恋経由普通便

当たり前かもしれないけど

当たり前かもしれないけど、


この歳になると、周りがどんどん結婚しだす。

「結婚します」って報告を受けることもあるし、

久々に話して話の流れで、「えー!結婚してたの!」ってこともある。


結婚したっての、知るたびに思う、「すごいなあ」って。

「なんで?」って思って、「すごいなあ」って思って、「おめでとう」って言う。


一度だけ、友人の結婚式にお呼ばれして、出席した。

母親に、「女はフリフリしたの、着なきゃなんないの?」と聞いた。


「結婚式 服装」で調べると、女は大体妖精みたいな、フリフリの服が出てくる。

絶対に着たくなくて、ややフォーマルなパンツとジャケットのセットアップを探し出して、

「これじゃダメかな」

と母に送った。


「ミケちゃんらしくて良いじゃない」


わたしは、緑色の髪に、hideみたいなピンクチェックのセットアップで、帝国ホテルに向かった。

結婚がなんだか、家族がなんだか、わたしはよく掴み切れないけど、とにかくなんだか、この瞬間が喜ばしいことなんだってことはわかった。

それから、友人にとってここが、人生の一区切りなのかもしれない、ってことも。


あの時もらった招待状も、座席に置いてあったメッセージカードも、いまだに手元に残している。

「結婚する」、と聞いたとき、結婚式に出席したとき、わたしはとにかく、驚いていたし、「すごいな」とひたすら思っていた。


結婚は、怖い。

誰かの人生と自分の人生が密接にくっついてしまう。

もしも、わたしが誰かと結婚したら、わたしはその人の人生に干渉することになるわけで、その人の人生の責任を負わなければいけないわけで、支え合わなければいけないわけで、誠実でいなければいけないわけで……。

それ相応のものを、相手からも頂きながら生きていくわけで。

もしも子どもができたら、もっともっと、その責任は重くなるわけで。


自分ひとりを生かせることで精いっぱいのわたしには、そんなこと、夢物語でしかなくて、怖くて、決断できる未来なんて、想像もできない。

でも、わたしの周りの友人たちは、そんな責任の誓い合いを、とても幸せそうに宣言する。呼吸をするように、こなしてしまう。

なんて強い覚悟なんだ、なんて広いフトコロなんだ。

それにさえ、わたしは恐れおののいてしまう。


昔、会社の税理士さんに、「どうして、結婚したいって思うんですか」と聞いたことがある。

税理士さんは、「独占欲かもしれません」と答えた。独占したいから、奥さんとの結婚を決めたんだと言った。


それも、わたしにはわからなかった。

他人を、独占したいって、なに?


人を愛することも、わたしには難しい。

恋人ってなんだ、好きって、何。


どういう人が好き?と聞かれると、困ってしまう。

好きな友人はたくさんいる。でも彼らに共通項があるかと言われると、なんというか、難しい。

ただ彼らが魅力的な人だから、わたしは側にいたいと思うし、楽しい時間を共有したいと思う。

でもきっと、それは質問の答えにはならない。

だってその質問はきっと、「どういう人に恋愛感情を抱く?」ということだから。


特別な感情を抱いた人は、人生でふたりほどいる。

でも、セックスがしたかったわけではないし、独り占めしたかったわけではないし、恋人になりたかったわけではない。

それでも、そのふたりは、今でもわたしにとって特別な存在で、それが恋愛感情なのかどうなのか、わたしにはさっぱりわからない。


わからないし、戻ってくるのは結局、好きって、何。



周りはどんどん、結婚していく。

そしてきっと、わたしはずっと、 好き も、 家族 も、 独占欲 も、何もわからないまま。

何もわからないまま、ふらふらと、楽しいことばかりを求めて、ひとりで。

どっかで酒でも飲んで、ご機嫌になっている間に、死んで、その頃には人付き合いも殆どなくて、誰にも知られぬ間に、森だか海だかに遺体は沈んで、静かに・静かに、自然に還って。

そんな終わり方がいいな、なんて思ってしまうほど、わたしはひとりが好きで。



「結婚しました」

と言われて、ずーっと、「すごいな」と思っていたい。

だから、あの時の招待状も、メッセージカードも、わたしはきっと捨てない。

あの時の戸惑いや、感銘や、何やらあれこれ、忘れたくないから。


誰かを愛して、側にいたいと思って、支え合いたいと思う。

これはほんとに、わたしからしたら、理解ができない。

みんなからしたら、普通のことかもしれないけれど。


普通ってたぶん、恵まれてるんだ。

喉から手が出るほど、みんなの「普通」が欲しい人がいる。


わたしはね、喉から手が出るほど、誰かを愛してみたいとか、家族ってものを理解したいとかは、思わない。

思わないけれど、みんなのその、誰かを愛したり・信じたり・家族になろうって覚悟したりするのは、すごく色鮮やかで、美しい感情だと思う。


「普通」ってのはたぶん、恵まれてるんだよ。

そんで、めちゃくちゃ美しいよ、みんな。

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ひとつふたつ 千舟ミケ @0licht-m

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