『死体の無い殺人事件②』
「貴様の面子を潰さないために、形だけは取り調べをしてやる。……今度奢れ」
「あ、ああ! 近くに良いバーを見つけたんだ、紹介しよう」
「チェルムスフォードの良いバーか。心当たりがありすぎて楽しみだ」
そんな空っぽなやり取りを交わして、私はもう一度取り調べ室へと入る。廊下よりも暗く感じるのは、これがオーラというものなのか、ケイト・フォランダーの放つ陰鬱な雰囲気が、私の肩にも重くのしかかる。
「さて、では、話を聞こう。殺害までの経緯を……つまり、君の事を、聞かせてくれないか」
「……私の事を……ですか?」
「そう、君の事を、なるべく詳しく」
「はい…………私は、とても良い家庭に産まれたのだと、幸せなのだと、そう思っていました」
そうして、ゆっくりと、ケイト・フォランダーは語り出すのだ。
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「ケイトは良い子だね」
そう言って、パパに頭を撫でて貰うのが好きでした。
お仕事の休み一緒に遊んでくれるパパが好きでした。
学校の先生に褒められると、パパもママも喜んでくれるのが嬉しく思っていました。
「ケイトちゃんは良い子だね」
沢山の人に褒められました。
パパとママはとても仲良しでした。
でもある日、いきなり仲が悪くなって、いきなりパパが居なくなりました。
「ケイトは良い子だから、あんな金の管理が甘い女の所へ居てはいけない。こっちへおいで」
とパパが言いました。
「ケイトは良い子だから、パパの事は忘れなさい。あの人は、他の女を選んだの」
とママが言いました。
「裁判の結果、親権はシェリー・フォランダーにあるものとする」
と裁判所の人が言いました。
だから、私が十歳の時に、私の家からパパは居なくなりました。
それからです。
私の地獄が始まりました。
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