第17話

鼻先でドアを押し開け、カランカランとドアに付いたベルを鳴らして店内に入り

『小夜子さん、克美さん、こんにちは』

と私は、二人に声を飛ばす。

「いらっしゃい、蜜ちゃん。今日も何時ものを二杯で良いの?」

私は、この店のオーナーの小夜子さよこさんに買い物籠を咥えた首をコクコクと縦に降る。

東京郊外にあるオシャレなカフェでホットチャイをお持ち帰り。

お店のカウンターの上には、小夜子さんお手製のクマの縫いぐるみ『克美かつみ』さんが本を読みながらチョコンと座り私を見てコクコクと首を縦に振っている。

このクマの縫いぐるみは克美さん、元は小夜子さんの産まれた時からのお友達だったの。克美さんは、身体が弱く何時も部屋で本読んでいる人だった。



丁度、一年前・・・の冬の朝、私が小夜子さんのお店にチャイを買いにカフェのドアを鼻先で開けて入るとカウンターの中で涙をポツポツと落としながらコーヒーを淹れている小夜子さんが・・・。


『どうしたの?』と小夜子さんに声を飛ばす。

(小夜子さんは、ちょっとだけ魔力が有り私の声を聞く事が出来る)


小夜子さんは、涙を手の甲で拭い無理に笑顔を繕い「ごめんなさいね蜜ちゃん。恥ずかしい所を見せて。ついさっき、電話で悲しい事の連絡があったから」


私は、レジ近くの床に買い物籠を置いて『悲しい事?大丈夫?』と声を飛ばした。


小夜子さんは、眼に涙をいっぱい溜めながら絞り出すような声で

「お友達の克美ちゃんがね、さっき克美ちゃんのお母さんからの電話でね・・・今朝、彼女が起きて来ないから起こしに行ったら息をしてなくてて。直ぐに近所の昔からの主治医の先生に来てもらったけど眠っている間に持病の呼吸器系の発作で眠ったままで息を引き取ったんだろうって・・・克美ちゃん死んじゃったよう、蜜ちゃん!」

ポロポロと涙を流す小夜子さん。


すると買い物籠さんがカタカタと揺れる。

私が買い物籠さんの持ち手を慌てて咥えると『蜜ちゃん!黒蜜おばはの妹さんの魔道具の魔女、餡子さんの所に行って魂の魔道具コアを貰って来て!早く!!』


私は、買い物籠をその場に置き近くの物陰に飛び込んだ。

餡子さんの工房内に飛び出すと近くに居た餡子さんに『魂の魔道具コアを!!』と声を飛ばした。

緊急事態と察した餡子さん、机の引き出しからコアの入った小箱を取り出し私に咥えさせると暗闇を指差して

「事情は、後で聞くから急いで!」


餡子さんの声を後ろに聞きながら私は、また暗闇に飛び込んだのだった。

お店のレジ近くの暗闇から飛び出した私からコアを受け取った小夜子さん。

カウンターの上に乗っているクマの縫いぐるみの背中を開き魂の魔道具コアを中に詰める。


「蜜ちゃん!買い物籠さんが、私の魔力が篭ったクマの縫いぐるみにコアを入れて克美ちゃんの胸の上に置いたらもしかしたら克美ちゃんの魂を縫いぐるみに保存出来るかもって!!蜜ちゃん!お願い克美ちゃんの所へ!!」

小夜子さんが買い物籠にクマの縫いぐるみを入れながら叫んだ。


克美ちゃんも弱いけども魔力持ちだったのと小夜子さんの魔力と馴染みが良かったので、

クマの縫いぐるみになった克美ちゃん。

小夜子さんのお店の手伝いとして来ているのだけれどもカウンターの上に乗って本を読んでばかり・・・。



でも、本を読でばかりの克美ちゃんを見ている小夜子さんが嬉しそうにニコニコしてるなら良いのかなぁ?と私は、思っている。


「あっ!克美ちゃん!!昔の癖で本を読みながらコーヒー飲んじゃ駄目よ?シミになっちゃう!」

克美ちゃんからコーヒーカップを取り上げた小夜子さんの声が店内に響いた。


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