二重人格の男
シエレレエ
第1話
僕は休みの日に天気もいいので車に乗ってドライブをすることにした。
通勤が電車で済むので車を運転するのが久しぶりだった。
好きなジャズをかけて車を走らせた。
街を抜けてまもなくするとかなり古くて長いトンネルが車を包み込む。
そのトンネルを抜けると右方向に海が見えた。
空一面の青と綺麗な海とが繋がっていた。
この海辺に来るために車を走らせたのだ。
僕はここに来る度に行方不明になった僕の唯一の親友宗介のことを思い出す。
宗介は10年前に行方不明になった。そして行方不明になる前2人でこの海辺をドライブしていたのである。
行方不明になった当初は宗介の家族と警察が必死に捜索していた。
しかし宗介は見つからず警察も宗介の家族も捜索を諦めた。
僕はその時のショックのせいか宗介とのことを思い出せなくなっていた。
思い出そうとすると頭が酷く痛くなってしまうのだ。
それを耐えると大切なものが壊れるような気さえするようないたみだった。
しかし僕はこの海辺に来ると宗介に会えるような気がした。
そして宗介との思い出が思い出せるような気がした。
今日もそうである。
しばらく海辺を走ると車が急に止まった。
走行中にエンストしたのは初めてだった。
まずそんなことがありえるのか?
なんだか気味が悪くなり僕は車の外に出た。
後ろを振り返ると人間の形をした影が僕に近づいて来るのに気づいた。
僕は本能的に身の危険を感じ海に向かって走った。
多分あの影のせいで車がエンストしたのである。
走りながらスマホを開いたが何故か圏外になっていた。
ここは普通に電波が通じるはずなのに圏外になっていたのである。
ますます気味が悪かった。
影はかなり速かったので僕はあっというまに追いつかれてしまった。
そしてその影は僕の目の前で止まり、僕に向かって飛びかかってきた。
その瞬間僕は頭痛に襲われ何故か今まで思い出せなかった宗介の事を全て思い出した。
それに加えて宗介の記憶を見ることもできるようになっていた。
あの影は宗介の亡霊だった。
宗介はすでに死んでいたのである。
宗介は10年前に海岸のすぐ近くの廃墟で殺されていたことが分かった。
殺した犯人は僕だった。
宗介の死ぬ直前の記憶を見ると僕が高揚した様子で笑いながら殺人を行なっていたことも分かった。
僕は絶望した。
宗介を殺したこと。人を殺した事を今まで思い出せなかった事。どれも僕は信じられなかった。
僕はなぜ宗介を殺したのか。
その理由も分からなかった。
けれど宗介の最期の記憶の中で僕は笑っていた。
どうしようもない嫌悪感が僕を強く襲った。
僕はまもなくその廃墟で自殺した。
海辺には一面の青と綺麗な海が広がっていた。
二重人格の男 シエレレエ @sierere
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