第9話 異世界間会見

「……では、地球でお会いすることはできない。そういうことでしょうか? 」


 画面に映るぼやけて人型の輪郭しか判らない灰色の影に、報道機関の代表が質問する。

 

 「はい。私達の力が特異である以上、利用しようとする方や機関は必ず出てくるでしょう。しかし私達の目的は、異世界の存在を証明すること、その実情を知って理解していただきたいこと、そして異世界への転生や転移を望む方が減ることです。私達はこのこと以外をするつもりはありませんし、平穏な生活を守りたいのです」


 異世界に居るHIBIKIとの会見が現在リアルタイムで行われている。

 HIBIKIは異世界のとある草原に一人立ち、どのような仕組みでかは判らないが、地球との通信可能な状態を維持している。異世界に本当に居るのかという質問が最初にあった際、「異世界のリアル」で何度か見たクリーチャー達が獣を狩っている様子を望遠で映し、これでも信じられないなら今日の会見は止めるとHIBIKIは答えた。


 HIBIKIは成人女性の優しい声だが、その語りには抑揚はまったくない。機械音声ではないけれど、人間が話しているとも思われない違和感がある。それも当然だ。ひびきの身体を借りたドルが話しているのだから。


 「異世界に存在する様々なものを調査研究……地球の文明発展に協力するお気持ちはないということでしょうか? 」


 研究機関かどこかの国家の紐付きな方からではないかと思われる質問が出る。


 「はい。異世界との関わりは持つべきではありません」

 「では何故あなたは異世界のリアルを伝えるのでしょう? 」

 「昨今、死後に異世界への転生を望む方が出ているのはご存じでしょう。先日、放送した異世界のリアルでは、元地球人の転生者がこの世界での人類の敵を倒しました。ですが、これから起きることを見ていてください。地球が存在する世界とは異なるこの世界で何が起きるのかを」


 「あなたはこれから起きることを知っているのですか? 」

 「ええ、何故知っているか詳しくは申し上げられませんが、知っています」

 「どうやらあまり楽しくないことが起きそうですね。しかし、あなたはこれから起きることを知っているのなら、結果を変えることも可能なのでは? 」

 「それは私達の力ではできません」

 「どうしてでしょうか? 」

 「異なる世界が干渉しあうのは許されないと考えますし、私達の力では無理だからです」

 「それでは……」


 ……会見は二時間の予定を越え五時間続いた。HIBIKIの最後の発言は、

 

 「私達はこれからこの世界で起きることを異世界のリアルとして伝え続けます。それらを観てどう考えるかは視聴者の皆さんの自由です。

 ですが、異世界は幾つもありますが、そのどれもが夢見て楽しい場所ではないということ、辛く悲しい結果が待つ場所であることを知っていただきたい。

 これで皆さんとお会いすることはありません。新時代TV、国立理学総合研究所、広告代理店”リテラ”へ圧力をかけないでいただきたい。その気配を感じたなら私達は異世界のリアルの提供を即座に止めますので宜しくお願い致します」


 地球との通信を閉じたドルは、身体のコントロールをひびきに返した。


 ――これで君達への疑いも晴れるだろう。


 「私達のダミーを用意して、会見中仕事仲間やあたるの友人達に目撃させているから、HIBIKIと私達は別人と思うのではないかしら? 渡瀬くんとも会ってるはずだしね」

 「そうなってくれないと困るよ。俺はいいけど奈美恵に迷惑かけられないし……」

 「こちらへ来るときは毎回ダミーに動いて貰わなきゃね」


 ――ああ、そうすることにしよう。


 そう。わざわざ会見を開いたのは、ひびき達を監視する者の存在にドルとマズが気づいたからだ。

 会見中に、ひびき達が日常生活を通常通り送っているところを大勢に確認させれば、ひびき達にかけられている疑い、HIBIKIとは響達ではないかという疑いを晴らすことができるはずだ。もちろん、リアルタイムで異世界の状況を見せることによって、異世界の存在、異世界のリアルの信憑性を高める目的もある。だが、第一の目的はひびき達はHIBIKIとは別と証明することだった。


 「さて、そろそろ”箱庭”のアドが”逆転”させるのね? 」


 ――ああ、近々必ず。逆転が使われたら仲間が教えてくれる。そしたら再びこちらで撮影になるな。


 「とりあえず一旦戻ろうよ。ダミーが動いてくれていると判ってるけど、やっぱり落ち着かないからさ」


 あたるの意見にひびきは同意し、二人の姿は消えた。

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