気休め

2017年9月9日土曜日


私は、よく女性に恨まれる。

というのも、恋人がいる男性や、元恋人との関係を清算できずにいる男性ばかりが、私に好意を向けるからだ。

反対に、相手のいない人は、私のことを好きにならない。私がどれだけ相手に好意を向けようと、相手には少しも刺さらない。


今の彼もそうだった。崩れ始めた恋人との関係を清算できないままに私を好きになり、一方的なアプローチをし続けた。

結果私は彼の気持ちを受け入れたが、彼の元恋人にとって私は浮気相手で、大切な人を奪った相手で、恨む対象だった。

攻撃は唐突に始まった。何も知らなかった私はただただ茫然としていたが、こんなことは慣れっこだと、湧き出てしかるべき感情を押さえつけ、隠した。


彼の家に帰る道すがら、そんなことを思い出した。

ふと、前の彼女も、この家に来ていたんだよな、と思った。

休職しはじめてから、私は知人との関わりを避ける為に彼の家に逃げ込んだ。

今私は、ここにいるしか術がない。

お隣さんは、「彼女が変わったな」とでも思っているんだろうか。

彼がちゃんと、関係を清算してくれてさえいれば、彼女が私を恨まなければ、こんなことを思わずに済んだのに。


私が会社に行けない事情を知った上司は、原因となった上司を「恨め」と言った。

でも、恨んで何になるのだろうか。

恨んだところで何が変わるのだろうか。

私の中の苦しみが増すばかりじゃないか。


私は今、彼がいなければ行き場がなくなってしまう。

彼を恨むことなど、できる筈がない。


私は、湧き出た感情を箱に詰め、そっと蓋をする。

感情は、蓋を少し開けてこちらの様子を窺っている。

この箱にはまだ、鍵を付けられない。

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