2日目 ふくぎょー!

魔王城

それは魔族の王が鎮座する城であり、

勇者を迎え撃つための戦場でもある。

そして、もう一つ。

魔王城より激しい戦場が存在する。

その名を皆はこう呼ぶ。

コンビニ...と―――。



>>><<<


暗い雨雲が落とした冷たい粒が、

ベルゼブブの皮膚を濡らす。

「くそ。

こんな時に雨かよ。」

彼は短く舌打ちをし、

急くように近場のコンビニに駆けた。


彼は魔族の中でも名門貴族の間柄に生まれた。

しかし1人をよく好み、お付きの者や家来を連れるようなことは決してしなかった。

そして、それは4649歳になった今も変わらなかった。

そんな中の雨である。

主人が濡れぬことがないようにと、傘を渡してくれる家来がいるはずも無かった。

幸い、そのコンビニには休憩スペースが設けてあるようだった。

それに近場だったために、

雨から逃れるにはうってつけ場所だ。

彼は迷わずにコンビニに入った。

「いらっしゃいませ。」

店員の声が聞こえたが、

気にとめることもなく左へ曲がった。

そこには、ズラリと雑誌や新聞などが並べられている。

ベルゼブブは適当な雑誌を手に取るとレジへ向かった。

その途中におにぎりの棚があったため、ツナマヨの入ったものを一つ手に取った。


「いらっしゃいませ。」

ふたたび店員の声が耳に入る。

ベルゼブブは商品を前に出した。

すると、店員は精算を開始する。

「430円が一つ。

128円が一つ。」

ここまでは良かった。

「...…こちら温めますか?」

「あ、お願いしま……は?」

ベルゼブブは即答しようとして動きを止める。。

そして、

「いや!

ツナマヨ普通温めねぇだろぉ!」

と、盛大に突っ込んだ。

しかし、店員は声のトーンを変えずに

「申し訳ありません。

もう温めてしまいました。」

と言って湯気が出ているツナマヨを差し出した。

「早っ!」

そして、温めたものをよく見た。

「ってお前、雑誌も温めてどーすんだ!」


見事に湯気が立つ雑誌が出来上がりました。


「これは失礼しました。

まだ在庫があるので―――。」

そこまで聞いて、ベルゼブブは

(ま、まあ。

そうだよな。

誰にだって間違いはあるし、

それに新しいのも貰えそうだからいいよな。)

と思い、謝ろうとして―――。

「いやぁ、俺も怒って……。」

「―――新しい商品をお買い求めください。」

「少しでも同情した俺に謝れ。」

後悔した。

ベルゼブブは怒りを覚えて、店員の顔を見る。

そして、

「って………。

お前、サタンじゃねーか。」

魔を統べる王であることを知った。

それを聞いたサタンも、

「え……?

もしかしてブブ君?」

そう言って目を輝かせる。

「ブブ君?

じゃねーよ!

なんでお前こんな所にいんだよ!」

そう言うと、何食わぬ顔で

「え?城番だよ、城番」

といった。

「城番するならお前の城でやれ。」

呆れたようにベルゼブブは言うが、サタンは真っ直ぐにベルゼブブを見ていう。

「いや、ぶっちゃけ

魔王城より魔王城してるから。」

「はぁ?

お前何言って―――。」

そこまで言いかけた時、後ろの扉の隙間から凄まじい気配とともにサタンの頭を黒い手が鷲掴みにする。

「ぐあっ!

いで、いでででででででで」

サタンはその手から逃れようと

藻掻くが、サタンの頭をしっかりと掴んだその手は離れそうにない。

そして、手の持ち主は声を発する。

「なぁにサボってるんだァ?

サ・ト・シ君〜?」

その声を聞いた途端、ベルゼブブの背筋に怖気が走る。

それほど黒い手の持ち主の声は、冷徹で怒気をはらんでいた。

「ば、バアルさん!

お、俺、サトシじゃないぃででででで!」

そこに叱咤が飛ぶ。

「やかましい!

いいから働けぇ!」

ベルゼブブはビクリと体を震わせたが、

サタンはそれどころではない様子。

「わ、分かったから離してくださいぃ!

...…ってうわっ!」

サタンが涙目で懇願すると、何とか頭を砕かれる前に解放してもらえた。

だが、乱暴に離されたために軽くレジに頭をぶつけた。

「っ痛!」

それからすぐに1人の人物が姿を現す。

「サトシ君。

いったい君は何をやってるんだい?」

その人物は、サタンのように立派な角を生やした女性の悪魔だった。

ベルゼブブは美しいと思ったが、眉間に皺を寄せて怒りを露わにしているため、残念ながら恐怖しか感じなかった。

「い、いや。

知人が来てたから少し話しただけです……。

って言うか、俺はサトシじゃなくてサタn」

「それは接客が終わったらにしろといつも言っているだろうが。」

「うっ。

そ、それは......。」

「今月は既に3回も遅刻してるんだぞ?

これ以上問題を起こしたら罰金として

給料から差し引くからな。」

それだけいい残すと、バアルと呼ばれた女性はドアの向こうへ去っていった。

一時の静寂が訪れる。

ベルゼブブはサタンが先ほどいいたかったことを思い出し、

「た、たしかに魔王城より魔王城してるな。」

と苦笑した。

「......うん。

あの人がコンビニ魔王城店長サタン

バアルさん」

サタンは頭を擦りながら、

ぶつけた時に散乱したお金を拾い集め始めた。

「…...手伝う。」

そう言ってベルゼブブも散乱したお金を拾い集めた。

「……やけに優しいね。」

「ど、同情してやってるだけだ!」

「ほんっとに変わらないね〜ブブ君は〜。」

「うるせぇ!」

そんなやり取りをしているうちに、

雨雲は通り過ぎ、空には太陽に輝く虹が掛かっていた。

―――――



「ち、畜生!

スライムがダメなら!!」

こちらは勇者アンタレス。

そう言って剣を向ける先はケットシー。

下級の悪魔で、猫耳や尻尾などがある。

可愛い が特徴。

「ンニャ?」

ケットシーはアンタレスのほうを見て、不思議そうに首を傾げている。

「お前を倒してやる!

お前ごとき、斬れない俺じゃない!」

「ンニャー」

勇者がそう言うと、同調したようにニコニコしながら肉球のついた右前足を天に掲げる。

「斬れない俺じゃない!」

「ンニャー」

ケットシーはそのキラキラした瞳を勇者に向ける。

「斬れない...俺じゃない。」

「ンニャ?」

「俺じゃ...。」

「ンニャ。」

「俺...。」

「ニャア?」

「俺...俺...どぉすればいいんだぁぁぁ!

こんなの斬れるわけないだろ!

可愛すぎるんだよぉぉ!」


勇者は可愛いを前にどうすることも出来ない!


その隙にケットシーは勇者の足元に近寄り、

「ンニャ〜♪」

と言って、耳を足に擦り付け始めた。

「よし。飼うか。」

どうやら可愛いには、悪も正義もないようだ。




パーティメンバーが増えました! ▽


勇者は120EXPを手に入れて、レベル3になった!

次のレベルまで、あと200EXP。 ▽


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