ゲームへ逃げた。

 僕は、どうにか生きていた。

 しかし、家族を避けるため、昼夜は逆転し日中はひたすら眠り、深夜11時頃、両親が眠ると起き出し、ごそごそ活動。

 次第に両親がだめになっていった。二人して別々の心療内科に通いだした。

 二人とも、山のような睡眠導入剤を医師から処方された。

 母親は薬に頼る罪悪感から飲まなかったが、父親はガブガブ飲んでいた。

 そして、僕は、母と父の睡眠導入剤をWダブルで正確には父とは奪い合いながら飲んでいたので1.5倍ぐらいだが、睡眠導入剤を盛大に飲んでいた。

 とにかく、眠かった。毎日は、飛ぶように過ぎた。

 日本に居ながら、8時間ぐらい時差をもうけて、生きていた。人に会わず。コンビニの店員でさえ、僕を邪険にあつかった。

 あっという間に、睡眠導入剤の耐性が体に出来て当初ほど眠れなくなったが、やはり、医師が出す処方薬は恐ろしい。市販のよく眠れる薬とは効き方は全然違った、信られないときに、信じられない間眠った。

 そして寝たいときには寝られず、ただただ辛かった。そして起きていたいときに眠り。昼夜逆転から、さらに再逆転がおき、もう一回逆転が起こり、ラリーカーの事故みたいになっていた。

 何回転してるか、ドライバーにもナビゲイターにも観客にもわからない。

 だけど、わかるだろう、横転するたびに、車はどんどんボロボロになっていく。

 深夜番組は当たりハズレが大きかった。ヒットするものは、たった30分でもイチローの安打数のようにヒットし続けたが、見るものが、一切ない、恐怖の曜日もきっちり存在した。


 そのころ、僕は、夢の中でも、遠藤に追いかけられ、現実でも遠藤に追いかけられ、どうしたらいいのか、わからなかった。

 中学生を指導する立場にあるはずの担任や、親でさえわからないのだから、若干14年ぐらいしか、経験値がない僕にわかるはずがなかった。 

 しかも、血液中には、厚生省が安全と定めた1.5倍の血中濃度で睡眠導入剤がドロドロと流れ、脳を起こしたり寝かしたり、脳内をドラゴンが、のたうちまわっていた。 


 僕は、出来ることなら、次元の狭間へでも、生きたかったが、残念ながら、この重力と時間軸を入れた五次元で僕は、生きていて僕の体はそう生きるようにしかできていない。


 でも生きていた。正確には生き方でなく、死に方を理解していないだけだが、精神を、0と1の間に置くという生き方を始めた。1/2や0.5ではない。父親が溜め込んだ文庫本でも読めばいいのだろうが、読む気がしない、どうせ僕より頭の悪いやつが書いた、くだらない文章だろう。それなら、夢で遠藤と会い精神的や肉体的苦痛の方を選びたい。

 僕は、TVの画面をゲーム機器のモニターとして、使い精神だけを0と1の間に落とし込んだ。

 正確にはシュレディンガーの猫である、0に居るのか1に居るのか、僕にもわからない。

 

 そんなことは、どっちでもよくて、僕は、日々、遠藤から嫌がらせを受けつつ、昼夜逆転しつつ家庭用ゲーム機器に自分を落とし込んでいた。そう、体は、この五次元に残しつつ、精神だけは回りをポリゴンで作られた、縦横奥行き、HP、時間軸、そうやっぱりここも五次元だったのだ。


 ゲーム名は、『ザ・グレート・ファンタジア』。

 オンラインのRPGゲームだ。一番売れてる家庭用ゲーム機器の大ヒットRPGゲーム。ポリゴンで描かれたキャラクターを何パターンかだけどパーツを組み合わし製作し設定。ファンジアと呼ばれる世界を旅しアイテムを集めレベルを上げ、このファンタジアを破壊する大魔王ゴルゴディアンを倒すためオンラインしている他のキャラと力を合わせ戦う。

 そして、アイテムを奪い合うため仲間たちと争い戦うこともある。

 前から、家庭用ゲーム機器は持っていたがシューティングゲームで正に時間潰すためにプレーしていただけだった。『ザ・グレート・ファンタジア』をやりはじめてから少し僕は変わった。実は逆だ、少し変わったから時間のかかるRPGに自分を嵌めこんだのだ。


 最初は、お決まりの延々走り。操作方法もわからないのでコントローラーで、どっかに向けて走るだけ。

 3DCGだから、ちょっと爽快感はあるがここにも端っこはあった。その世界の端っこで方向転換されながら斜めに走る我がキャラ<ジークフリート>を見ていると自分を見ているような、いたたまれない気持ちになる。

 で不作為に現れる雑魚敵キャラ色とりどりのリーチにぶつかって、いたずらにHPを減らしていき死んでいくのがパターン。

 このへんが大体そのゲームにハマるかどうかの瀬戸際だ。

 しかし、僕はここで生きるしかない。

 やるしかないのだ。


 みんな、このファンタジアでは思い通りの名前と姿で暮らしている、そして大魔王ゴルゴディアンが送り込んでくる、ありとあらゆる魔獣と戦っている。共闘し技をコンボさせ千ピクセルも爆発光を立ち上げて。

 HPだけ気にしていれば食べることも寝ることも勉強することもない。そしてなにより不良や嫌がらせをするやつはいない。

 だけど、ここでは魔獣と戦わなければならない。


 また、狭いワールドの中の奪い合いが、このゲームのモットーだが、中には本当に良い人も居て、こっちが閉口してしまう。

 奪い合う敵でなく、もうひとりの自分なのだ。そう思うと泣けてくる。


 僕は、現実で過ごす時間より、ネットの中で過ごす時間の方が、長くなった。

 ネット・ゲームほどシステム的によく出来たシステムはない。無料で人を集め課金したやつにしか勝たせない。ログインしたほど得になるシステムで、やればやるほど、特になるように設定されている。

 無料でプレーする人間は、課金するプレーヤーのヤラれ役でしかないけど、どんな状況でも、やりがいと目的が見つかるように設定されている。

 人生もこうだといいのに。

 

 どんどんログインしている時間が増え、寝落ちするケースも増えてきた。もうこうなるとテクスチャーを貼られた世界が現実なのか、日常が現実なのか、わからなくなってくる。


 僕は、本当に勇者<ジークフリート>だった。本気で、テクスチャーが貼られただけのポリゴンの躰で、テクスチャーの貼られたポリゴンの丘を駆け登り、ポリゴンの塊の魔獣を倒した。たった1ピクセルの攻防、1バイトの駆け引きを現実と変わらずに、感じていた。


 馴染みの、ワールド19内でのキャラ、アバターも増えた。みんなマップを憶えようとするためログインするワールドが固定化されてくる。いわゆるムラ化。

 長身の<ダイダラボッチ>に、光る青い目をした<青内障せいないしょう>。

 背の低いがっしり体型の<ドワーフ・キングDwarf King>。

 躰は人間だが、頭が竜で尾は蛇な<竜頭蛇尾>。

 シリコンを入れても、こうなはならないだろうという超巨乳の<爆乳ちゃん>こういうのは、大概男性がプレーヤーだ。

 ゾンビの姿をした<クランベリーズCranberries>きっと洋楽オタク。

 バットを持ち、プロ野球のメットをかぶった<東京ブリューワーズBrewers>今時、プロ野球ファンだなんて、くすくす、きっとJリーグがなかったころ育った年配のプレーヤー。鬼のようなルックスの<育成枠非正規社員>マジで悲しすぎる。


 この前、鎧だけは、重武装の華奢な女性のアバターいや、違った、キャラに話しかけられた。

 名前は、<軍猫ぐんびょう>普通、大体、女性キャラだと巨乳に設定するのに、か細い、女性キャラ。操作する人は女性だと見た。

[変わった、プレースタイル、wwwww]

 <軍猫ぐんびょう>が言った。

ちょっとカチンと来た。

[はーっ!?]

 とか、書いてやろうかと、思ったが、<ジークフリート>は無表情のまま、屹立している。

軍猫ぐんびょう>の長いストレートヘアーが美しい、いや、ポリゴンに黒い髪の毛を貼ってあるだけか??。

 こういう時は、無視するに限るが、その時、あたりの1ピクセルもポリゴンがチリチリ仕出した。そして<ジークフリート>と<軍猫ぐんびょう>の回りでブォーンと七色の効果光が光った。

 この効果光が出るキャラは、Lvが20以上の証拠、<黒の拳ブラック・フィスト>が現れた。<ジークフリート>や<軍猫ぐんびょう>の背丈は3倍ぐらいある。超大柄は黒ひげのマッチョ・キャラで、こぶしを模した、兜をかぶり、目はアニメの透過光処理のように爛々らんらんと光っている。

 <黒の拳ブラック・フィスト>が、動くたびに、当りのポリゴンがCPUの演算処理をこえているのか、ビリビリモザイク化し、肌がひりひりする。<黒の拳ブラック・フィスト>左手にこぶしの紋章の入った、円形の盾、右手に、超大型の長剣ダンビラを持っている。

[ぬーーーーー]

 <黒の拳ブラック・フィスト>が唸り声をあげ、長剣だんびら振りかぶった。

 僕は、左左、2ボタンの防御、コンボ、『レトクトゥリア』を何度も、入力。

 ジークフリートもしゃがみこみ、左手で保持した盾を頭上にかざし、身を守る。

 ガクィーン、ガクィーンと、ソフトメーカーも苦心したであろう、強烈な効果音が鳴り響く。

 <ジークフリート>のHPはどんどん減っていく。

 誰かが、大魔王に攻撃されているときは、近くの者が助け合うのが暗黙のルールだが、ここで、さっさと逃げるものと、助けに来るものとに別れる。画面右下のレーダー画面で色んなキャラ、アバターが動き回るのが、わかる。誰も助けにこない、みんな逃げ惑っている。HPがこんな勢いで下がるのを僕は見たことはない。

 そして、僕は、動くのが、苦しい、息も絶え絶えだ。

 効果音は続く。<黒の拳ブラック・フィスト>は、<軍猫ぐんびょう>にも攻撃をを割り振り始めた。 

 <軍猫ぐんびょう>も防御コンボ技、『レトクトゥリア』で必死の防御だ。

 <黒の拳ブラック・フィスト>の攻撃が、<軍猫ぐんびょう>に移った、瞬間に僕は、方向スティックを操作し直し、<ジークフリート>の位置を少し変え、必殺の攻撃技、『ガビストア』を繰り出した。<ジークフリート>の十八番おはこだ。

 右の4ボタンを連打し、コンボを貯める。どんどん技のコンボゲージが上昇しているのが、わかる。

 その間、<黒の拳ブラック・フィスト>は、<軍猫ぐんびょう>の足に執拗に足払いをかける、<軍猫ぐんびょう>を操作する人は、おそらく女性だが、コントロールキーの下を押し、屈んで、防御コンボ技、『レトクトゥリア』で受けている、しかし、それも限界がある。<軍猫ぐんびょう>の頭上のHPがどんどん下がっていく。

 僕は、<ジークフリート>に目を向けた。

 いまだ!!。ハイパーコンボまで、ゲージがあがり、ゲージは赤から、黄色にキラキラと輝き出した。

『メガ・ダンヅストア!』

『メガ・ダンヅストア!』

『メガ・ダンヅストア!』

『メガ・ダンヅストア!』

『メガ・ダンヅストア!』

 ハイパーコンボの技は、<黒の拳ブラック・フィスト>のだんびらを持っている手、手首に集中的にヒットした。

 <黒の拳ブラック・フィスト>、痛みと苦しみの相混ざった、唸り声を上げ、大きく、仰け反り、のたうち舞った。<黒の拳ブラック・フィスト>のHPが大きく、下がっていった。

[今よ]

 <軍猫ぐんびょう>が、とどめを刺すため、<ジークフリート>二人で行うダブルコンボに、向かうのかと、思いきや、<ジークフリート>の手首を掴むと、強制、離脱で違うワールドへ飛んでしまった。

 僕は、怒りのあまり、コントローラーを床に投げつけた。

 窓の外を見ると、外が白々と開け始めていた。

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