No.0-3
――
――――
「俺は……今?」
突如、真っ黒に染まっていたルイスの視界が晴れた。
ルイスの目に映る世界には、観客からの盛り上がる歓声と地上に転がっている五つの『
この状況を見て、辛うじて事態を察したルイスは一度大きく深呼吸をするも突然頭に電流が流れるような痛みに襲われた。
彼は刀を杖代わりに地面に突き刺し、片手で頭を抑える。
「畜生っ、痛ぇ……またアイツの仕業か……?」
チィ、と一度舌打ちをすると、頭の痛みは次第に止んできた。
一体今のは何だったのだろうか、そう疑問を持ちながらも、改めてもう一度呼吸を整えようと目を瞑って深呼吸をする。空を向いて目を開くとそこには大きなメッセージウィンドウが展開され『Congratulation!!』の文字が並べられていた。
するとその時、拡声器を通したような女性の声が聞こえた。
『や、やはり今年もあの男が決めた。GP6th勝者は――ルゥゥゥゥイィィィス!! また一つ最強伝説を作ったああぁぁぁ!!』
吹奏楽器のファンファーレが会場内を響かせた。
「あぁもう、うるさい。少しボリューム下げろや――」
ルイスはその音が耳障りになったのか耳の穴を人差し指で軽く抑えていた。
音が止むと、彼は上空に浮かぶメッセージウィンドウを眺める。
「『最強』、ね。はぁ……」
その時ふと、一瞬心底思っていたことを呟いた。
本来ならば両手を掲げて喜ぶはずが、今の彼にとってはその気にはなれなかった。「こんなハズじゃ無かったのにな……」
まるで勝利自体が本意では無いような……そんな事を言いながらため息を吐いた。
「もういいや」
ルイスはそう言うとポケットに手を入れ、漁る。すると何か一枚のお
そのまま彼は、お札に数字の長い羅列を、マナを滲ませた人差し指で記入し始める。
その時遠くからルイスを眺めていた実況の女性が彼の行動に気付いた。
『っ、ちょ? ルイス選手、まさか――』
彼の行動に見覚えがあった。
『スタッフ、今すぐ彼を止めて、今年こそ景品渡すために!!』
お札の正体は
ルイスはそんな声にも気にせずに黙々と
そして、彼は
別に彼が
空中に浮遊する
その直後に彼の頭上に一人丁度入るくらいの緑色の魔法陣が出現した。
『ホントにちょっと待ってええええぇぇぇぇ!!』
必死に実況者の女性は止めに入るも、出現した魔法陣は止まること無く徐々に下降し頭上からルイスの姿を徐々に消してゆく。
「結構です」
去り際にそう告げると、魔法陣は地面に接触しそのまま彼の姿は消滅した。
「ふう、着いた……」
ルイスが到着した先は、夜のとあるリゾート地とされる小さな島の海辺だった。
ここはカジノやショッピング、ゴルフ場など、ありとあらゆる娯楽が揃う娯楽都市である。勿論、シンプルに海でバカンスなんて物もアリだ。
しかし今、彼の目的はそれでは無かった。
彼は一人で余り人目に付かない裏道を通り目的の場所へ進み始めた。
本来なら、表道を通れば早いのだが自分自身が知らない人は居ないとされる存在で在り、オマケに『孤独の神殺者』という二つ名を持つ以上変に人目に付くような行動はしたくなかったのだ。
少し歩くと、二階建ての館の前で足を止めた。
その館は海辺に面しており、立地はとても良い物の他と比べると圧倒的に年紀が入った館で外壁は所々欠けており、少し苔やら蔦が覆われていた。
一見すると小汚く、正直初見ではあまり入りたいとは思えないだろう。
「あったあった、ココだ」
しかし彼の目的はその館だった。
入り口の回転ドアを押し、躊躇無く彼はその館へ足を踏み入れる。
中は外観とは違って綺麗な西洋のレトロ感溢れる玄関だった。地面は汚れ一つも無いカーペットに覆われ、壁にはどこかの有名な画家が描いた絵画、天井には薄いオレンジ色に輝くシャンデリアが吊されていた。
そして正面には一台のテーブルに一人の執事服のようなスーツを身に纏った白髪の初老の男性が立っていた。
この館の正体は会員制の高級ホテルだ。『知る人ぞ知る』とされるこのホテルは秘匿性がとても高く、プライバシーは遵守され、外部の者には館内の一切の情報は口外されない、彼以外にもお忍びで訪れるセレブも御用達とされている。
彼がフロントまで進むと、メニューウィンドウを展開させ操作を始める。数秒後手元に一枚の黒いカードが出現しテーブルに載せた。
「お久しぶり、おっちゃん」
すると初老の男性はカードを見た瞬間あることをを察し、ルイスに問いかける。
「こんばんは、Mr.ルイス様。お久しぶりですね、本日は一泊の宿泊でしょうか?」
「ああ、一泊で。悪いがいつもの部屋は空いてるか?」
「左様でございます」
「じゃあ、そこを頼む」
「承知致しました。少々お待ちください」
初老の男性はルイスに向って軽くお辞儀をすると、黒いカードを受け取り羽根ペンで紙にスラスラと何かを書き進める。
因みに今ルイスを紳士的な所作で対応している初老の男性は『Rosetta Stone』が生んだAI、所謂NPCである。
彼らは自らの事を950年前から存在する『原人種』と呼び個々それぞれこのゲームの世界で生きている――とかいう設定らしい。
暫くすると、一枚の紙と一本の鍵、そして預かっていた黒いカードをまとめてルイスに返却された。
「ホテルメンバーズNo.00191、ルイス様に間違いありません。どうぞごゆっくりとをお過ごし下さいませ」
「どうも」
彼は返却された物、諸々を受け取るとフロントの真横にある上へと続く階段を登っていった。
ギギギッ!! と歩く度に床が軋む音が廊下を響かせた。そこまで不快にはならないが気になって仕方ない。
そんな音と共に進んでゆくと彼は『201』という金属プレートが貼られた扉の前で足を止めた。手に持った鍵の番号と合わせて確認し、そのまま鍵穴に刺して、グルリと回す。
当然扉は開いた。ルイスは早速部屋へと入り。コートを椅子の腰掛けに掛けると、置いてあった燭台に傍にあったマッチで火を付ける。そして、ほんのりと優しい光が部屋を照らした。
部屋は現代の高級ホテルのように、トイレ付きのバスルームにフカフカのベッド、鏡付きの机と椅子が置かれていた。ベッドの脇にはフロントへ繋がるレトロな据え置きの電話があった。
ルイスは色柄の付いたカーテンを開け、そのまま窓を開け縁に頬杖をつきながら外を眺めていた。
「何度来ても、ココは良い」
ここから見る景色は極上だった。空に浮かぶ月から放たれる月光は、太陽の代わりに世界を照らす。またザーと流れる自然の波打つ音と潮風が優しく体を包み込みとても心地良い。
暫く彼はこのままの姿勢で、外を眺めていた。
「ん?」
すると在るとき彼は浜辺に居る5人男女の
その
「あれは……」
何となくルイスはあの五人を見つめていた。別にその行動に深い意味は無い。
彼はその時、メニューを展開し遊び半分で五人のステータスを見ていた。基本的に個人しか持たない特殊能力、所謂
「レベルは、五人揃って平均153、か……」
別に高くは無い数値だった。このレベルならカジュアル勢と見ても良いだろう。因みに現在ゲーム上での現バージョン最高レベル値は449である。とても中途半端な数値だがその限度は毎月のアップデートで最高値は更新される。しかしここまで来るとレベルを一つ上げるだけでも相当な時間が必要になる。
勿論ルイスは既にカンストしている。故にハッキリ言ってしまえばあの5人はルイスにとっては敵にもならない、試合となれば秒で倒せる単なる『どうでも良い奴ら』に他ならなかった。
時々会話している姿を目にする。多分この後どうするか、明日はどのクエストをやろうか、等色々話しているのだろう。彼らはゲームを暢気に楽しんでいるに違いない。
しかし『どうでも良い奴ら』といえども、見てて何故だか別の感情が湧き上がる。
「楽しそうだな……」
そう、彼はそんな五人組が羨ましかったのだ。実際この輪に交ざるのも不可能では無いが、この世界で誰からも恐れられるような存在が交ざれば、他から気を遣われそうで重い空気になることは間違い無いだろう。そんな自分が何よりも憎かった。
彼にとってはあの五人組のように仲間内で集って、クエストをクリアしたり、情報共有してイベントに参加したりと純粋にゲームを楽しみたかったのだ。
ならばサブアカウントを作成すれば良いのでは? と率直に思うかも知れないがこのゲームでは元々の仕様でサブアカウントを作成できない。理由としては主にアカウントの悪用などを防ぐ等色々と理由はある。実に残念である。
「あの日から、もう4年か……早いな」
はぁ……、と一息すると彼は区切りが付いたのか窓を閉め、ベッドに横たわった。
「また、あの時みたいに戻れたりしないかな……なんてね」
そんな叶いもしない願いを口ずさみながら、ルイスはメニューを開き、ゲームのログアウトコマンドを押したのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます