No.1-1 Retry Lv1
カンスト値から突然のLv1へ。
それは、つい先程までトップランカーの道を独走していた彼にとってはとんでもない数値だった。
唖然状態で立ち尽くすラルフ。メニューを操作する指は震えており、自分に置かれている状況を再確認していた。
所持金は初期値である1000
(金すらねぇ……)
頭を抱えるラルフ。
(確かに『やり直したい』とは思っていたけど……違う、そうじゃないんだッ‼)
トップランカーのセーブデータに『きのどくですがぼうけんのしょはきえてしまいました』なんて事態は洒落にならない。
その時だった。
彼の背後から女性の声が聞こえた。
「あのぉ~、さっきから怒声上げたり、頭抱えたりとかしててまるでカジノで全財産失ったような面してますけど大丈夫ですか?」
その女性は先ほどの野次馬達から助けてくれた金髪の少女だった。
彼女の声にラルフはふと我に返る。
「え、……あ、ああ……実は……えーっと――」
ラルフが慌てながら、そう言った時少女は言う。
「ああ、分かりました。あなたもしかしてこの初めての
目をキラキラさせて自信満々に答える少女。
「だってあなた、Lv1ですもの。まあ、あなた程では無いですけど初めてこの世界に来た人の反応なんて大体そんな感じですよ」
このゲームの仕様上第三者からは最低限のステータスを閲覧することは可能だ。彼女はそれを利用してラルフのステータスを見てそう判断したのだろう。
ラルフが話す間も与えずに淡々と話し続ける少女。彼はその言葉に戸惑いながらも話を合わせるかのように首を縦に振る。
正直当初何も考えてなかった彼にとって彼女のこの勘違いは都合が良かった。
心の底で彼女に感謝しつつ、『初心者』という名目でそのまま話を合わせながら、過去の当時の記憶を思い出していた。
(たしか、最初は武器をそろえる所から始めたような……)
そう思い、そろそろ切り上げようとしたときだった。
「なら、せっかくだしこの町案内してあげるわよ」
「え? でもマップありますし……」(いや、そもそもマップ全部覚えてるんだけどな……)
「マップに頼ってじゃ、この先苦労するわ。それにせっかくこの世界に来たのに勿体ないわ」
「あ、ああ……どうも」
「そういえば自己紹介してなかったわね、私はレクティア。君は?」
「俺はラルフ、よろしく……」
「よろしくね。ラルフ、それじゃあ早速行こうか」
「お、おう……」
ここで彼女のご厚意を振り払うのも良くないと考えたラルフは素直に彼女と行動することに決めたのだった。
「――にしてもまさか突然あなたが空から落ちてくるとは思わなかったわ」
「俺も同感です。正直開発者殴りたいと思いました」
「サラッとバイオレンスね……」
「俺の率直な感想です」
「オブラートに包みなさいよ……」
そんな他愛の無い会話をしている二人がいる場所は大樹の側にあるメインストリートだ。通称バザー通りとも呼ばれるこの場所は一般小売り商店が提示する定価以下で物の取引が行われている。所持金が少ない始めたばかりの者にとっては非常に重宝されている。
「そういえば君はどこに行きたいの?」
レクティアがそう訪ねるとラルフは少し考え、答える。
「そうですね、まず最初はバザー通りで適当に装備を調えようかと」
そう言うと丁度近くに武器屋があることに気が付いた。
店主であろう男を余所に陳列されてる武器、主に短剣類を眺めていた。
「バザー通り、って、あなた珍しいわね。初めてって言う割にはさ……」
「そうですか? 普通安く抑えたいって思いません?」
当たり前のように返答するラルフに彼女は唸りながら頭を傾げる。
「う~ん。確かに、そうだけどさぁ……」
「ヘイお兄さん、何か探しているのかい?」
腕を組んで二人を見ていた店主の男がラルフに話しかける。
「ああ……はい。出来れば刃渡り四〇~五〇センチ程があればと思いまして……」
ラルフの注文に『刃渡り四〇~五〇センチ……』と繰り返し呟きながら一瞬空を仰ぐと、何かを思い出した様子で店の裏から埃被った木箱を取り出した。箱は紐で蝶結びで封をされており、店主がその紐を解くと、中から一本の棒状の物が現れた。
「これは正直売り物になるかどうか……」
そう建前をつけるも、そのままラルフに手渡した。
「『短刀』……か」
ラルフは持った瞬間鞘から剣を抜き左手で重さを確認したり、刃が曲がっていないかを確認するなりじっくりとその短刀を見つめていた。
「丁度良いな……重さ的や持ちやすさは申し分ない。何故今まで売れなかったのがか寧ろ奇跡だろコレ」
小声でそう呟くラルフ。
「……もし、購入するとすればいくらですか?」
そう彼は問うと店主は、
「いいよ、正直これ長い間売れ残って大変だったんだから、まあざっと100Pecで譲ろうかな」
「本当ですか? 助かります」
「こちらこそ」
こうして商談は成立した。ラルフは短刀をその場で装備するとレクティアと共に店を後にした。
「随分と慣れたご様子で……」
「最低限コミュ障では無いんでね」
淡々と答えるとレクティアはラルフに訪ねる。
「ねえ、他に行きたい所とかってある?」
「他……? まあ正直言って無いな。まず欲しい装備は見つけたし」
「防具は?」
「正直今の段階ではあまり必要ないかな」
「そう、じゃあ折角だし、ちょっと良いかしら?」
「ん? まあ良いですけど」
ラルフはそう答えるとレクティアはメニューを開きキーボードで操作を始めた。誰かに連絡でも取っているのだろうか、それを終えると彼女は目的の場所へと歩き始めた。
道中ラルフは歩きながら彼の視線に現れる建造物や町の風景を眺めていた。
(懐かしい、町の地図で何となく全体図はインプットしているけどこうしてその場に立って生で見るとはまた違うな……)
この世界には四ヶ月に一度『文化の新進』と呼ばれる現象が発生する。我々
主にゲームの新ギミックの追加や、新マップ、新装備、能力の調整等々――色々と更新される。
(普通なら
「凄いな……この町は」
思わず心の声が漏れてしまった。それだけ完成された町なのだろう。ラルフは感心しながらレクティアに付いていく。
ラルフの声に食らいつくかのようにレクティアが言う。
「やっぱりそう思うでしょ? 私ね、この町大好きなのよ」
「そうなんですか」
「ええ、だって建物は綺麗だし、自然も豊かだし、そして賑やか。どうしても飽きないから大好きなのよ」
「大好きな町……ですか」
安直な理由ではあるが、彼女の目は本気だった。何故なら声の威勢には迫力があり、そして何よりも嬉しそうに語っていたのだから。
「良いですね。それは」
「でしょ‼」
笑顔を見せるレクティアと共に舗装された道を進めていくと建物の奥から、大きな屋根らしき建物が見えた。
その建物は進むに連れてその全貌が明らかになってくる。一言で表せば豪邸だ。館を囲む大きな塀にアスファルトで舗装された玄関口が、そして門の奥の庭には豪華な噴水が我々客人を出迎えていた。
「まさか、あそこ……?」
「そうよ、あそこ」
二人が玄関門の前に近づくと両扉が開いた。
「マジかよ……」
「そう、マジよ」
ラルフが幾らマップを記憶していたとしても、それはあくまで上から見た簡単な物に過ぎない。他にも何より現実でも中々見かけないこういった光景を見るのは新鮮だった。
そんな時だった。ラルフがあることに気が付く。
「あれ?」
「ん? どうしたの、ラルフ?」
ラルフの視線の先には塀の真下に一カ所、人一人ギリギリ入るかの穴が空いていた。その穴は、側面にはまるで細くて堅い何かで削られたかのような跡があった。
「あらまぁ、こんなとこに穴がいつの間に、朝の時には無かったはずなのに……」
「まあ気にしなくても後で修理でもすれば良いんじゃ無いか?」
「そうね、後で報告しとくわ、取り敢えず行きましょ」
二人は門を通り、ラルフは玄関口の前まで進んだ。しかしその時レクティアが言う。
「ああ、違うわよラルフ。そこじゃ無いわ」
レクティアが立っていたのは玄関口とは少し外れに広がる自然庭園への入り口の前だった。
「こっちこっち」
彼女はラルフに向かって手招きをし彼を誘導する。
「ごめんね分かりにくくて」
その自然庭園は『庭園』というよりかはどちらかと言えばほぼ『森』に近かった。
植えられている木々は道筋を表現するように並んでいるわけでも無く、疎らであった。空は木々の枝葉でドームのように覆われている。太陽の日差しは葉と葉の隙間を光が微かに差し込んでいた。
そんな環境が故に、空間の湿気は凄まじく非常にじめじめしていた。地面は結構な水分を含まれているようで、時に足を取られる。まるで濡れた靴下で泥を歩いているかのような独特な感覚が非常に気持ち悪かった。
「うわぁ、酷いなこれ、整備しろって……」
「はは、ごめんなさいね。後もう少しだから我慢してね」
「それにしても広いな、どのくらいあるんだこれは」
レクティアは少し考え、答える。
「たしか、学校の校庭程は……あったかな」
「広すぎるだろ……」
突っ込むラルフ。思った以上の回答に言葉が詰まった。
その時だった。突然ラルフの背後から謎の寒気が襲う。
ビクッと背を震わせるラルフ。
「ん? どうしたの?」
「なんか、誰かに見られているような気がして……」
辺りを見渡し、確認する。しかし草木によって光が遮られ奥までは見えなかった。
しかし、レクティアが突然何かに気が付く
「ねえ、あの赤い光って何だかわかる?」
「ん、赤い光?」
彼女が指す指の先には、言っていた通り謎の赤い光が二つ見えていた。
その光はゆらゆらと揺れ、数秒毎に一瞬消えすぐに点灯する。そして、徐々に光が接近してゆき同時に光の正体も露わになってゆく。
「あれは……犬?」
ラルフが言う。光の正体は謎の犬の目からの物だった。その犬はまるで狩猟犬のような筋肉質な見た目をしていた。首輪はしておらず、単なる野良犬だろうと彼女は思った。
「何だ。犬なら――」
レクティアが一瞬安心した直後の出来事だった。
「グォオオオオオッ‼」
突然犬とは思えないような咆哮を上げると同時に、爆ぜるように飛び出した。
「危ないっ‼」
咄嗟に危険を察知しラルフはレクティア押し倒し、謎の犬の突進を回避した。
「えっ? 何……犬じゃないっ⁉」
一瞬の出来事に混乱を隠せずにいるレクティア。
「馬鹿、コイツがただの犬に見えるのか!? ヤツの姿をよく見ろ‼」
「姿……?」
見るとその犬の姿は先ほどとは酷く変貌していた。目は片方が飛び出し、裂けた腹部からは内臓や肋骨が露わになっていた。
少なくとも普通の犬では無いことは確かだった。
「ひぃッ⁉ 何この犬⁉」
(何故こんな所にコイツが……)
彼の記憶が正しければ、それは推定Lv30『デットリードッグ』別名『
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