走って逃げた。
その日は、寝て一日学校を休んでやろうと思っていたが、哀れな母親の目を見ると学校にいかざるをえなくなった。
僕はサイコパスではない。
クラスでは、遠藤が同じく不良仲間の
完徹にあたる僕は、ぼーっとしていたが、遠藤の右手首に目を止めた。
包帯をしている。
まさか、。
「なに、見とんの、もぉーりたぁー」
遠藤になにかされるんじゃないかと、思い、びくっと怖気づいた僕を見て遠藤と南條はどわっと、ウケて、大笑いした。
僕は席についた。
出欠を取りに、担任の
えっ、目を疑った。溝上麗子は、足に包帯を巻いていた。
怪我の位置が、、偶然だろうか?。
クラスの出欠確認は淡々と進んでいく。
「
「はい」
「
「はい」
「
「うぃーす」
遠藤のこの返事にクラスとしては、ウケないといけないのだが、あまりにも笑えないので変な空気にクラスがなる。僕は、あまりにも遠藤が気になって、遠藤の方向に振り返って、見てしまった。
「なにを、見とんのもーりぃた、ぶち殺すぞ」
と遠藤が
しかし、確かに、遠藤は、右手首に包帯を巻いている。
「遠藤くん」
溝上麗子が、軽く、たしなめた。
「
「はい」
「
「はい」、。
それから、僕にしては、珍しく、すべての授業に出席したが、殆ど内容も記憶もない一日だった。
僕は、その日、まぁ、いつもだが逃げるように学校を出て帰宅するのだが、学校を出ると一目散で家に向かった。
そしてバイパスの下を通るトンネルの歩道で、なんと、遠藤に出くわした。
僕は、遠藤が午後からの授業をサボって早引けしてることに気づいていなかった。
新しい吸い殻が、バイパスの下の歩道にたくさん落ちていた。遠藤の制服からは、タバコの匂いが強烈に漂っていた。
「いよー森田」
マジモードのときは伸ばして名前を呼ばない。
僕の目は、それより遠藤の包帯を巻いた右手首に釘付けだった。
やはり怪我をしている。
「今日、久々に学校にちゃんと来てたじゃん、なにゆえに?」
僕は身構え、後ろに何時でも、逃げれる体勢をとったが、ちらっと後ろを見ると
遠藤と同じく不良の最下層に位置する、南條が足をぶらつかせて、横には、ショート缶の缶コーヒーを置きバイパスのフェンス脇の縁石に腰掛けていた。
「あのさぁ、おれっさ、ここんとこさー、金欠なのよ、貸してくんない?」
嫌がらせが、一段階、今までより上がった。これは、れっきとした恐喝だ。
遠藤も不良の例外なく躰だけは、でかい。
まるで、<
「金は、今持っていない」
僕は、震えるような小さい声で、言った。
不良の
「じゃあ、持ってるときは、貸してくれんの?」
と、遠藤。
殴られるか、金を取られるか、どっちかだ。
後ろで、南條が一段下の歩道にどすんと、飛び降り、ゆっくりこっちに歩いてきた。
僕は、こう考えている。不良と一般生徒の違いは、根性が決まっているか、どうかだ、つまり、覚悟があるかどうか。
みんな、不良のように生きたいが、出来ない。なぜなら、次に高校にいかなければ、ならないか、もしくは、自分の希望する高校に、いきたいからだ。
不良たちは、違う。目先の快楽や楽しいことを優先することをチョイスしている、高校受験は諦めているか、今の高いヒエラルキーに居る楽しい中学生活に比べるとどっちでもいいと思っている。
僕は学年をしめている、番長の氏家や、目の前の遠藤に比べると弱い人間だが、一般の生徒に比べて、欠席をしたり、早退したりと、覚悟を決めているという意味では、完全にいや、もしかすると、人生を投げているという意味でも不良達より、覚悟を決めているかもしれない。
ある意味、僕は、弱すぎるかもしれないが、一般の生徒ではないのだ。
勇気だ、勇気しかない。
僕は、いつも重くて仕方のない、カバンを振りかぶった。
「利子ってかたちでさ、森田にさぁ」
そんな行動に出ると、遠藤は思いもよらなかったらしい。
なんの構えも備えも遠藤はとっていなかった。
僕は、自分のカバンを思いきっきり、振り回し、遠藤の包帯を巻いた、右手に打ち付けた。
その包帯めがけて。
「痛ぇーっ」
遠藤は、信じられないくらい、大きな悲鳴を上げた。
僕は、その
この立ち回りを見ていて、気付いた南條は、追いかけだしたが、まだはるか後方に居た。
僕は、走りに走った。
連中に捕まったらと、いう恐怖が、僕の足を動かしてくれた。恐怖が、僕の心肺機能を高地トレーニング後なみに上げてくれた。
普通のドラマや、小説なら、ここで、主人公は、走り逃げおおせるのだろうが、いかんせん、僕は、不登校引きこもりの問題児だ。運動不足なことは必定だ。バイパスの下をくぐり抜けたところで、遠藤に首根っこを持たれ、真後ろに引き倒された。
「森田、てめーっ」
僕は、反射的に頭と顔を腕でガードして、守ったが、これが、余計でイケなかった。
思いっきり、腹を蹴られ肋骨をもう一発蹴られた。
「これが、利子だよ。学校に来ねえ、半人前さんよ」
最後の一発を蹴ったのは、後ろから、追いかけてきた、南條だった。
遠藤は、手首の痛みに耐えかねて、一発しか蹴りつけられなかったのだ。
僕は、二人の不良を、遊歩道に横たわり、両腕で顔をガードしたまま、殺意のこもった目で睨みつけていた。
いたぶられた人間が、どんな気持ちになるか、この不良たちは、まだ理解していないらしい。
ひっくり返された亀のようになっている、僕を置いて、遠藤と南條は去っていった。
僕は、長々と二人の背中を見た挙句、マンションに帰った。
あいつらは、絶対、殺してやる。獣みたいに狩ってやる。
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