第13話

「彼らこそ世界を守る、類まれな力を持つ存在なのです!」


 この国初となる『異界物質操者』の彼女と、『磁界の作り手』の彼が正式にお披露目となり、華やかな壇上で首相自ら2人を紹介すると、過剰とも思える大量のフラッシュが瞬いた。

 こうして数ヵ月後の『異界物質の落下飛散』阻止に向けての訓練が本格的に始まった。



 密かに『その②』となった私も訓練施設に入り、表向きは国の異界対策機関(異世界流出者を捜索し連れ戻したり、現地調査など行う)への配属待ちという身分となった。

 ここの施設と人員もほぼ急造、寄せ集めで、1人でいがちな私でも然程目立ちはしなかったが、改めて2人への接触は極力控えるよう指示された。

 反面、私の生活は訓練する2人をベースに決められており、これは言うまでもなく理由があって、演習や訓練からミッションの行程や、2人の間合いを頭に入れるためだった。

 そしてこれを見守るうち私は彼らを――時に自信過剰だが憎めない、天才肌でやんちゃな弟と、物静かで器用ではないが、懸命に訓練に励む妹を、応援する兄のような気持ちになっていった。

 

 とはいえごく当初、゛彼゛への苦手意識があったのだ。

 ひとつには彼のいる富裕層や、特権階級といった゛層゛を、ここでは意識せざるを得ないからでもあった。



 ひょんなことから国家中枢にほど近い組織に入った私は、元は高卒で大した資格も無く、非正規で仕事を転々としていた。

 それからすれば、破格の賃金と待遇は幸せには違いなかったが、その場所は私の知る世間一般とは大きく掛け離れていた。

 まま居心地悪さを感じ、こちらの素性を知る相手の無自覚な見下しや、存在無視も重なれば気が滅入った。


 こうした私事情と、彼と、彼の背景とを一緒くたにしても仕方なかったが、天は与える者には二物も三物も与えるのだと思ったものだ。

 ――要は苦手なのではなく、羨ましさを感じていたのだと気づいたのは、正に彼らの訓練中だった。

 自分が世界を救いたいのか、と自問すれば答えはNOで、また彼の存在があってこそ、自分は不要だと、余計な事を思い悩めたのだと気が付いた。

 私は死ぬほど恥じ入った。いい大人がとひたすら恥じ、以降、多少のことなど気にならなくなった。今も同じだ。




 忸怩たるエピソードは置き、2人と共に私の訓練も始まった。

 さすがは国の威信を掛けるだけあり、私と言えど体作り始め様々なメニューが課せられたし、設備も最新式、最高技術のもので、圧巻はシミュレーターだった。

 何もない空間に突如、異界物質が漂う上空の場景が浮かび上がると、VRの筈なのに現実としか思えない感覚に陥る。


 これで演習をし、上空移動の訓練も行った。

 能力者は力の発動で、密集する異界物質を足場に空中にとどまれ、あらゆる気象条件の影響も受けず生身でいられる。

 私も2人ほどたくみでないが当て嵌まるのだが、こうした体感までリアルに過ぎ、初めて体験した時は中断を繰り返し、溜息を吐かれた。

 私の場合、全身に周囲の風景が投影され姿が消えるので、身体感覚を掴み難いのだ。

 この状態で有事には物質中を移動、または磁界付近まで弾みたく打ち出すから、とのことだった――。



 

 




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