第7話


 ピンクとブルーとグリーンの飴が練りこまれたアイスクリームが三つまあるく盛られた透明な容器を前にして、私と石川樹里は向かい合って座っていた。田舎のフードコートの一角にあるアイスクリームチェーン店は、石川樹里のお気に入りの店だという。私の食べたもの飲んだものを全てエクセルで管理しているあのひとが絶対に、私を連れてこないだろう場所だった。


「食べんの?早く食べんと、溶けるで」

「う、うん」


 石川樹里がせかすので、私は恐る恐るピンク色のスプーンで表面が溶けかけたアイスクリームをひとさじ掬い、口元に運んだ。ふんわりとバニラの香りが鼻に立ち上るのと同時にぱちぱちと舌の上で弾ける飴。予想していなかった感覚に目を白黒させている私を見た石川樹里は、鞠が転がるようにころころと笑った。


「おいしい?」

「うん、おいしい」

「もっと食べな」

「うん、食べる」


 石川樹里が気分を変えない内にと思って、急いでアイスクリームにがっつき始める。夢中で食べていると、あっという間に透明な容器は空になった。満足して正面に向き直ったとき、石川樹里があんまり優しい目をしていることに気づいて、私は思わず「トイレ」と叫ぶようにして席を立った。

 行きたくもないトイレに向かう途中、足がもつれて転びそうになった。心臓を打つ音が段々と大きくなっていって、うるさいくらいだった。自分でもどうかしてしまったんじゃないかと思うくらい、息が苦しくて、胸がつまる。洗面所の鏡に映った私の顔は予想どおりゆでダコのように赤かった。


 なにこれ。

 変なの。

 なんだこれ。

 知らない。

 こんなの。こんなの、まるで。

 ちょっと待って。

 嘘でしょ?


「遅かったじゃん」


 トイレから出ると、スカートのポケットに両手を突っ込んで気だるそうに立っている石川樹里と目が合った。びっくりして何も言わずにいると、そのままショッピングモールの出口に向かおうとするので、男の子みたいに骨ばっている背中を慌てて追いかけた。


「あ、お金」

「いいよ。払っといた。あーしバイトしてるから、こんくらい出しちゃる」

「ちょっと。バイト、禁止だったはずじゃ」

「そー。だから、内緒な」


 悪戯っぽいウインクが、これだけ似合うひとを、私はそれまで知らなかった。


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