第18話

神奈川県の圏央道某インター近く

「クケー!!」

朝靄を切り裂く鋭い雄叫びが響く。

鶏のひろみちゃんが、翼を広げて宙を舞う。

そして鋭い爪が私の顔を目掛けて襲い掛かる!

間一髪のところを猟犬の反射神経で躱し、ひろみちゃんと距離を取る。

ジリジリと右側に動きながらある技を使う為のベストなポジションに移動。

『ダン!!ドカン!』建物の壁を利用した三角飛びでひろみちゃんのスキきを突き私は、鼻先ボディアタックをひろみちゃんに喰らわせた。


鼻先ボディアタックを喰らい身体を一瞬浮かせたひろみちゃん。

しかし、力強い翼を広げ直ぐに地上に両脚を付け私をひと睨みし。

「フッ、壁を利用した三角飛び・・・中々良かったわ。流石、甲斐犬。猟犬の本能侮り難しね。今日は、好きなだけ卵を持って帰って良いわよ蜜ちゃん。あっ、但し無精卵だけよ?」

そう言うとひろみちゃんは、水場の方へ悠々と歩いて行った。


「フウ〜、ここの卵は美味しいんだけど、このコッコ卵園の主の自称『ひろみちゃん』(飼い主の付けた本名エリザベス)と戦って勝たなければ、産みたて卵を分けて貰えないのが大変なのよねー」



ロードアイランドレッド種の雌鶏の『ひろみちゃん』農園主が付けた本名は、エリザベスだけど私は、そんなカタカナの変な名前は、要らない!と自分で『ひろみ』と名乗っているそうだ。

普通の養鶏場の鶏の寿命は、二年位らしいけれども、ひろみちゃんはオン年30歳!!正にこのコッコ卵農園の主。

この農園を去年継いだ二代目ご主人が今、27歳なんで、ひろみちゃんの方が長くから居る・・・。

黒蜜おばばが言うには「ひろみちゃんは、立派な魔物だよ」だそう。


魔物だからかも知れないけれども『ひろみちゃん』の産んだ産みたて卵の味は格別!!

急いで卵を持って帰って黒蜜おばはばとTKG(卵かけごはん)の朝食を食べて、その後蒸しプリンを作って貰ってオヤツの時間に食べるんだ〜♡


あちこちに隠れている卵をそっと咥えて、地面に置いた買い物籠に優しく入れて行く。


有精卵は、ひろみちゃんが何時も眠る巣の中にあるそうだからそこ以外にある卵なら貰っても大丈夫。

(ひろみちゃんは、普通の鶏では無いので時間や場所の関係無く卵を産めるのであちこちに卵がある)


都合24個の卵を買い物籠に入れて農園主さんのいる事務所でお金を払ってと。

事務所に入ると作業着と帽子姿の二代目農園主の武さんがレジ前に立ってニコニコしてる。

「やあ、蜜ちゃん。ひろみちゃんとの勝負、見てたよ。凄かったねぇ、あの三角飛び。ひろみちゃんに勝てるのは蜜ちゃんだけじゃ無いのかな。この前、かなり大きな猪が出たけど、ひろみちゃん脚の爪で

仕留めてたからね〜。あの後、ここいら辺の皆で夜に猪鍋食べたんだよね」


えっ?あの脚の爪ってそんなに強いの!!

当たらなくてよかったわ。


「24個で500円にオマケしておくね。あと、さっき言った猪の肉も入れて置くから食べてね」


私は、武さんにお金を払って、お辞儀をしてから買い物籠を咥えて近くの暗闇の中に入った。


何時もの食器棚近くの暗闇から黒蜜おばばの家の居間に現れた私から、卵の入った買い物籠をニコニコしながら受け取る黒蜜おばば。

「う〜ん、この卵。ほんのりと暖かじゃないか。本当に産みたてなんだね〜。じゃあチョット待ってておくれ。この前買ったスキレットで炊いたお米がもう少ししたら炊けるから出来たてご飯でTKGを食べようね」

卵を二つ手に持った黒蜜おばばは、ニコニコしながらキッチンへ行く。


テーブルの上の残った卵を鼻先でチョンチョンとツッきながら

「美味しい美味しい卵さん達、早く食べたいなぁ〜♡」

と思っていたら。


テーブルの上の22個の卵さん達が、ブルブルっと震えてパカッと割れ中からヒヨコさん達が現れた!!


私が先程、鼻先でチョンチョンとしていた卵から生まれたヒヨコさんが私を睨んで

「このアタイを食べようってんのかい?黒い使い魔さんよぅ?いい根性してるじゃあないか!!このアケミさんをよぅ。言っとくけど、アタイの事、農場主が付けようとしてる『メアリー』なんて名前で呼ばないといておくれよ」

他のヒヨコさん達も

「アタイは、ケイコ。バーバラなんて名前じゃないよ!」

なんて言ってる。


うーむ、確実にひろみちゃんの子供ね皆んな。


無精卵だとばかり思っていたけれども有精卵だったのね皆んな。


んっ?皆んな??

「あっ!!さっき黒蜜おばばが、持って行った卵二つももしかしたら!!待って〜黒蜜おばば、そのTKG待って〜」


キッチンに飛び込んだ私が見たのは、キッチンの床に尻餅をついた様に座りこんで口をポカンと開けた黒蜜おばばと

「アタイは、ミチコ、シンディじゃないわよ!」

「カーラ、なんて呼ばないでよね!チアキよチアキ」

と小鉢の中から叫んでる二匹のヒヨコだった。


あ〜あぁ、今日の朝ご飯は、スキレットで炊いたご飯にふりかけかしら・・・?


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る