第6話 また監獄、そして……

 気が付けば、私は元の監獄にいた。


 一瞬、やっぱり全ては夢だったか、と思ったが、驚いたことに、私は拘束衣を抜け出し、ひらひらの制服を着ている。


「夢じゃなかった……」


 戻れた、戻ってこれた。これでどうにか、仲間たちへの面目も立つ……いや、そうじゃない。私はみんなのお荷物だった。そうならないためには、ここから逃げ出すか――命を絶つしかない。


 私は久しぶりに、全開の炎を噴射しようとした。しかし、ご丁寧にも、この監獄全体が異能力無効化フェライト素子で作られているらしく、私は全くの無能力者と変わらなかった。


「ふっ、さすが、エース待遇ってことかしらっ!?」


 私は制服のリボンを外し、壁の配管の突起に掛けた。これなら首をくくれそうだ。リボンで作った輪っかに首を突っ込み、深呼吸をした。


「サヨナラ……」


 そうして私は足を前に投げ出し、首を吊った。案外、足のつく所でも、人は死ぬことができる。しかし、苦しいと思う前に、ぐらりと目眩めまいがしたかと思うと、また、私は落ちていった。



 次に気づいた時には、私は教室にいた。


 風待も一緒だ。


 辺りは真っ暗で、朔夜はいなかった。


 一体、何だったのだろうか……元の世界に戻れたのに、また振りだしだ。


 朔夜がいなければ、情報も入らないので、私と風待は、お兄ちゃんに会いに行った。改めて会うのは、何だか恥ずかしかった。


 お兄ちゃんは、ぶっきらぼうに、「はいこれ」と手紙らしきものを差し出した。



――異世界の私へ

 投獄されていることは知っているよ。必ず私が助けるから、諦めないで待っていて。


 いい方法を考えたの。

 また、同じ異世界へ戻る方法よ。


 一度行った世界には、もう行けないと思っていたんだけれど、ウラワザを見つけたわ。


 帰るときに異世界の風待を連れて行くの。


 あなたにとっては元の世界の風待になるのね。


 私が帰る呪文を唱えた時にできた穴に風待も一緒に飛び込む。


 二人は私の元の世界へ行く。


 でも、異世界の風待にとっては、移動して来た世界だから、風待が戻る呪文を唱えれば、元の異世界へ戻れる。


 今度は、その穴に私が飛び込めば、あの異世界へ、また行けると言うわけ。


 すごいでしょ?


 でも、私が帰っている間、あなたは元の場所へ戻って、投獄されてしまうから、出来るだけ早く戻るね。


 さっき、神社に着いてから、ダッシュで家に帰って、大毅兄さんにこの手紙を渡して、すぐに戻る事にしたの。


 それぐらいの時間なら大丈夫って賭けだった。上手くいっているといいな。


 そうそう、風待から風待への手紙もあるから、読ませておいてね。何だか文通みたい(笑) 今時、手紙なんてね、じゃあまたね。


――異世界の明日菜へ、異世界の明日菜より(母印有り)


 これは、私から私への手紙……何だか変。


 私なのに私という気がしない。


 だけれど、何だか好感の持てる女の子だ。


 私を助けるって言うけれどホントなのかな?


 全く根拠がないけれど、何だかすごく安心する……。


 これが異世界の私……会ってみたい。


 でも、絶体に会えない、不思議な私。


 この異世界でも通信手段は電子化されて、手紙のやり取りは少ないそうだ。でも、私達にとっては手紙が一番の方法……なんか変だね。



 なす術のない私は普通に学校へ通うことにした。


 せめて、今、頑張っている異世界の明日菜のために、できることはしておきたい。


 物理法則の違う異世界の数学も頑張った。


 毎日の授業も、特にノートをとることを重視した。


 伝えたい。


 彼女に、彼女がいない間のこの世界の事を伝えたい。


 そんな思いがふつふつと沸いてきた。


 多分、初めてだ。


 私は今まで、誰かのために、この身を捧げてきた。


 多分、初めて……私は私のために頑張っている。


 異世界の私のために。

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