四つの棺
小粋な感じで禁煙パイプを咥えれば、足は自然と浜辺に向かう。真っ赤に染まった浜辺が見えると気持ちは高ぶる。7年間の人生で、最高の幸せを今感じているのかもしれない。思えば今まで俺の思い通りにならなかったことなんて一度もなかった。俺のためにこの世があるんじゃないかとそう錯覚するほどだ。本当に錯覚なのか?
なんていっている内に俺は浜辺にたどり着いていた。引いては寄せる波のララバイにうっとりしながら、砂地に腰を落ち着かせた。なんて懐かしい心地。このままこの場所に永遠という時が流れても、きっといつまでも居られるんだろうな。それくらいエクセレントだ。
夕暮れは過ぎ、やがて月と星々の光が降り注ぐ夜となった。うぅ、夜は冷えるな。気分も冷めちまったよ。少し厚着をしてくれば良かった。あーもう最悪だよ。……そうか、死ぬのか。………………がくっ。
こうしてアンベルクワズミは死去した。死因は急性アルコール中毒。ほぼ即死だったらしい。
それとは全く関係ないが、ジェリット・バリアブルゾードは、来てすらもない架空請求に頭を悩ませていた。補足だが、バリアブルゾート家は代々思い込みが激しいのが有名で、平均寿命はハムスター並みと揶揄されているほどである。そういえばジェリットという名前はジェット・リーのもじりらしいが、当のジェリットはカポエイラに精通しているくらいか。そこまで由来には引っ張られなかったようだ。ちなみに彼女は建築業で食っている。
さておき、探偵クライラリー・ブルガネルは、本日とある依頼を請け負った。内容は写真の人物を探してくれというものだ。始めは簡単な依頼だと思ったものの、奇怪なことに気づく。普通は付随するであろう写真がないのだ。これは困ったとクライラリーは一晩寝込んでしまった。しかし、クライラリーはこの謎を解くべく、翌朝から調査を開始した。まず写真の人物、そう、ハエ人間の如く写真と一体化してしまった人物、あるいは超自然的パワーで写真になれる人物という可能性を考えた。だが……ヒットなし。情報屋もかなり骨を折ってくれたようだが、微塵も手がかりは掴めなかった。
4年の歳月が経ち、クライラリーはとうとう禁断の方法を取ることにした。依頼主に問い合わせるのだ。クライラリーは極力依頼主とコンタクトをとらない主義だったが、しょうがないのでなりふりかまっていられなかった。
「すみません、リュリュ・オクラさん。写真の人物って言われましたが、写真を渡されていないんですが……」
「おお。クライリーみたいな名前の人。なんも連絡来ないんで渡した気になっていたよ。というかまだ探していたんだね。はいこれ写真。わしの母」
と、依頼主は一枚の写真を渡してくれた。なんてことないただのババアだ。顔さえ分かれば3日で見つけ出せる。
-3年後-
やっとこさ居場所を突き止めた。隣町の病院だった。嫌な予感がしたので、クライラリーは急いで受付に行って訊き込みをした。
「少しお時間よろしいですか、この写真の方を探しているんですけれど……」
「ああ、オクラさんですね。親族の方ですか?どんな躾していたんですか、あのババア」
「いえ、親族ではないです。探すのを頼まれただけで」
「そうですか。あのババアなら昨日退院しましたよ。あの世に行く形で」
クライラリーの心臓は止まった。
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未来からの二、三言。こんなんを小説という自信、あるいは傲慢さを忘れていたのかもしれない。
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