第4話 休戦と協力

 夕暮れの図書館で風待と朔夜の三人で話す。


 もしもこれが、朔夜が裏切る前であれば、何て楽しい時間だったろう。でも、そんな事を考えても仕方がない。


 今はどんな方法を取ってでも、帰る事だけを考えよう。


「私もね、びっくりしたのよ、いきなりこの異世界に飛ばされて来たんだもの。隣で明日菜が裸で倒れていて、風待と死んだはずの大毅が現れてね……ぴんと来たの」


「炎堂が倒れていた時、神社に朔夜もいたのか」


 ききとして話す朔夜に腹が立つ。


 でも、そう言ってはいられない。私達の世界へ帰る方法を握っているのは、今は朔夜だけだ。


「そうよ、でね、ピンときたの、私と明日菜のアクロッサーが、この異世界から私達の世界へ飛んだんだってね……わかるでしょう? この異世界の私達と入れ替わりで、私達がこの世界へ強制転送されたわけよ」


「アクロッサーって何だよ、棒をもって、なんか叩くやつか?」


「あんた、ワケわかんない」


「わかんない話をしているのは、そっちの方だろ! お前ムカつくな!」


 こっちの風待も、朔夜を嫌いになりつつある。何だかウケる。


「はいはい、アクロッサーって言うのは、異世界間を旅する者のことよ」


「異世界間? じゃあ、お前は異世界から来たと言うのか?」


「いまさら? ま、まあいいわ、それでね、私はあなた達の後を付けて状況を把握したってわけ。学校に来れば、情報はいっぱいあったわ……生意気な奴らには痛い目を見てもらったけどね」


「朔夜はいじめられてたからな、ま、ちょっとシメといて丁度いい奴等だけどな」


 朔夜は今の状況を楽しんでいるかのようだ。テンション高めなのが鼻に付く。

「前置きはいいわ……早く話しなさいよ」


「気が早いわね、もう少し待ちなさい……学校へ来て、この図書館の先生に呼び出されたの、おとなしくお説教されたわ……情報収集のためにね。そしたらね、早く本を返しなさいって言うの、この本の原本をあなたは借りたままでしょうってね」


 そう言うと、朔夜は手に持った本をぶらぶらと私の前にちらつかせた。


「風土記? 原本でないなら朔夜が持っているのはレプリカか? そんなのでたらめの迷信が載っているだけだろ? 明日菜のばあちゃんが話していたような昔話ばかり……」


「そうよ……でも、でたらめじゃない。この本には沢山の情報が眠っていたわ。特筆すべきはがこの異世界に来た足跡を見つけたのよ!」


「テンジンが!?」


「そう、明日菜も知っているわよね……この世界の風待にはわからないでしょうけれど、私達の世界では、アクロッサーの研究が進んでいるの。テンジンとは、泡のように無数に広がる、この異世界群を作ったともくされている人物。もちろん証拠はないわ……でも、この本は貴重な資料となる。検証を進めれば、状況証拠として十分な根拠になるわ」


「なんだよ、天神様がどうかしたのかよ……そういえば、明日菜は天神様の鳥居の下で倒れていたな、何か関係があるのか?」


「そう……天神様と呼ばれているのね、じゃあ、敬意を払って、私もそう呼びましょう」


「そりゃ、軽易をはらわなきゃ、たたりがあるぜ」


「鳥居は、トリーゲートの名残りのようね……天神様は、と言われているわ。そして、進化の多様性を進めるために、新たな沢山の世界を作った。この異世界も、私の世界も、天神様によって作られたの」


「天地創造の神か……世界を作るってどうやって?」


「それは、わからないわ、私達の世界だって、何でも解明出来ている訳じゃないのよ」


 それでも、私達、レジスタンスより、朔夜がいた組織の方が情報量は格段に多い。

 だから、私は、黙って聞いているんだ。じゃなければ、今ごろ真っ黒焦げにしている。


「天神様は、異世界を自由に行き来して、新たな多様性を発見しては、初めの世界に持ち帰り、最上の世界を作ろうとした――簡単に言うと、いいとこ取りしてとくしようって考えたわけ」


 テンジンは私達の世界では伝説上の人物として有名だ。


 遠い昔に、最初のアクロッサーとして、私達の世界へやって来て、様々な文明の利器を伝えたとされている。


 テンジンの存在そのものは、まだ、伝説の域から出ていないけれど、今では多くのが、事実であるとこが確認されていて、アクロッサーの理論も六割ほどの解析が完了していると言われている。


 その、テンジンの足跡が、この世界にもあったとは……。私たちが旅した、様々な異世界では確認されていない。


 恐らく、初めて見つかった、異世界でのテンジンの手掛かりだ。


「朔夜、あなた達――組織はそのテンジンに成り代わろうとしているんでしょ? 私達はもう気がついているのよ」


「あら、いい所まで来ているのね、折角せっかくなったよしみで教えて上げましょう。

 あの人は天神様の更に上を目指している。一つの世界を最上にするのではなく、全ての異世界を征服しようとしているのよ。あの人――天才マーク・フラーミルはヒューマンマージ装置の開発を既に終えたわ」


「ひゅーまんまん? なんだそれ、うまいのか?」


「ヒューマンマージ装置は人間の能力をマージしていく装置、足して行くのよ、能力をね。泳げる人間と、足の速い人間を足すと、泳げて足の速い人間が出来上がるの。ただし、DNAが一致していないといけない。双子か、もしくは……」


「異世界の自分か!?」


「そういうこと――で、マークは沢山の異世界へ行き、自分を強化し、増殖させて、各異世界を征服しようとしている。今は、まだ、準備段階だけどね、異世界の往来には制限があって、大きすぎる機械や十人前後以上の人間は一度に移動できない。分割して移動しようとしても、同じ世界に移動できる確立は万に一つ……簡単にはいかないわけ」


「そのために、その風土記が必要なわけね。でも、それで一体、朔夜は満足なの? フラーミルの欲望を満たす事に何の意味があるの?」


「意味なんてないわ、それに、私は私の勝手にやらせてもらう。この本をマークに渡すつもりはないわ。明日菜とはいろいろあったけれど、もう私にとっては過去の事……私は私の目的を果たすために、あなたを利用させてもらう。もちろん、ご褒美と交換よ、ちゃんと帰して上げるからさ――と、言うわけで、本題に入るわよ」



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