第3話 新たな作戦
「噂じゃ、あんたの従兄、騎士団長の息子だってね?」
「えっ? そうなの?」
「違うのかい? ただの噂かもしれないけどね。騎士団長は侯爵様だっていうから、あんたもお嬢様なんだと思ってたよ」
「私は……」
「ごめんね。立ち入ったこと聞いて」
サイラスが借りてくれた家の近くには、砦に務める騎士が多く住んでいて、向かいの家のアルマさんの旦那さんも騎士をしている。アルマさんはお料理が得意なので、私に教えてくれている。やさしくて頼りになる人だ。
アルマさんに教えてもらった料理は、さすがの出来上がりだ。胃袋を掴む野望はまだ捨てていない。
サイラスが砦の勤務から帰って来た。
「いい匂いだな。腹減った」
出迎えると、サイラスが台所から漂う香りを嗅いでいる。今日は自信作です。
「今日は、向かいの家のアルマさんに料理を教えてもらったの。今まで塩とバターぐらいしか知らなかったけれど、ハーブやにんにくも使ってみたの」
「そうか、すごく美味いぞ」
相変わらずの食べっぷり。こんなに食べて貰えたら、作ったかいがあります。
「アルマさんがね、サイラスは騎士団長の息子だって。それに、騎士団長は侯爵様とも言っていた。本当?」
「まあな。勘当されているから、今は関係ないけどな」
貴族の息子だと聞いていたけれど、まさか侯爵様だったなんて。この間買ってもらった本の主人公が、侯爵令嬢だった。雲の上の人だと思っていた。
「私は、サイラスの従妹ということになっているけれど、無理があると思う。やはり、使用人が良かったかも」
ただの村人の私が、どうしたら侯爵子息と従妹になるのかがわからない。
「セシィの境遇を活かそう。俺の母親の妹が男と出奔して、おまえが出来たと。両親が亡くなって、俺が引き取ったということにすれば、完璧だな」
「お母さんって、貴族?」
「伯爵令嬢だった」
「無理だよ。私の母親は平民だし」
「細かいことは気にするな」
私の育った国では、貴族を騙るだけで重罪だった。この国では捕まったりしないのかな。
「それにしても美味いな。さっさとセシィを嫁にやらんと、困ったことになるな」
なんですと。頑張って美味しいものを作ったのに、追い出されそうになってる。
「なぜ、困るのよ?」
「一人になったら、騎士隊の飯を食うことになるが、こんな飯食っていたら、不味くて食えなくなるかもしれんからな」
「それなら、私がずっとご飯をつくるよ。嫁になんか行かない」
「それは駄目だ。いい男を見つけて、さっさと嫁に行け」
「私を追い出したい? 邪魔になった?」
「いや、従兄妹なんて微妙な間柄にしてしまったから、セシィがここにいついてしまうと、俺との関係を疑われてしまうからな」
「疑われたら困る?」
「俺は結婚なんてするつもりはないから困らんが、おまえは困るだろう」
「私も困らないもの」
「今は、子どもだからだ。やはり、兄妹設定にしておくべきだったか」
「私が侯爵家の娘って、無理がありすぎる」
「父の愛人の子とでも言っておけば、ばれない」
「お父さんって、愛人がいたの?」
「いや、母を溺愛していた。うっとうしいくらいだった」
「それじゃ、ばれるじゃない。とにかく、私は嫁になんか行きませんから」
はぁ、胃袋掴む作戦も失敗かな。
アルマさんにお化粧を教えてもらおうかな。ちょっとは大人の女として見てもらえるかもしれない。
待っていろ、サイラス。こんな綺麗な女は見たことが無い。嫁に来てくれって言わせてみせる。
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