第2話 故事に綴られた理想の世界
――苦しい……息が詰まる……。
私はやっぱり、このまま死んでしまうらしい。首が締め付けられて息ができない。抵抗しようにも体が動かない。
もし、このまま死んでしまうのなら、最後にとびきり楽しい夢が見たい。
これまでの戦いの生活には無かったような、とびきり楽しい夢を……。
◇
「――炎堂、おい、炎堂! こんなところで素っ裸で寝ていたら風邪引くぞ!」
遠くから声が聞こえる。
「
「えー?
風待……風待がいる。また夢か……。
「さっさとしろ! ほら……よし、それでいい。シャツを明日菜にかけるんだ」
「うむ……炎堂――デカイな」
「なに言ってるんだ! さっさとしろ!」
「だってさあ…… …… ……」
◇
気が付くと
ずっと視界を奪われていた私には、明るく光るまぶたの裏側が新鮮だった。目を
一体何が起こったのかわからない。
ただ、これまでに感じた事が無いような
ずっと昔に無くしてしまった、大切なもの……あれはなんだったか、思い出すにも時間がかかりそうだ。
私はゆっくりと、目を開けてみた。
木製の天井が見える。
古いけれども、とても清潔で
ここは、博物館か、美術館か、まるで、お
天井に感動している場合ではなかった。
辺りを見回すと、これまで見たことのない物ばかりが目に飛び込んできた。
壁も、紙の貼られたドアも、草の細い茎で作られた床も……これは夢か幻なんだ、だって、あの監獄から簡単に
「目が覚めたか……明日菜、お前、心配したんだぞ、深夜になっても帰ってこないから、風待に連絡してみたんだ。そしたら神社に行くって聞いたって……まさかと思ったが、行ってみて良かった」
何だか、不思議な声……初めて聞いたのに、聞いた事があるような気がする。
「まだぼうっとしているのか……でも、学校へは行けよ」
「おい炎堂、後で迎えに来てやっからよ、今日は一緒に登校しようぜ」
今のは、風待の声だ。
「風待、よろしく頼む…… …… ……そうだ、一応約束……ら、明日菜からの明日菜への手紙は渡しとく」
知らないけれど、懐かしい声の主から、私は手紙を握らされた。
――異世界から来た私へ
数学部に入る事になっているから、入部してください。
「ちゃんと、母印も押してあるぞ…… …… ……」
私はまた、深い安堵の内に眠りに落ちた。
◇
風待が迎えに着た。
どこかへ連れ出される。
「相変わらず、ボーッとしてんな、まあ、いつもそんなもんか、最近の炎堂は変だもんな」
風待が笑っている……。
「でも、良かったよ、大毅くんが連絡くれて……じゃなかったら、まだお前、神社でハダカで寝てたぜ」
タイガ? 今、タイガと言った?
そうか、やっと納得した。これは間違いなく夢だ。
初めてだけれど、聞いた事がある気がする声の主は、大毅お兄ちゃんのものだったんだ。
私が十歳の時に、私をかばって亡くなってしまった、大毅お兄ちゃん……
だったら、この世界は、
私が望んでいたように、みんなの最終目的地へ来たに決まっている。
よし。だったらしっかり楽しもう。私が死んでしまう前に見られる最期の夢を……。
「風待、これからどこ行くんだっけ?」
「お前、やっとしゃべったな、しかも、口を開けば……学校だよ! 決まってんだろ? 俺は意外と真面目なんだよ」
「ふーん、そっか、じゃあ、私が今着ている服は制服ね! 私、知ってるんだから!」
「あ、そうかい、『制服を知っている』なんて事を随分、誇らしげに語るねぇ……まあ、いいか、もうなんでもいい、元気ならいいよ」
「あと、数学部ってなんの話? お兄ちゃんが、数学部に入れって言ってたの」
「ああ、そうだったな、数学部は試合の前だから朝練してるぞ、図書館まで送っていくよ」
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