第13話
「ハイ!」『かぽっ』「ハイ!」『かぽっ』・・・
「ハイ!」というお姉さんの勢いの良い掛け声と共に『かぽっ』と私のお椀にお蕎麦が投入される。
横浜の商店街祭りの椀子蕎麦大食い大会に飛び入りで参加した私、痛恨のミスをして去年のチャンピオンと一騎打ちの大食い勝負中・・・
椀子蕎麦って「もう無理です」になったらお椀に蓋をするのだけれども。
私は、何時もの様に小さなお椀をカポッと咥えて真上を向いて口に入れて食べるスタイルの上にお腹いっぱいになって横にある蓋を口で咥えて取ろうとすると『カポッ』とお椀にお蕎麦入れられてしまうのだ。
ウーン、お腹もうパンパンなのに〜!
私も貧乏性なのかお椀にお蕎麦入れられると勿体なくて食べてしまうわ!!
私と横に居る去年のチャンピオンのお姉さんの脇に恐ろしい数のお椀が積み上げられている。
15杯で盛り蕎麦一枚計算、私と横のお姉さんは今、700杯目を口に入れた・・・
(約、盛り蕎麦47枚弱)
口を膨らませながら私をチラ見したお姉さんが汚いけれども口からお蕎麦を吹き出してそのまま後ろに倒れた!
私は、口に入れたお蕎麦をゴックンして倒れたお姉さんを見ていたらお椀にお蕎麦もう一杯入れられてゲンナリ。
すると商店街長さんがマイクを持って現れて
「今年の優勝者は、飛び入りで参加した使い魔の蜜ちゃんです〜!食べた数は何と700杯!皆さん盛大な拍手を〜!」
私は、目の前にあるお椀に入っているお蕎麦が勿体無いので『カポッ』と食べて脇に置いてある蓋をして見ていた人々にお辞儀をする。
そんな私を見た商店街長さん私のお腹を見ながら
「き、記録は、更新されて701杯に・・・蜜ちゃん一体何処に入ってるの?」
後ろに倒れたままだったお姉さんが、モゾモゾと起き出して長袖のシャツの腕で口を拭いながら
「良い勝負をさせて貰ったわ。流石、黒蜜おばばの使い魔ね。私、
ポニーテールにした黒髪に先程、口から吹き出したお蕎麦が絡まっていて全然カッコ良く無いけれども普通の人とは違う凄味を感じる。
樹さん、私の前脚を握り
「蜜ちゃん、この後やる餡蜜の早食い競争でもう一度見勝負よ!甘い物なら負けないわよ!」
魔女ってやはり普通の人と違うわねぇ〜感性が・・・
『スッパーン!!』
と言う樹さんの後ろ頭を叩く音と共に
「何を言っとるか!このボケ!」
と言う怒鳴り声を上げてカワウソの使い魔さんが現れた。
「口から吹き出した蕎麦を髪に絡ませてヨレヨレの状態の癖にこの上、餡蜜だと〜?オノレは、アホじゃろう?早く身形を整えて勝負に勝った蜜ちゃんとこの商店街に、お前の固有魔法『祝福』を授けろ!そう言う契約で毎年この商店街の大食い大会に参加してたんだろうが!」
祝福の魔法、小鳥遊樹さん、全国各地の大食い大会に参加して自分が負けたら彼女の固有魔法『祝福』をその大会の優勝者とイベントを開催した地域に授ける契約をしてお金を貰って生計を立てているそう。
『祝福』の内容は、様々で樹さんに勝った人に高額宝クジが当たったり呼んだ商店街がとっても繁栄するとか。
だから樹さんは、全国を飛び回っている。
髪に絡ませたお蕎麦を慌てて取って深呼吸をする樹さん。
「まずは、この商店街に祝福を!!」
言葉と共に上に挙げた両手から金色に輝く光が!
商店街中が光に包まれスッと邪気が祓われた感じがする。
「この場所の邪気が祓われました!これで、この商店街で、これから10年は火事や凶悪犯罪は起こらないでしょう」
カワウソの使い魔さんが高らかに宣言する。
隣に居る私に向き直る樹さん。
私のオデコに右手を当てて
「蜜ちゃんに祝福を!」
けれども何も起こらない?
「?」っと首を傾げた樹さん、気を取り直しもう一度
「蜜ちゃんに祝福を!」
また、何も起こらない・・・
後ろに置いてあった買い物籠がカタカナと揺れた。
買い物籠の持ち手を咥えると
「私を樹さんに渡して」
咥えた買い物籠を樹さんにグッと突き出すと買い物籠を手に取った樹さんは買い物籠を耳に当てて「フンフン」と買い物籠さんと会話して、樹さんが優しい顔で私の頭を撫ぜながら
「うーむ、そう言う事か〜それじゃあ無理ねぇ。ヨシ、蜜ちゃん!全国各地の主要な商店街に蜜ちゃんが行ったら、お蕎麦と甘味屋さんで無料にしてもらう様に言って置くから蜜ちゃんへの祝福は、それで良いかしら?」
それを聞いた私はガクガクと顔を縦に何度も上下する。
買い物籠を咥え樹さん達にお辞儀した私は、何で『祝福』が貰え無かったのかなぁ?と思いながら黒蜜おばばの元へ帰った。
その夜、黒蜜おばばに樹さんの『祝福』が何で私に発動しなかったかを聞いたら。
黒蜜おばばは優しい笑顔で
「蜜自体が、皆んなを幸せにする存在なんだからこれ以上『祝福』しようが無いんだよ。だから樹の固有魔法が発動しなかったのさ」
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