4日目 えくすかりばー

伝説の剣

始めました。



――――


「おーい、サトシくん。

そこのダンボールの中の商品。

5番の棚に並べておいてくれないか?」

レジの奥にある部屋からそんな声がサタンの耳に入る。

昼だと言うのに相変わらず客足は少なく、

正直レジにひたすら立っているのは飽きたところだった。

「はぁーい。

わかりましたー。

あといい加減サタンって呼んでくれませんかね?」

「それ、割れ物だから気を付けろよ」

「この流れに慣れてきた自分が怖いです」

名を呼ばれぬことはもう慣れたと割り切り、

サタンはダンボールを開けた。

「って、何ですかこれ?」

その中には、

伝説の盾

伝説の槍

伝説の弓

伝説の剣

伝説のコーヒーカップ

伝説のポーション

伝説のカツラ

などなど。

全部伝説の代物だった。

「いや、何でも伝説付ければいいってもんじゃないだろ」

そう言って金色に輝く剣の柄を手に取る。

「これって、どうみても、

魔王殺しの剣エクスカリバーじゃん......」

「おい、サトシくん

何ぼさっとしてるんだ!」

サタンがそれを眺めていると、

バアルが歩み寄ってくる。

そんなバアルを見るなり、慌ただしくサタンは説明する。

「いや、店長それどころじゃないですよ!

こんな所に魔王殺しの剣エクスカリバーが!

これ確か、伝説の聖地エデンの台座に突き刺さってるはずですよ?

何でそんなものが...」

サタンは困惑し、そして考えた。

こんな物がこのコンビニに流れて来るなんてただ事ではない。

何かあったに違いない。

魔王の黒い双眸が、黄金の剣に反射する――。

――――と、いいシリアス感が出てきたところで

バアルがそれを壊していく。

「ああ、それ。

私が引き抜いてきたやつだ。」

「あんたが犯人かよ!」

思わず上司であることさえ忘れて突っ込んだ。

「あぁ。

なんだそんなに慌てて」

どうやら状況を把握してないらしかった。

「いや、だから!

何で聖地に生えてるようなものを持ってこられるんですか!?」

そもそも伝説の聖地は神が住まう土地にある場所。

そこは人間でさえ立ち入ることは難しい。

それが、悪魔が抜いてきたのだ。

おかしな話である。

「え?いや。

社長と仲いいんだよ、私。

まあ、その繋がりで抜かせてもらったってわけ」

「色々突っ込みどころはありますが、とりあえず社長ってどういう事ですか......」

顔を引き攣らせながらサタンは訪ねる。

「え?

いや、知らないの?

株式会社<伝説の>の社長だよ。」

「通りで<伝説の>のブランド名がつくわけだよバーロー!」

サタンは理解した。

<伝説の>は企業名。

要するに、

株式会社<伝説の>が作った剣

即ち、伝説の剣である。

「アホくさ...。」

サタンはボソリとそう呟き、棚に剣や槍などを起き始めた。

しかし、一つだけどう置いたら良いのやら分からないものがあった。

「あの、店長。

これは......どうしましょう?」

カツラだった。

どう見てもタダのカツラだった。

それはもう何の普遍のないカツラだった。

バアルはそれを見ると、

サッと取り上げて、

ポンッとサタンの頭頂部にのせた。

「......あの。」

「将来のために持っておけ」

「不吉なこと言わないでください」

どこか悲しげ声でバアルが言った。

8000年後、

この予言フラグが見事に命中回収することを、この時のサタンはまだ知らない。

「おい、ナレーター。

ぶっ飛ばすぞ。」

※嘘です。


―――――



コンコン

と扉を叩く音を聞き、勇者は目を覚ます。

「う、うーん。」

眠い目を擦りながら掛けていた布をどけて、扉へ向かう。

この時ふらつき、棚の角に小指をぶつけて悶絶していたことは内緒である。

何とか持ち直し、扉を開ける。

すると、前に勇者を注意していた老人がいた。

「お爺さん?

何です?こんな朝早くに。

剣なら昨日は振ってませんよ?」

少し無愛想にそう言うと、老人は黙って一枚の紙を差し出す。

「ほれ。

お主にはこれが必要じゃろ?」

二つに折りたたまれた羊皮紙を受け取ると、

老人はすぐに去っていった。

「何だったんだ?

それに必要って...

妙に胡散臭いな。」

そうは思いながらも、好奇心を留めておくことは出来ない。

恐る恐るといった様子で紙を開く――――

「こ、これは!」

その古びた紙には、

伝説の剣の在り処が書かれていた。

「これはまさしく...伝説の...剣!」

肌の産毛が逆立つ感覚。

「.....手に入れるには困難な旅かもしれないが......。

行く価値はある!」

湧き上がる興奮と喜びで、

口角が上がりそうになるのを咬み殺す。

少し気持ちを落ち着けてから

「ケットシー!

旅に出るぞ!」

と言った。

その時、もう1枚紙が重ねてあることに気づいた。

どうやら2枚目に詳しく書かれているらしい。

「んーと?

場所は魔王城西口前。

税込2500円

これで君も勇者だ!

ご来店お待ちしております」

読み上げたアンタレスは少し動きを止めて、

「ただの広告じゃねーかぁ!」

と言って2枚目の紙を破り捨てた。


勇者は20EXPを手に入れた!

広告1を手に入れた!

次のレベルまであと30EXP ▽


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