第14話

 視線の先で2人が横並びに頭を寄せ合って動画を見ていた。 

 大人達の中で10代の彼らはとりわけ目立つ。

 私は昼休憩で食堂にいた。


 楽し気な2人に「そこの仲良し箸が止まってるぞ」と通り掛かった職員が冷やかす。

 彼女は慌てて箸を取るが、彼は何か言い返して動画を見せ相手を立ち止まらせると、結局3人で見始めた。更に数人が寄って覗き込む――気安さと同時に周りの目を引くカリスマ性が彼にはあるようだった。


 言われた通り、私は常に2人の視界から入りにくい場所にいたが、こんな風に彼の周りには自然と人が集まったから、そんな時は気にせず視線を向けた。単純に年若い彼らが微笑ましいのだ。

 面白いシーンでもあったのかどっと笑いが起きた時、突然頭上から声が降った。

「君がその②だな?最悪、君が操者を誘導してミッションを完了させる場合もある。10代の娘とスムーズに意思疎通ができるようシミュレーションしておきたまえよ」

 慌てて麺を飲み込み振り向いたが、声の主は誰だか分からなかった。



 何だったのかと思った翌日、私は操者の彼女の声を元にした合成音声相手に必死に、落ち着いて、大丈夫だから従ってと苦心惨憺、演技をすることとなった。

 作戦時、操者と作り手間の距離は大きく、視認もできない為レシーバーで会話し、指示も仰ぐ。

 この日の訓練は意識を失った彼に代わり、私が彼女に状況を知らせ、作戦続行を伝えるものだった。


「もっと分かり易い言葉で簡潔に!声が暗すぎる、相手は13の女の子だぞっもっと喋り方に工夫を凝らせ!おい今度は早口になってるぞ!!」

 しかも通常、指導官1人に技術者だけなのが途中から聞き覚えのある゛声゛が加わると、私はこの声にコテンパンにされた。

「脳内会話しとけと言ったろう、舐めてんのか」

 ……そうは言ってないと思ったが全く理不尽な責めではなく、済みませんと謝った。



 私が合成音声の少女との会話などに艱難辛苦する間、本物の彼女は短期間で驚くほどの成果を出した。

 内気で精神面も脆弱、それが力の制御に影響を及ぼすとされていた彼女だが、目覚ましい進歩に、溌剌とした表情も見られるようになった。


 各分野の権威集結によるプログラムの、想定内だったかも知れないが、ペアである彼の存在も欠かせないと、誰もが感じていた筈だ。

 訓練中の声掛けひとつ取っても、彼女自身に動き方を気づかせるものだったりと「俺いらないな」と指導官に言わせた上、時に落ち込む彼女を慰めるにもあの容姿だ。

 強い相互信頼が必須な作戦において、一方の恋愛感情はどうなのだろうかと思いつつ、だが相手が彼ではやむなしか――そう思っていた私に、成果は当然だと言った人がいた。


「泣かないだろ、彼女」

 言われれば訓練は時に相当過酷だったが、たとえ個人訓練でも、彼女はしょっちゅう涙を溜めてはいたが、それ以外覚えは無い。

「能力者として政府から要請を受けた際も、始終真っ青だったが躊躇わず、しっかりと頷いたそうだ。

 簡易測定から尋常でなかったから予感はあったんだろうが、普通、世界を救える力があるからそうしろ、と言われてすぐさま受け入れるか?私なんか実感すら涌かないさ、その点彼女は大したものだよ」

「…きっと強いんですね彼女は――」


「いや、あの少女は弱いことは弱い」

 いま大したものだと言わなかったか?

「機関の評価は間違っちゃいない。だがこの力は紛れもなく自分のだと、どうしよもなく分かってしまったんだろう――その時点で逃げ場は無い。

 そこは確かに彼女を強くしたし、他のむすめ達と比べても己が最強だと分かれば腹もくくる他ないしな、泣いちゃおれないさ。

 その上で元々100備わってる力をにすることは、0から1の習得に比べればさほど難しくないし、上達も倍々だ」


「技術はこのまま問題なく向上する。後は自主性、対抗心――少年とケンカくらい出来るようになって欲しいところだが…ペアがあれで釣り合いは取れてるかもしれないが、それはそれで困ったもんだ」

 暇潰しが済んだのか、そこまで捲し立てるとその人はじゃあと去ってしまった。


 頭上から声を掛けられたり訓練で扱しごかれたりと、声だけなら知っていたものの、姿を見たのは今日が初めてだった。

 いや、美貌と薄着とスタイルでやたら目立つ人なので、姿だけならよく知る人物とも言えた。


 言葉遣いまで一風変わってるのだなと、私はやや呆気に取られ見送った。




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