No.0-5(Another)

 10月26日午後7時頃――


 平均的に30Lv以下の核石人種プレイヤーが多く居る所謂『初期町』とされている『ミステルプランギ』。大樹の意味があるその町は名前の通り中心からドームのように枝葉が広範囲に覆っている。

 町を出れば魔物が多く出現するが低レベルの者でも対処できる程の強さに設定されている。暫く歩けば湖が、方向が違えば大きな町へと続く谷と洞窟が、強い魔物が出るとされる森、それらが『ミステルプランギ』を囲んでいた。

 ――その内の洞窟にて。

 洞窟の中は非常に広く複雑な作りである。一応全体仮想マップがある為遭難の話は聞かないが、魔物は初心者にとってはある程度の強さを誇っている。安易な気持ちで潜ると後悔するのは必然である。

 しかしそんな中、洞窟の一角にある広い空間で数十のテントがずらりと並べられていた。

 まるで中世の軍の遠征の様な、紅い布に獅子の紋章が掘られておりテントの入り口には警備の核石人種プレイヤーが各テントに一人ずつ立っていた。

 見る限り中堅規模のギルドであることは間違い無い。

 ステータスには平均Lv270といったところで、ある程度ゲームをやり込んでいることが分かる。

 その内の一つ、一際豪華なテントにて、豪華な作りをした甲冑を着た大男が腕を組んで座っていた。机を前にして他に幹部らしき三人が表示された大きなウィンドウを眺めていた。ウィンドウには何処ぞのマップが表示されており、そのマップには凸の字が書かれたマークに矢印を合わせてどのように動くかなどを話し合っていた。

 時には拮抗したり、熱くなったり、黙り込んだりと長々と話し合っているとリーダー格である甲冑大男が一旦話を切り上げ休憩と称し彼は一度外に出た。

 人気の無いテントと少し離れた所で一服していると彼のもとに一人の少女が現れた。パッと見て齢13程のその少女は黄緑色のフード付きコートを羽織っており中にはTシャツににハーフパンツ、腰には一本のナイフと左腕には盾を装備していた。彼女のLvはここにいる連中とは比較的には低い。一般のギルドとは統制がしっかりしているが故に彼女は一際目立って見えていた。

 少女は一服している男に話しかけた。

「ねえクトラ……アレは進んでるの?」

「……」

 暗い顔をして問う少女に男――クトラは、小さく頷き、そして言う。

「とりあえず、計画の手順は大体決まった」

「そう……」

 俯いた表情の少女はプカプカと葉巻を吹かせるクトラの隣に並ぶ。葉巻の灰を指でトントンと篩い落とすとクトラが少女に話しかける。

「怖いか?」

「え、ええ……」

「別に、お前も参加する必要は無いんだが」

「いいや、そんなわけには……」

「この作戦自体は俺らのギルドが実行する。正直、俺らののギルドに属してないお前を参加させたくない」

「で、でも事の発端は――」

「俺はお前の手を汚させたく無い、それが例えヴァーチャルであっても例外じゃ無い」

 彼はそう言うとポケットから一枚のA4程の大きさの紙を彼女に渡した。

「これは?」

「読めば分かる」

 紙を手に取ると少女はじっくり目を通す。

 数十秒後持っていた紙を徐々に握りしめた。

「……これ、本気なの?」

「ああ、本気さ」

 彼女が読んだ紙、それはこれから行おうとしている計画の内容を端的にまとめた物だった。詳しくは分からないが読む限り人が行う行為では無いことは確かだった。

「での、本当にそんなことしたら――」

「そんなことは分かってる。でも、今は時間が無い」

 クトラはそれに続けて、

「俺たちはどんな手段を使ってでもを手に入れなければならない。それはお前も分かっているはずだ」

「そんな……」

 反論できずに少女は黙り込んでしまった。クトラはそんな彼女をよそに葉巻を捨てるとテントに戻り始めるが、去り際に彼はこう告げる。

「実行は明日の正午だ」

 そう言うと彼はそのままテントの中に入っていった。

 最後まで見送ると少女は両手で頭を抱えながらその場にしゃがみ込む。今この状況において自分が無力な存在な事に嘆いていたのだった。

「お兄ちゃん……」

 少女がそう呟くとその場をおいて何処かへと洞窟の闇に包まれ消えていった。

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