第12話
「は〜い、いらっしゃいませ〜!御試食どうですか〜!北海道の美味しい蟹ですよ〜」
私は、いつもの老舗デパートの地下食料品街に買い物に来て、今川焼きが焼けるのを見ていたらフロアマネージャーの石上さんがニコニコしながら隣に並んだ。
「蜜ちゃんいつも地下食料品街をご利用いただきありがとうございます。所で8階の展示会広場で一週間、北海道の旨い物展を開催してるのを知ってるかな?アイスクリームの試食だけでも三店舗はやってるからこの後、見に行ってはどう?その他にも美味しい物が沢山あるよ」
何それ!地下食料品街の試食でも凄いのに北海道旨い物展?はーぁ、私にとっては正に天国だわ。
私は、石上さんにガクガクといつもより多目にお辞儀をして買い物籠を咥えて昇りエスカレーターに乗り込んだ。
咥えた買い物籠さんに
『もし、試食して美味しい物があったら買っても大丈夫かな?』
と問いかけると
『心配しないでも大丈夫よ。逆に美味しい物があったのに買って来ない方が黒蜜おばばは怒るわよきっと(笑)』
そうよね〜、私だけ試食して美味しい物を味わったら
「蜜だけ食べてズルイ!私も食べたい〜!」
って手足をバタバタさせて怒るわねぇ。
『うん、きっと暴れ回るわね黒蜜おばばは、蜜ちゃんのお使いで肥えた舌を唸らせる美味しい物があったら迷わず買っていいのよ』
わーい!買い物籠さんにお許しを貰ったゾ!
気合い入れて試食して美味しい物を見つけてやるぞー!
エスカレーターに乗った私は、買い物籠を咥えてキリっと姿勢を正したのだった。
8階に近づくととっても美味しそうな匂いがする・・・
クンクン、ふぁ〜地下食料品街とはまた違う良い匂い。
匂いだけで、ご飯二杯は食べれるわ。
はっ!ヨダレが・・・
エスカレーターを降りるとそこは夢の国!
北海道の美味しそうな蟹が私を迎えてくれる。
蟹のブースでは、蟹汁を試食させてくれるみたい!
売り子のお姉さんが小さなカップに入れた蟹汁を私の前にコトンと置いてくれた。
はしたないけれども私は、カップを上から垂直に咥えて零さない様に一気に上を向いてガポっと口に流し込む
一瞬、周りが静かになる・・・
私はカップを床に置いてガリポリと音を立てて蟹汁に入っている蟹の殻を噛み砕きゴックンと飲み込む。
『ぷっはー!美味しかった!』
と顔を上げニッコリ笑顔の私に周りは何故か『ほっ』とした様子。
引き攣った笑顔のお姉さんが、カップを回収する時に私の口の中を覗き込み不思議そうな顔をしてたわねぇ。
蟹の殻は、キチン質を含んでてイライラ防止に良いのよ?
傍らに置いた買い物籠がプルプル震えている。
んっ?この震え方は、買い物籠さん笑いを堪えている見たいね。
私、何か変な事をしたかしら?
この後、蟹の足に三杯酢を付けたのを食べさせて貰って、持ち手のところの殻をバリバリ食べてたら蟹のブースの責任者さんが動画に撮ってPRに使って良い?と聞かれたのでOKと首を縦に振る。
少し大き目なカップにテンコ盛りの蟹が目の前に置かれ、先程と同じ様にガポっと口に流し込んだ。
『ガリポリ、ゴックン。プハー!』
はぁ〜美味しかった!
今度は、周りからパチパチパチっと拍手が。
責任者さんが、動画のお礼にと冷凍の蟹の剥き身を買い物籠に入れてくれた。
「お家の人は、殻は無理だと思うから剥き身を入れて置いたよ」
と頭を撫ぜてくれたけど、黒蜜おばばなら殻も大丈夫だと思うけど貰える物は有難く頂くわ。
蟹の入った買い物籠を咥えて、ソフトクリームの試食やジンギスカンキャラメルを食べたりしていると柱の影に黒っぽい物を山積みにして売ってる小さなブースを発見。
ここだけ取り残された感が漂い売り子のお姉さんも俯いている。
一体どんな物を売ってるのかしら?
【炭鉱銘菓・石炭】
拳大の石炭そっくりなブツが山積みに・・・
お姉さんに見つからない様にソロソロと後退りしていたら
「うわーん!蟹汁に入っている蟹の殻をガリポリ食べる真っ黒な使い魔にも避けられる〜!食べると美味しいのに誰も食べてくれないんだ〜!うぇーん!これで売れなきゃ一家心中だ〜!」
わんわんと泣き出す売り子のお姉さん。
売り物の銘菓石炭を手に掴むと床に向かって投げ出した。
私は、猟犬の反射神経を生かしてサッと買い物籠を置きお姉さんの投げた黒い石炭そっくりなブツをパクっとキャッチ!
んっ?!
な、何かしら咥えた瞬間に口に広がる甘さ、顎に反射する心地よい硬さ・・・私は夢中になって石炭そっくりなブツを噛み砕く。
口の中にホロホロと甘さが広がる!
気がつくと口の中は空っぽに。
私は、お姉さんに次のブツを早く投げてと催促をする。
涙目のお姉さん、今度は床で無く天井に近い所にポーンとブツを放り投げる。
私は、ジャンプをしてパクっと銘菓石炭を咥えてバリバリと噛み砕いた。
そんな事を何度か繰り返していると周りがザワザワし始め、見回すと見物をする人がいっぱい!
そんな見物人の中から
「さっきから見てるけどその真っ黒なお菓子を食べさせて貰えないかな?真っ黒な使い魔さんがキャッチしたのをとっても美味しそうに食べるから食べてみたいんだ」
「「「そう、そう食べさせて」」」
と周りからの声が聞こえる。
ブースを囲むギャラリーの言葉に『はっ』と気をとりなおしたお姉さん。
慌てて大皿を抱えて銘菓石炭を配り
「美味しいですよ?見た目より」
とか身もふたもない事を言ってる・・・
『バリボリバリ』っと言う音があちこちで響くと暫し無言になる人々。
「見た目はアレだけど一度食べると又、食べたくなって止まらない系のだなぁ、お姉さん六個入りを一つくれ」
「私は、12個入りを!」
「こっちは、24個!」
それからデパートの人が販売の手伝いに入る程の大盛況に!
私も包装し終わった物をお客さんに渡したりするお手伝いをしていたら用意していた大量の銘菓・石炭は数十分でその日用意してあった分が売り切れた。
売り子のお姉さんが私に抱きついて
「ありがとう!使い魔さん!これで一家心中を回避出来るわ!」
売り子のお姉さんの実家が銘菓・石炭の製造元でこの旨い物展で売れなきゃ本当に一家心中になってたそう。
お姉さんがこの銘菓・石炭の包装紙に私の絵を描いて使って良い?と聞かれ大丈夫と頷く。
試食用に余っていた銘菓・石炭を包んで貰い買い物籠の中に入れて貰いその日は、黒蜜おばばの家に帰った私。
翌週の北海道旨い物展、最終日に会場を覗くと・・・
銘菓・石炭のブースにいつのまにか撮られていた泣きながら真っ黒なブツを投げるお姉さんと投げられたブツをパクっと咥えて食べる私の姿がモニターに流されている。
そしてお銘菓・石炭のブースに客さんの行列が!
飛び上がって黒い塊を咥える黒い犬の絵が書いてある包装紙に包まれた銘菓・石炭が積み上げられている。
商品の間から私を見つけたお姉さん、ニコニコ笑顔で
「蜜ちゃん、行くわよ!」
と大きな声で言った後、私に向かって特大の黒い塊を放り投げたのだった。
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