第11話

『ぴー、ぴろぴー、ぴろろろろろー・・・』

公衆電話の受話器に向かって私の口から電子音が鳴り響く。

ただ今、和菓子の注文票を送信中。

黒田の魔女の使い魔しか使えない通信方法【使い魔FAX通信】

ちなみに受信も可能。

私の場合には、考えた事や見た画像をそのまま送れる。

受信は、FAXの音を聞いた後に買い物籠を咥えると買い物籠がプリンター代わりになって書き出してくれる。

何故こんな事が出来るかと言うと高齢の魔女の家では、まだFAXが現役で使われておりそれに伴い黒田の使い魔達はFAX通信が出来る様に開発された魔法をかけられているのだ。

今、電話が通じない山小屋でしか作れない魔法薬を製作している黒蜜おばばに頼まれ、お使いの途中で公衆電話からFAXを送信していたのだ。

このお和菓子屋さんは、ホームページもメールも無くて口頭では間違いがあると電話で無くFAXでしか注文を受け付けていないのだ。

ムムッ!街中で受話器に向かって口からFAX音を出す真っ黒い甲斐犬の使い魔は、かなり目立つようね。

皆んなジロジロこっちを見てヒソヒソしてる。


「ピー、ピロピロピー・・・」

ん?私の斜め上からFAX音の様な音が聞こえた。

見上げると小鳥さんが声の限りを上げて鳴いている。

何かを必死になって伝えたいみたい。

気になった私は買い物籠を咥えると『今の小鳥さんさんの声をプリントして』と買い物籠に伝えると『変換完了。コンクリートの地面に私を置いて』と頭の中に返ってくる。


キョロキョロっと見回して駐車場の入口がコンクリートになっている場合を見つけて買い物籠を置く。

ゴトゴトッと動きながらコンクリートの上にチョークで字が書かれて行く。

何々?


***** ****

『誰か助けて!お婆さんが部屋で倒れてるの!いつも美味しいご飯をくれるお婆さんが、ご飯の時間になっても来ないから鳥籠から抜け出して見たら床に倒れてて!誰か、お婆さんを助けて!』

送信先アドレス:横浜市○区○○町2-28-17 の木下 楓さんのお家で毎日美味しいご飯を食べさせて貰っているオカメインコのピー子

**** ****


えー!大変!これは直ぐに助けに行かなくちゃ!

私は、買い物籠を咥えると発信先アドレスの住所へ向かう為に近くの暗闇にスルリと潜り込んだ。


『緊急事態なんで失礼しますね!!』と声を飛ばしながらお婆さんのお家の下駄箱下の暗闇から姿を現す。

(基本的に使い魔は契約魔法で嘘を付けないので人の家に入っても泥棒とかをする心配は無い)


キッチンに入ると小柄なお婆さんがうつ伏せに倒れているわ!

買い物籠を置いてお婆さんを鼻先で大丈夫?とツンツン突いて状態を確かめるとお婆さんがモゾモゾと動き出した。


「うーん、徹夜で作業をしててインコのご飯をあげようと思っていたら床の上で寝てしまったわ」


あら?大丈夫そうね。


「ん?真っ黒な使い魔さんの隣にあるのは黒蜜おばばの買い物籠さん。すると貴女は、黒蜜おばばの新しい使い魔さんのね?私は、木下 かえで魔女では無いけれども人形に魂を込めて動かす人形師よ。私は、魔女になるには、ちょっと魔力が足らなくてね。でも黒蜜おばばの妹さんで、魔道具作りの粒餡の魔女に弟子入りして魂を込め易い人形作りを学んでね。注文を受けて人形を作ったり、自分で作った人形で劇をやって世界中を回ってるんだけども・・・新しい人形劇に出す人形のアイデアが中々浮かばないで徹夜してだけれど貴女と買い物籠さんを見たらアイデアが浮かんで来たわ!何とかなりそう!!使い魔さん貴女のお名前は?声を飛ばしてくれれば私は、受け取れるから大丈夫よ」

『私は蜜、こんにちは』

私は、楓さんに向かって声を飛ばす。

「蜜ちゃんと言うのね。貴女と買い物籠さんの人形を作って劇に出してもいいかしら?」

買い物籠がガタガタッと震えたので持ち手を咥えると

『黒蜜おばばに聞かなくても大丈夫よ、楓さんの事なら良く知ってるから。蜜ちゃんも人形を作って貰って劇に出して貰いましょう。きっと楽し劇になると思うわ』

私は、買い物籠さんの言葉を聞いて楓さんに

『人形劇に出して』

と声を飛ばした。


「ピー!ピロピロ!」

キッチンの小窓を開けた小さな隙間から先程、楓さんの危機を報せに出ていたオカメインコのピー子ちゃんが帰って来た。

元気な楓さんを見て嬉しそうにクルクルと舞ってから楓さんの肩に止まった。

あら?ピー子ちゃんから不思議な魔力を感じる。

そしてピー子ちゃんの脚を見ると強い魔力を感じる金属の環が嵌められているわね?

「蜜ちゃん気が付いたかい?このピー子ちゃんは、私が作った人形なんだよ。脚に付いてる金属の環は、黒田の使い魔FAX通信魔法を開発する時に雛型にしたFAX通信の魔道具だよ。ピー子ちゃんは、ペットと同時にウチのFAXでもあるんだよ。蜜ちゃんは、ピー子ちゃんの発信した救難FAXを受信して助けに来てくれたんだね?ありがとうね。ピー子ちゃん、買い物籠さんもありがとうね」

楓さんは、ニコニコしながらピー子ちゃんの頭をなぜた。

それから、楓さんは買い物籠を耳に当て今まであった私のお使い中のエピソードを聞いてメモに取り人形劇の台本にすると言ってるわ。

何だかとっても恥ずかしい。


それから暫くして私がお使いをして歩いていると小さな子を連れたお母さんから

「蜜ちゃん、お使いご苦労様。でも、いくら大好きでもきな粉餅のチ○ルチョコ拾い食いしちゃダメよ罠にかかっちゃうからね」

何て言われてビックリ。

何で私の失敗を知っているのかしら?


えっ!

楓さんの人形劇で、ちっこい掌サイズの真っ黒い甲斐犬の使い魔人形が、買い物籠を咥えて色々な所に買い物に行って美味しい食べ物に釣られて失敗をする楽しい人形劇を見たですって?

Y○uTubeでも見れるから見て見なさい?

『食いしん坊な甲斐犬黒蜜の失敗』

でシリーズ化してる?!

全世界で動画再生数数千万?


私の恥ずかしい失敗を全世界の人々が知っている・・・


恥ずかしくってもう外を歩けないわ!

もー!人形劇に出して何て言わなきゃ良かった!!

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