リーズナブルなカクノさん
コクーンさんとの突然の別れを乗り越えた僕でしたが、そのころにはインクをあれこれ入れ替える喜びに目覚めていました。インク沼の始まりです。
上野駅のなんか薄暗くておしゃれな文房具屋さんで偶然出会ったラメ入りインク——エルバンのアニバーサリーインクを試してみたくて目をつけたのがカクノさんでした。
カクノさんはお値段千円ほどの鉄ペンです。
お値段がお値段なのでぶっちゃけ書き心地はあんまり良くないのですが、そこはさすがの日本メーカー。筆記に不快感は覚えません。
商品コンセプトとしては、子どもに持たせる初めての万年筆、とのこと。持ち手部分がゆるい三角形なので正しく持ちやすい点などはむべなるかなと言った感じですが、見た目のシンプルさやコンバーターも使える利便性を考えると、大人の万年筆初心者にも充分おすすめできる品です。
あとペン先がかわいい。
さて、ではなぜラメ入りインクを使うために必要になったのがカクノさんなのかと言いますと。
ざっくばらんに言って、万が一ぶっ壊れても惜しくないお値段だからですね。
海外のラメ入りインクは、舶来品の太いニブで使うことを前提とされています。つまりうかつに日本製のペンに入れるとラメが詰まって書けなくなります。
ならウォタ子に入れれば、という話ですが、ウォタ子は割といいお値段なので、もし万が一のことがあったら心が死んでしまいます。無理です。耐えられない。
そういうわけで白羽の矢がたったのがカクノさんでした。
ちなみに、件のインクは中字のカクノさんでなんの問題もなく書けましたし、カクノさんが存命の間、一度もラメ詰まりを起こすことはありませんでした。
存命の間は。
カクノさんだって別に壊したくて壊したわけじゃないんですよ。
ただ、ラメインクを使えるようになったのが嬉しくて、あちこち連れ歩いていて。
僕の住んでる街は自転車がないとどこにも行けない癖に、街路樹の根が張り出して道がどこもかしこも悪路で。
万年筆用でない、普通のペンケースに放り込んで、悪路を毎日がったんがったん持ち歩いていましたらね。
どこかあたりどころが悪かったんでしょうね。
ある日、僕の手のひらに緑色のインクを大量に吐き出して、そのまま動かなくなりました。
申し訳ないことをしました。
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