第8話

うー、寒いわねー。

昼前から降り出した雪が数十センチ積もっている。

雪が降る中のお使いは素足の肉球が縮こまるわ。

ちょっと田舎の町に美味しいお豆腐屋さんが有ってそこへ今夜の湯豆腐用のお豆腐を買いに来ている所。


今度、魔道具を作る黒蜜おばばの妹さんの所へ行ったら脚が冷えない魔道具でも作って貰おうかしら。


冷えないと言えば、えーっと確か買い物籠の中に確か・・・

あった!

この前買い物に行ったドラッグストアで貰った試供品の使い捨てカイロの小さな奴!

近くにあった屋根のある小屋になっている無人駅で私はビニール袋を口で破って軽く噛んでカイロを反応させて脚を乗せて暖をとる。

はぁ〜ヌクヌクで気持ち良い。

お豆腐屋さんは直ぐそこだけど一度暖かい物に触れてしまうと抜けられ無いわねー。

もう少し暖まってから買いに行きましょう。


脚が暖まってからカイロをお腹の下に敷いて温いわ〜と思いながらボーっと雪が降るのを見ていると雪と見分けが付かない様な真っ白な猫さんが口にコレまた真っ白な子猫ちゃんの首の後ろを咥えて寒そうに歩いて来た。

猫さん無人駅の中にいる私にビックリしてたけれど濡れて無く雪が入って来ていない無人駅の床を確認してソロソロと無人駅に入って来て私の横に腰を下ろした。


口から子猫を下ろして子猫を数回舐めた後私の方を向いて御辞儀する。


「猫さん、こんな雪の中どうして外にいるの?」

と私が聞くと

「雪が降る前に子猫と外に出ていて先程飼われているお婆さんの家に帰ろうとしたら雪で扉に付いている猫用の出入り口が埋まって入れなくてね。お婆さんは耳も腰も悪いから明日にならないと私達が居ないのに気が付か無いだろうから何処かで一晩子猫と過ごさないといけなくて今夜の寝床を探してたの・・・私は大丈夫だけど子猫はちょっと心配」

何だか大変ね・・・


私は、買い物籠の中を覗き込み厚手のタオルを引っ張り出して無人駅の奥に敷きお腹の下に敷いていたカイロを真ん中に置く。

「猫さん、このタオルとカイロを使って私はそこのお豆腐屋さんでお豆腐を買って帰るだけだから」

私がそう言うと猫さん親子は嬉しそうにカイロの上に座る。


猫さん親子、二匹で寄り添ってニコニコしてるわ。

私はタオルの片側の端を咥え猫さん親子の上に掛けるとその反対側も同様に掛けてあげる。

「お母さん、お腹の下があったかくってお母さんとタオルでお家にいるより暖かいかも。それに、この頃お母さんと一緒に寝てなかったからお母さんとくっいて寝られて嬉しいな・・・」

「甘えん坊な坊やね。こんなの今夜だけですからね」

猫さん親子、これなら大丈夫そうね。


「じゃあ、私は買い物をして帰るわね。タオルはあげるから気にしないで」

と私は豆腐屋さんに向かって歩き出した。


帰りはお豆腐屋さんの店内から帰らせて貰ったから猫さん親子の顔は見てないけれどもあの様子なら大丈夫そうね。


あれから数ヶ月経ち夏に冷奴でビール飲みたいと言う黒蜜おばばのリクエストに応える為に久々に田舎の豆腐屋さんへやってきた。


お豆腐屋さんに向かう途中にある無人駅の前を通るとスラッとしたイケメンの白猫が無人駅の床で涼んでる。

こんな暑い日は日陰の床って気持ちいいのよねーとか思っていたらイケメン白猫さんが私を見た途端に此方へ駆け寄って来る。

ん?私、猫さんを睨んだりしてないわよ?


「やっと逢えた。あの時のお礼を言いたくて暇が有れば無人駅でずっと待ってたんです。そのせいでこの頃『無人駅の白猫駅長』なんて呼ばれてるんだけどね」

無人駅の白猫?何だか記憶に引っかかる様な・・・


「やだなぁ、分かりませんか?雪の日にカイロとタオルを貰った白猫ですよ。まだ、あの頃は子猫でしたが」

えー!このスラっとしたイケメン白猫があの時の子猫ちゃん?


それからあの後の話を聞くと無事に一晩を過ごし朝方に無人駅の前を車で通りがかった飼い主のお婆さんの孫に見つけて貰ってタオルとカイロごとお婆さんの家に連れて帰って貰ったそう。


あれから少し経ち自分独りで外を出歩ける様になった白猫君。

あの時のお礼を私に言う為に無人駅でずっと待ってたんですって。

そうしたら無人駅の白猫駅長と有名になってブログや雑誌に取り上げられて、本当は私に会ってお礼を言ったら無人駅に居るのを止めようと思ってだけれどもずっと無人駅にいなきゃいけないみたいって苦笑いしてる。


それから数日後、東京の本屋さんに寄り黒蜜おばばに頼まれた雑誌を買いに行ったらいつのまにか撮られたのか傍らに買い物籠を置いた私と白猫君が無人駅前でお話ししてた時の写真が表紙の雑誌が書店に並んでいてビックリ。


雑誌の下に『無人駅の白猫駅長。買い物をしている黒い使い魔さんに道案内中』ですって(笑)

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