歪む新宿
2017年9月8日金曜日
「大丈夫?」「体調は?」「無理しないで」
事情を知らない会社の上司や同僚から連絡が来る。
みんな、私の本当の休職理由を詮索している。面白がっている人もいれば、本当に心配してくれている人もいるのだろう。
まさか誰も、今も当たり前のように働いている上司が原因で、などと思っていない。会社は彼をクビにしなければ、私を辞めさせてくれもしない。
「プライベートの問題」だから、何も罰を下すことはできないし、新人の私の辞職を認めて、損をすることも免れたい。
高校を卒業するとき先生に言われた、「きれいなものだけを見て生きていけ」という言葉が刺さる。私だって、そうしたかった。
事情を知っている同僚から連絡がくる。
「最近寒くなったけど体調はどう?俺は風邪ひいたよ。」
まだ眠れないけど、だいぶ良くなったよ、と答えると、少しでも良くなってよかったね、と返ってくる。久しぶりの友人とのやりとりにほっとする。
会社の対応が遅いことや、上司が相も変わらず働き続けていることへの苛立ちを彼にぶつける。彼もまた、会社に対するちょっとした失望を私に打ち明ける。
「大丈夫?」と聞かれれば、「大丈夫」と答えてしまう。昔からの私の癖だった。
私の体を好き勝手にして、頭を押さえ唇を寄せる上司の顔を思い出す。
目の前の新宿の街が揺れる。足元がふわふわして、頭がふらふらする。
「大丈夫」と答えた。「大丈夫」になりたかった。
私だって、そうしたかった。
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