第4話 響と能
姉の
「さあ、注目は集めている。新時代TVからも
だがヒールを履いた姉は、その
その美しい姉の艶やかな紅の唇から出た出発の言葉に、
「前回は異世界の様子を映しただけだけど、今回はどうすんの? 」
「ドル、どうするつもり? 」
ラグビーで鍛えられた強靱でしなやかな筋肉を持つ
――前回転生した者が、最後の敵をそろそろ倒し、あちらの世界を平定しそうだ。その様子と……できればインタビューしてその動画を撮りたい。
銀河間で魂のやり取りが生じた状況を憂いたヘッドは、仲間内からドルとマズの二人のエネルギー体を地球へ送った。その目的は転生の先に待っているものを知らしめ、転生を望む者の根絶であった。
”箱庭”のアドが地球からの転生者を求めようとも、転生を望む者が居なければ、自分が管理している銀河に連れてくることはヘッドの介入を意味しているからできない。――地球へ到着したときトラブルが生じ、ドルとマズは使命を果たすために二人の人間の身体に入り込むこととなる。その二人が
ドルに続いて、別の女性の声がやはり抑揚のない調子で聞こえる
――ドル。あまり欲を言うものではないわ。異世界の存在をこの世界の人間が信じたとはまだ思えないわ。
――マズ。それはそうだが、事実を撮るタイミングは今がベストだろう?
――それはそうだけど、焦っても仕方ないわ。せめて異世界があると信じて貰えるような……地球にはない植物か鉱物を持ってくる必要があるわ。
ふと気づいたように、
「ねえ、あなた達の使命が果たされるまで、あなた達が私達の身体に居るのは了解してる。あの事故で重体だった私達の命も救われたわけだから協力もするわ。でも、そろそろあなた達が私達から離れたあとのことを教えてくれてもいいんじゃない? 」
ショッピングの帰り、
ドルとマズは
――……そうだな。隠し事したまま協力して貰うのは心苦しいわね。
ドルは淡々とした口調で続けて話す。
――正確に言えば、私達が君たちの身体から出ることはないんだ。ただ、私達の意識が消えると考えてくれれば良い。
「え? ということは……今使えている異能はそのまま使えちゃうってこと? 」
例えば、隠密とか認識阻害というのか判らないが、他者の意識から外れたまま活動することができる。そのせいで異世界のクリーチャーを撮影するのも楽に可能なのだ。ドルとマズに拠れば、ドル達が同化してるのだから、
だが、生き物を傷つける機会は欲しくないから、異世界のクリーチャーには気づかれたくはない
――ああ、そうだ。申し訳ない。我々が君たちから離れると、事故で損傷した状態に戻ってしまう。あの事故は我々の責任だ。君たちの命が我々のせいで失われるのはヘッドの一員として許されない。そして我々が君たちと同化しているのだから、我々の力はそのまま君たちに残る。
もうひとつ、君たちの寿命についてだ。君たちの肉体の老化速度がどの程度のものになるのか、今は判らないのだ。同化した他人の肉体とずっと離れないなんてことは今まで経験したことがないの。もしかすると半永久的に生きることになるかもしれない。そうならないよう私とマズも……仲間達にも協力して貰いながら研究するが、今は確かなことは言えないのよ。
ドルの説明を黙って聞いていた
「ちょっと待ってよ! じゃあ、私達は他の人と一緒に年を取っていけないの? 」
口調は平坦だが、どこか落ち込んでいるような雰囲気でマズが響に答える。
――まだ判らないのです。申し訳ありません。
「参ったな。下手すると結婚できないのか……」
大学に入ってから大学四年まで付き合ってきた彼女……奈美恵と結婚するかもしれないと考えている
「どうにもできないことを考えるのは時間と労力の無駄よ。ドル達を信じるしかないわ。さあ、行くわよ」
人間らしく年齢を重ねられないかもしれないと驚いていたくせに、
「ふう、姉さんの言う通りだけど、俺は姉さんほど順応性高くないんだから、少しは
とりあえず気持ちを切り替えて、
「さあ、今回は撮影だけでなく採取もある。頑張りましょう」
響の声を残し、二人の姿が部屋から消えた。
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