第16話

「はぁ〜、一度涼しくなったのにまた暑いのがぶり返して来たねぇー。全く、今日の夜はカレーにでもしようか。蜜〜!!鎌倉のミルクホールに行ってカレーを買って来ておくれ」

とダレた感じの黒蜜おばばが言う。


私は、買い物籠にガマ口財布をいれて早速買い物に行く準備に掛かる。

「あっ、ついでにプリンも買って来ておくれ。カレーの後に食べよう」


私は、買い物籠を咥え黒蜜おばばの言葉に頷くと食器棚と箪笥の間の暗闇に滑り込む。

えっ?買い物のメモを忘れてる?

大丈夫、鎌倉のミルクホールと言う小町通りから一本入った場所にあるカフェには、大正時代から生きてるグーニーさんと言う人の言葉が喋れる老猫が年を経て猫又になった猫さんがいて、私が飛ばす言葉を受け取ってお店の人に伝えてくれる。

もちろん買い物籠さんとも古いお友達で買い物籠さんともお喋り出来る凄い猫さんなのだ。

グーニーさん、大正・昭和の初期の頃、ミルクホールの建物が芸者さんの置屋だった時に飼われ始めたけれど年を経て猫又になり置屋さんがミルクホールと言うカフェになった今もずっとここに住んでいる護り神みたいな猫さんなの。


お店の前に置いてある金魚の水槽になっている火鉢の裏の暗闇から現れた私は、さっそくグーニーさんを探してキョロキョロと辺りを見回す。

すると、店の前に置いてあるベンチの日陰から

「こんにちは、蜜ちゃん。暑いわね。カレーのお使いかしら?」

と黒蜜おばばの思考を読んだ様な言葉が掛かる。


「こんにちは、グーニーさん。正にその通りです。それとデザートにプリンも」

買い物籠を地面に置いて私は笑いながら返事をする。


「ふふふっ、流石にプリンまでは読めなかったわね。買い物籠さんもお久しぶり」

グーニーさんがそう言うと地面に置いた買い物籠がカタカタと揺れる。


グーニーさんとお店の中に入って奥のカウンターのあるバールームに行くとフミさんと言うこのお店の奥さんがニコニコ笑顔で迎えてくれる。

「こんにちは、蜜ちゃん買い物籠さん。暑いからカレーのお使いかな?」

やっぱり黒蜜おばばの思考が読まれるわねー(笑)


そんな会話の後でフミさんを見るグーニーさん。

そして、フミさんが私に向き合い

「蜜ちゃん、頼みがあるの。魔界の魔王様の息子さんの所にプリンアラモードを届けてくれないかしら?」


事の起こりは、今日のお店の開店前に電話が掛かって来て、新人のアルバイトの子が電話を受けて対応した事に始まる。

電話対応のメモを見ると

『「今日の午後3時にプリンアラモードを一個出前を頼みます」マカイのマオウさんの息子さんより。』

とあった。

新人の子に聞くと「マカイのマオウの息子だ」と名乗られメモの内容の言葉を早口で言われて電話を一方的に切られたとの事。


西○良平さんの漫画「鎌○物語」でも有名だけども鎌倉は、魔界と繋がっている場所が昔から多く、お店にも魔界からのお客様がいっぱい来ている。

そんな魔界からのお客様からお店の事を聞いた魔王様やその家族の方々から時々出前の注文が入る事が有る。

魔王様やその家族の方々は、魔界の制約で人間界に来る事が難しく美味しい物を人間界に行った魔界の部下達から聞いて出前を頼むのだ。

ミルクホールには、グーニーさんと言う猫又さんがいてプリンアラモード一つ位なら何とか持って魔界に行く事が出来るので魔王様一家は、お店の大の常連様。

けれども夏のお盆に近い時期は、魔界から鎌倉の海などに遊びに来る魔界の方々が多く魔界に通じる道が混雑していて中々魔界に渡れない。(いつもなら店の直ぐ近くにある魔界へ通じる道から数分で行ける)

電話に出たのが新人さんで無ければ、魔界へ通じる道の混雑を知ってるので「時間通りに持って行けないかも知れません」と伝えるのだけれども・・・

電話も魔王様やその息子さんなど魔力が膨大な方しか人間界に通じさせられない。(こちらからは、掛け直せない)

これでは、時間通りに持って行けないぞと考えていた所へ私が来た。

私なら咥えた買い物籠さんに「魔界へ誘導お願いします」と頼んで暗闇に滑り込むと次の瞬間には、魔界へ行けるから魔界へ通じる道の混雑も関係ない。


時計の針を見ると後、20分くらいで午後3時。

私は、フミさんとグーニーさんに大丈夫と首を縦に振った。


「じゃあ、魔界への注文の品を作るからコレを飲んで待っててね」

と私の様な使い魔用の深皿に冷たいミルクセーキを入れて出してくれるフミさん。


あーっ、冷たいミルクセーキ美味しいわ。

丁度、ミルクセーキを飲み終えた頃にカウンター奥のキッチンから調理担当の人が両手にお皿を持って出て来た。

あらら?

カレー用のお皿に丸いプラスチックの筒を被せてもう一つお皿を乗せその上のお皿にもプラスチックの筒を被せて上にラップが掛けられた物とプリンアラモードのお皿に丸いプラスチックの筒を被せてラップがされたのを持っているわね?


「蜜ちゃん今迄、魔界への出前はグーニーが運べるギリギリの大きさで、プリンアラモードが限界だったの。だからカレーやハヤシライスの出前を断っていたのだけれども今迄出来なくて、蜜ちゃんと買い物籠さんなら運べるだろうからついでににカレーとハヤシライスもサービスですって言って届けて貰えないかしら?」

と、フミさん。

グーニーさんと二人が手を合わせて私と買い物籠さんを拝んでいる。


そんな二人を見て私は、「任せて」と胸を張った。


出前の品が入った買い物籠を咥えた私にグーニーさんが

「蜜ちゃんが帰って来る頃には、カレーとサービスでプリンでなくてプリンアラモードを二人前用意してもらとくから」

と声を掛け来る。

プリンがプリンアラモードに⁉︎

私は、ウキウキしながらカウンター近くの暗闇に滑り込んだ。


魔界の入り口前にある大きな門の前にある暗闇から姿を現した私は、門番の首が3個ある巨大な犬の魔物、ケルベロスさんの前に行き買い物籠を地面に置いて

「こんにちは、私は蜜。ミルクホールから出前で来ました」

と声を飛ばす。


すること真ん中にある首の犬さんは

「良く来たね。魔王様の息子さんの注文した品だね?」

とニコニコ笑顔で迎えてくれる。

しかし、右側の首の犬さんが

「ムムッ?初めて見る不審者を魔界へ入れる訳にはいかん!」

と唸っている。

そして左側の首の犬さんが

「通りたければ、通行料を払えば通してやる」

とバラバラの事を言った後に「「「お前は黙ってろ!」」」と言い合い頭三匹が喧嘩を始めた。


地面に置いた買い物籠さんがカタカナ揺れるので咥えてみると

「蜜ちゃん、私の中にある京都の和菓子屋さん特製の金平糖が丁度三包みあるから通行料代わりにケルベロスさんにあげたらどうかしら?」

との事。


私は、買い物籠に顔を突っ込んで金平糖を取り出してそれぞれの首の前に置き

「ケルベロスさん達、美味しい京都の金平糖をどうぞ」

と声を飛ばしてからお辞儀をする。


今迄、意見の対立から言い合いをしていた三匹は、ピタリと喧嘩をやめてニコニコ笑顔で金平糖を見てる。


改めて

「どうぞ、お召し上がり下さいな」

と声を飛ばすと

「「「ありがとう、

早速頂くね」」」

と声を揃えて言うと金平糖をパクパクと食べ出した。


「うおおおー!コレは旨い!甘露甘露‼︎」

と真ん中の首の犬さん。

「こんなに美味しい物をくれる者は、不審者では断じて無い!」

と右側の首の犬さん。

「バリバリバリ・・・通行料と言ってみたが、こんなに美味しい物が貰えるとは、言ってみる物だ・・・」

と左側の首の犬さん。



金平糖を食べ終わったケルベロスさん達、ニッコリ笑いながら

「「「蜜ちゃん、さ、さぁどうぞ、魔界へ良くいらっしいました。門をお通り下さい。魔王様の息子さんは門を抜けて直ぐ右側の御殿にいらっしゃいます」」」

と声を揃えて言う。


何だか門番さんと言っても緩いのね・・・金平糖の賄賂でコレだもの。


私は、ケルベロスさん達にお辞儀をして買い物籠を咥えて魔界の門をくぐった。


門をくぐって右側の御殿のドアから半身を生えさせ口に輪っかを咥えドアノッカーを模しているゴブリンさんに

「こんにちは、私は蜜と言います。ミルクホールから出前を持って来ました」と声を飛ばす。


「出前を持って来てくれたのかい。時間通りだね。今、ドアを開けるから、中に入って真っ直ぐ進んだところにある部屋で魔王様の息子さんがプリンアラモードを待ってるから持って行って」

と怖い顔に似合わない優しい感じのゴブリンさん。


咥えた買い物籠さんが

「門番のケルベロスさんだけにお菓子をあげてゴブリンさんにあげないのは悪いから、うーんと、確かクッキーの包みが一つあった筈だからそれをあげましょうか」と伝えて来た。

私は、買い物籠を地面に置いて籠に顔を突っ込んでクッキーの包みを咥えてゴブリンさんに差し出す。

すること眼を広げてビックリした様子のゴブリンさん。

「私に何かくれるのかい?ありがとうね」

と手を伸ばしてクッキーの包みを受け取り中身を確認する。

「おっ、美味しそうなクッキーだ。蜜ちゃんありがとうね。さあ、中で息子さんが出前をお待ちだ中へどうぞ」

とドアを開けてくれた。


建物の中を真っ直ぐ進んだ場所にある大広間の扉が開いている。


大広間に入ると大きなテーブルとテーブルの周りに椅子が置いてある。

入り口から正面の椅子に坊ちゃん刈りのとても大きな男の子が座ってた。

その子は、私を見つけるとニコニコしながらおいでおいでと手を振る大きな男の子。

その子の直ぐ近くまで行き買い物籠を脇に置きお辞儀をしてから。

「ミルクホールから出前を持って来ました」

と声を飛ばし買い物籠からプリンアラモードを出してテーブルの上にコトンと置く。

そして

「お店からのサービスでカレーライスとハヤシライスをどうぞ」

と声を飛ばしてからお辞儀をする。


魔王様の息子さん、カレーライスとハヤシライスのカバーとラップを取ってマジマジとみた後に

「ヤッター‼︎念願のカレーライスとハヤシライスだ‼︎嬉しいなぁ〜‼︎」

と椅子から立ち上がり小躍りし始める。


しかし、急に真面目な顔をして私をジッと見つめて

「門番のケルベロスとドアのゴブリンに美味しそうなお菓子を渡してたけれども、僕だけ無いのか?」


あらら?魔眼か何かで見てたのね?

でも、自分にもお菓子を寄越せなんて我儘な坊ちゃんねぇ、全く・・・。

買い物籠にまだ何かお菓子、有ったかしら?


私は、買い物籠に顔を突っ込んでゴソゴソする。


鼻の頭にコロンと四角い物が、当たった。

あっ!私の大好物で、大事に取ってあったチ○ルチョコのきな粉餅があった!!

勿体ないけれどもこれをあげましょうかしらね。


きな粉餅のチ○ルチョコを咥えテーブルにコロンと置く。

けれども魔王様の息子さん、チ○ルチョコを見て

「ん〜〜?何だコレは?僕だけこんな小さくて美味しそうじゃない物なのか?馬鹿にしてるんだろう!!」


黄色い包みのチ○ルチョコを見てプリプリ怒っているのを見て私は自分の大好物を馬鹿にされ頭に来て

「何ですって?私の大好物のチ○ルチョコのきな粉餅味が小さくて美味しそうじゃないですって!!せっかく大事に取ってあったのをあげたのに!チ○ルチョコを返して!後、今日のプリンアラモードの代金は月末にグーニーさんが纏めて貰いに来るそうですから。器もこのままで良いそうです。では失礼します!」

と、怒りに任せた声を飛ばしてテーブルの上のチ○ルチョコを回収して帰ろうとすると


「ま、待って、待って、食べない内から美味しそうじゃないなんて言って悪かったよ。怒らないで」

と魔王様の息子さん、チ○ルチョコきな粉餅味をサッと手に取り包みを開けてお口にポンと放り込む。


そして、数回咀嚼して

「うんま〜い!旨い!何だコレは?初めてこんな美味しい物を食べたぞ〜!馬鹿にして悪かった。もっと食べたいぞ〜」


大喜びの魔王の息子さんを見た私。

「チ○ルチョコきな粉餅味の良さが分かる人が増えたわ♡」

仲間が増えた嬉しさからコレまた大事に取ってあった新発売のチ○ルチョコきなこもちプリンを買い物籠から出して魔王の息子さんにハイっと渡す。

(買い物籠の中は保温、保冷、冷凍の魔法が掛けてあります)


プリンを受け取り蓋を開けて一緒に渡したプラスチックのスプーンを使ってパクリとプリンを食べた魔王の息子さん。

「ん、んんんっっ!!?んっ旨い〜〜!、中からお餅が出て来る〜〜!周りのきな粉っぽさも良く出てる!コレは、凄いなぁ」


喜んでる姿を見て私は、フフン、どうだ!という感じで胸を張る。


プリンを食べ終わった魔王の息子さん、私に向き直り。


「魔眼で見聞きしていたが、君は「蜜ちゃん」と言うのだな?嫌、こんなに美味しい物を教えてくれたのだから『師匠』と呼ばせて貰おう。魔王とその家族は、魔界を守る為に魔界から出られないのだ・・・師匠、時々で良いので地上の美味しい物を又、持って来てくれないだろうか?」


真剣な顔の魔王の息子さんを見た私は

「もちろん、良いわよ!それよりもカレーとハヤシライス、早く食べて。冷えちゃうから」

と声を飛ばす。


「お、おお!頼みを聞いてくれるのか!!そういえば、カレーとハヤシライス!初めて食べるなぁ〜!嬉しいな」

椅子に座ってパクパクとカレーを食べ始めた魔王の息子さん。


とっても嬉しそうな顔をしてるわ。


私は、買い物籠を咥えて

「じゃあ又近い内に美味しい物を持って来るからね〜」

と声を飛ばしてから近くの暗闇に紛れた。


ミルクホールのカウンターのある奥の部屋にあるスピーカーの裏から姿を現わすとテーブルの上にカレーとプリンアラモードが置いてある。

「ありがとう蜜ちゃん、品物はそこに用意してあるわよ」

と言うフミさんにお辞儀をしてから魔界であった事をグーニーさんに伝えてフミさんや店の人に伝えて貰った。

ガマ口財布からお金を払って品物を買い物籠に入れて貰っていたらお店の電話が『プルルルル』と鳴りバイトのお姉さんが電話を取り二言三言喋ると困った顔で私を見る。


私が、ビクターの犬みたいに私が首を傾げてると。


「魔界の魔王様が、『蜜ちゃん、ワシも魔眼で見ていたが、門番とゴブリンそして息子に美味しいお菓子をあげたのにワシには無いのか!!ワシも蜜ちゃんを師匠と呼ぶから美味しいお菓子を食べさせて〜』と半分泣きながら電話をかけて来てます・・・」


私は、フミさんとグーニーさんと顔を見つめあって深い溜息を吐いた。

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