ザ・グレート・ファンタジア
美作為朝
中学校から逃げた。
僕が、耐えられなくなったのは、夢の中まで、
もう逃げ場所が本当になくなったと思った。遠藤が夢の中に登場した夜、僕は、飛び起きて、TVをつけ、早朝の無意味な情報番組まで、ずーっと砂嵐の画面を凝視していた。
僕は、中学生で、不登校と生活指導部の要注意生徒の間をピンポン玉のようにいったりきたりしていた、まるで何時途切れるともしれない、ラリーを続けていた。
僕は、朝きっちり登校したかと思えば、昼からは、バックれたり、給食前にふらっと学校に来たりと、遅刻と、早退のラインを寸度刻みのバレル・ロールで幾重に繰り返していた。
当然、僕はクラスでは、孤立していた。いや、孤立しているから、そんな学校生活を送っていたのだ。
クラス全員から、いじめられてはいなかったが、なんの庇護も援護射撃もなかった、ただクラスに座っていた。文字通り、ただ座っていた。
学年は、
正に
そして、氏家は、その配下の不良仲間に対しては、力と恐怖で支配する圧政を敷いていた。
最大の原因はここにあったが、僕や普通のクラスメートがそれに口を出せるわけがない。
ストレスと不満は、どんどん下の階層に押し付けられていく。
これは、宇宙における 万物理論といってもいい。
氏家が敷いた圧政や、徴税システムは、配下の不良を経て更に弱い、我々一般生徒に降り掛かってきた。下部組織にあたる不良たちは、氏家から受けたままの恐怖政治を一般生徒、とりわけ、孤立している僕、
僕は、不良メンバーの最下層の遠藤という男に目をつけられていた。
遠藤からすると、典型的なソフト・ターゲットだったわけだ。クラスに友人がおらず、いつも一人、そして、遅れてやってくるわ、勝手に帰っていくわで、普通のクラスメートでも僕の存在は、面白くないだろう。
しかも、頭の良かった(と勝手に思っているだけだったが、実際に良かった)僕は、そんな登下校の状況でも、勉強に遅れることにはならなかった。
これも僕に言わせれば、真逆だ。こんな出席状況でも学力を維持できるので、遅刻早退を繰り返せるのだ。
遠藤は、そんな僕にいち早く目をつけた。
「もぉーりたぁー」
この呼び方をするのは、氏家のやり方である。そして、相手が一番嫌がりそうな仇名をつける。
僕は、とっさに、危険を察知してカバンに勉強道具をまとめ退避行動に移ったが、そんなものは、遠藤はお見通しである。明確な意図を持って絡んできているので、想定内なわけだ。
教室から、早足で出ようと思ったら、目の前に遠藤が立っていた、不良に逃げ道を防がれたときの恐怖感といったら例えようがない。
「なぜ、もーりたぁだけ先に帰るのかな」
そう言うや、僕の肩にかけていたカバンを無理やり奪い取ると、丁度、空いていた教室の窓からカバンを遠心力をつけて、ハンマー投げのように投げた。
カバンは、市の中学記録なみに跳んだ。
教室は、三階にあった。急いでいたためカバンは締まってなかった。すべての勉強道具、教科書、ノート、筆箱が三階から運動場にぶちまけられた。ありとあらゆる慣性や万有引力の法則にしたがい物理演算されパーティクルになって、ばらまかれた。
時間は丁度、予鈴がなり授業が始まる直前、先生がやってくるまでの短い間である。
三階から、勉強道具が運動場にぶちまけられたとあって体育教師がいち早く気づき、運動場では怒鳴り声がしだした。
さすがの遠藤もやりすぎたかと躊躇している間に僕は、遠藤の間横をすり抜け教室から飛び出た。
丁度、クラスの次の授業は担任の
廊下に飛び出た所、目の前には指導要領と出席簿を持った溝上麗子がいた。最近晩婚をしどうにか幸せを手に入れた女。僕を守れない女。不登校の問題児を指導しきれない女。年の割には若く見える女。容姿はそれほどでもないが、安っぽい新しい衣装だけは拘る女。ようやく捕獲した旦那の顔を見てみたいが対象の異性を想像するだけで気持ち悪ささえ感じる女。
僕は殺意もあるぐらいの目つきで溝上麗子を睨みつけ、走って運動場に向かった。
「森田くん」
溝上麗子が、僕に声をかけたが。僕が止まるわけもない。
ストレスと不満は、下の階層に押し付けられていく。
僕も遠藤と同じく、更に下の溝上麗子にストレスと不満を押し付けていた。
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