってやつね、うちの学校でもやってた人いた。流行ってるってほどじゃなかったけど――」

「時々休憩しつつ、1時間程あちこち見て回ったそうだよ。そして、現在この接点は消滅してるけど、彼はある場所で画面に現実には無い風景を見た――。彼が言うには、

『リアル系ゲームっぽい光景で、不思議な生物と、露出度がまあまあ高い衣服の、凄く綺麗な少女が森の中で闘っていた。でも画面から目を逸らすと、何の変哲もない空間だった』

 アプリの新機能かと首を傾げつつ、彼は画面の光景をハラハラして見守った。

 中では少女が謎生物に追い詰められていく――音声は無いが対峙する彼女の真剣さは本物で、何とかしたいと画面に触ったがどうにもならず、状況はいよいよ緊迫。

 遂に謎生物が彼女に襲い掛かった時、彼は『危ない!』と叫び端末を手に思わずその光景辺りに足を進め、次の瞬間、その地に立っていた――。

 以降の異界での経緯は長いし省くけど、少女と少女を助けに来た仲間達と行動を共にすることになった彼は、感覚としてはこの世界で3年半過ごし、湖畔で仲間と水遊びをしている最中、巨大な水中生物に襲われ気を失い、目覚めると数ヵ月後の元の世界に戻っていた」


「あれね、ニュースで見た。行方不明の中学生が発見されたって、けっこう騒ぎになったし、あの辺からよね、10代の行方不明が急増したのって」

「それに、2人目の自力帰国者が出たのもこの頃だった」


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