第5話 異世界の真実
画像で見たとおりの広くて高すぎる建物をまるでダンジョンを攻略するかのように進んだ俺はそのままとある一室に通された。一目で応接室とわかる部屋だったので、その辺の価値観に相違はないのだと思い妙に俺は安心してしまった。
「ここで、待てばいいんですね。分かりました」
そう。安堵は人を油断させる最大の拘束具である。相手が一国の王でその王がいったい何を思ったのか俺を指名して城に招き入れるという特別待遇に、これは異世界の王のもてなしを受けられるものだと勝手に思ってしまった俺は完全に安心しきっていた。まるで高級ホテルにチェックインでもして、場違いな雰囲気がそわそわとした高揚感を引き起こさせるかのようなそんな感じ。自分の感情の揺れ動きにのみ関心がいくというのはこれはもう、それ以外のことを心配しておらず相手を信頼して心を落ち着けてしまった証拠である。
だからこそ、応接間で椅子に座っている状況が幻として消え去り、手足を拘束させられてえび反りさせられている現実が見えてしまった時にはひどく混乱してしまった。そして、この状況に陥ってしまったことに驚いているのは当事者である俺だけではなく、拘束者である異世界の王もまたそんな俺を見て驚嘆していた。嘆くように驚いていた。
「おやおや、これはこれはエモーショナァァァルですな。まさかあの幻術を打破できる者があの世界にいようとは。これでは、多くの観光客の中から自分だけが特別扱いされる現象――君たちでいうところの夢ご心地、いや〝幸せ〟だったかな。そこから生まれるエモがとりだせないではありませんか。ほんと、どうやって破ったのでしょう。イレギュラーです」
「……大王、どうしましょうか。こうなっては彼からの抽出は不可能です。秘めているものは並の人間以上でしたが、他の人間と同様に消して送り返しましょうか?」
「そうですね、こうなっては仕方がない。元の世界に返して差し上げなさい」
「……了解」
俺の瞼は完全に開ききっていなかったが、脳は完全に覚醒していた。その限られた視界から得られた情報としてはこの空間は想像の及ばない範囲の広さであるということと、異世界へ旅行しに来たすべての人間がその幻術とやらに掛けられたために俺同様エビ反りであるということである。入り口で話したおじいさんも、ミニスカートの女性やセーラー服の女子高生が下着をさらけ出しながら反っている。一体なぜこのような羞恥極まりない格好をさせられているのか、それは彼らの会話に出てきた〝エモ〟の抽出に関係があるのだろう。俺がこのように考えだしたところで、再び空き缶の底にこびりついた汚れ程度の意識が遠のき始めた。この瞼が閉じて再度開いたときにこの記憶が、この感情が残っていますようにと俺はただ祈ることしかできなかった。
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