第2話 食事
意識がくるくると降りてきて手を止める。
気がつくと、私はキーボードをタイプしていた。
「なぜ、こんなにも買ってしまうのだろう。」
疲労感を引きずって吸い込まれるように
コンビニに入り、心の赴くままに、食べたいものを選ぶ。
それが私の毎日であり、その行為は一見して味気のないものであった。
しかし、無心でふわふわと選んだものを食べるというのは、
理に適っていない逆説を越え、なぜか鼻を鳴らしたくなる気分にさせた。
そこに、浮かんでいた疑問を、食後の意識がとらえたのであった。
・・・
なぜ、食べるところまでは無心でいるのに、
食べた後になって、食べ過ぎたと反省してしまうのだろう、と。
「こんなに食べてしまったら、太ってしまうじゃないか。」
・・・
この不思議な仕組みへの疑問は、毎日繰り返され、
気付くと忘れており、気付くと反省しており、要するに止めようがなかった。
そこで、私はお茶をすすりながら、こう考えてみることにした。
私は、食事によって部分的に生まれ変わるのだ、と。
食事によって意識が切り替わるということは、
少しだけ別人になるということを意味していた。
何を食べるか、どのように食べるか、どれくらい食べるか。
おそらく、食べた後に、それを考える必要がある。
私の全体を貫く考え方は、何回の食事を以ても貫き続けるであろう。
だから、食べた後に、私を貫く食事をどのように定義するかが、
私を正しく形作るために、必要なことだと思われた。
それで、
タイプしていたこの文章は、この文を打っている今、
食べる前の意識の状態に、限りなく戻りつつあった。
とらえたはずの疑問が、くるくると逃げ出し、どこかに身を潜めてしまったのだ。
疑問は疑問としての骨組みを失い、定義した疑問はただの文字列になっている。
私は、食事によって、ただ、眠いのであった。
食事は、私を部分的に殺し、部分的に生かし、
それはつまり、眠りへと誘っているのだった。
(そして、太っていく恐怖さえも薄れていき、意識が遠のいていく・・・。)
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