第5話 異世界のバグ

「ところでさぁ、お前ら、本気でそんな事言ってんだよな?」


「あんたまだ信じてないわけ? まあいいわ、風待らしいっちゃ風待らしい」


「馬鹿にスンナ! ところで、朔夜の目的は何なんだ?」


「それは内緒……目的を果たした時には分かるわよ」


 朔夜は不敵な笑みを浮かべた。


 正直、彼女が何を考えているのかなんて、想像も付かない。


 ただ、とんでもない事であるのは間違いないだろうが、あまり興味もない。


 私と関係の無いところであれば、何をしてくれてもいい。ただ、私や仲間達に害を加えるのなら、あっという間に丸焦げにしてやる。それだけの事だ。


「で、休戦協定の後は共同作業よ。まずはからね……アクロッサーは行った異世界から戻って来る事ができるけれど、ディサクロッサーは自力では帰れない事は、明日菜も知っているわよね」


「もちろん。だから、あなたと私……アクロッサーが飛んだことで、強制転送されたディサクロッサーは悩んでいるんでしょ?」


「そう……戻る事ができるのは、自分で飛んだ、あっちの私達だけ、あっちの二人が戻る呪文を唱えたときに、私達は、やっと帰れる」


「分かっていると言っているでしょう? 向こうの彼女達は出発したトリーゲート――神社へ、そして、私達は飛ばされた元の場所へ戻る……」


「お前らさっきから分かんないことばっかり話しやがって! 俺はすっかり置いてけぼりだよ!」


「簡単に言うと、私達には何も出来ないのよ」


「簡単にしすぎだろ? でも、じゃあ、ダメジャンか」


「そう、普通ならね、でも、イレギュラーがあるの。バグみたいなもんね、この風土記には、直列の移動は十回前後しかできないと書いてある。移動した異世界から、元の場所に戻らずに、更に違う異世界へ飛ぶ、その異世界から更に……十回ぐらい移動した時、バグによって強制終了――元の状態にリセットされると書いてある」


 異世界から更に違う異世界へ飛ぶ? そんな発想はしたことがなかった。


 でも、何となくわかる。アクロッサーが凄く無理をして移動していることは感じていた。


 じゃあ、無理をし過ぎたら……確かに強制送還はイメージしやすい……。


「どんどん、次から次に移動を続けるのか。でも、何でそれを明日菜に話すんだ? 一人で行けばいいだろ? 二人じゃ無いとダメなのか?」


「それは不確定要素をつぶすため……風土記に書いてあるのは、移動した全員が、更に移動した場合だけなの、だから、二人の内、片方だけが移動を繰り返しても、同じ結果が得られるとは限らない……最悪、全ての異世界がフリーズする可能性だってある」


 なるほど、納得した。朔夜も、分からないことが多いのだ。だから、私を味方につけておきたいと言う魂胆こんたんなのだろう。


 だけど、帰ったとしても、私は元の監獄に戻るだけ……でも、それでも帰ろう。みんなと同じ苦しみを味わうために。


「朔夜……わかったわ、協力――きゃ!」


 私が朔夜に歩み寄ろうとした時、急に、ぐらりと地面が揺れたかと思うと、そこに、ポッかりと穴が開き、私と風待を飲み込んだ。


「え? え? 明日菜……明日菜と風待が消えた……急にどうしたの? どこへ行ったの? なにコレありえない――この異世界にある、私の家はどこなのか、まだ聞いてなかったのに……」


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