第7話

「蜜〜、お鍋を持ってオデンを買って来ておくれ」

私は、今夜の夕食用に買い物籠に中型のお鍋を入れて東京にある老舗オデン屋さんにやって来た。

ランチが終わり夕方の営業前でお店の暖簾がかかっていない時間帯。

普通は駄目だけれども使い魔の私達がお使いに行くには営業時間だと対応出来ないから暇なこの時にいらっしゃいと初代の女将さんが言ってくれたそうだ。

私、この店のランチ、元は賄いだった御飯にお豆腐を乗せオデン汁を掛けたのも大好き!でも今夜はホッコホッコのジャガイモやフワフワのハンペンに銀杏の入った餅巾着を食べるんだ〜。

こんにちわ〜っとお店の引戸を鼻先で開けて入るといつもと違う雰囲気・・・でも匂いはいつもと同じ出汁の香りが充満してる。

カウンターの向こうには初めて見る料理人のおじさんが大きな銅鍋の向こうで腕を組んで唸っていた。

買い物籠を咥えた私は『こんにちわ』と頭を下げた。

カウンターの中のおじさんオヤッと私に気がついてニコっと笑ってくれる。

「使い魔さん、悪かったね気が付かないでちょっと新しいオデンタネと賄いを考えていて煮詰まっちまっててね・・・」

私は首を傾げ大丈夫?お邪魔じゃない?とおじさんを見た。

「使い魔さんに心配をかけてしまった見たいだね。大丈夫だよ」

私は首を左右に振って大丈夫と伝える。


「何か食べて楽しいオデンタネと賄いを考えているんだが、何か無いかなぁ〜」

とおじさんが唸る。

私は、椅子に座って大きな銅鍋をヒョイっと覗いた。

あれ?銀杏の入った巾着が無い!

お餅と銀杏の入った餅巾着無いの今日?

「クウ〜ン、ピスピス・・・」

せっかく楽しみにしてたのに・・・。

「ん?どうした?使い魔さん。悲しい事でもあったのかな?」

私は、巾着が無いのをどう伝えたら良いか考えた。


カウンターの中を見ると串に刺した銀杏と四角いお餅が有る。

私は銀杏とお餅を鼻先でツンツンと示しカウンターに置いた買い物籠をお揚げさんに見立て中に入れるジェスチャーをしてから巾着を締める様な動作をする。

「ふむふむ、銀杏とお餅を袋に詰めて紐で締めるでいいのかな?」

おじさんの言葉に私は首をコクコクと縦に振る。

「買い物籠の色と形を考えると半分に切ったお揚げさんか・・・面白い!やってみよう」

おじさんは、干瓢を水に漬け、冷蔵庫を開けるとお揚げさんを何枚か取り出して真ん中で二つに分けると笊に乗せてヤカンのお湯を掛けて油抜きをする。

中を指で開いたお揚げさんに銀杏とお餅を入れて戻した干瓢で口を縛り出汁の入った銅鍋に投入。

これで煮えるまで暫し待つ。

すると私のお腹が『キュ〜』っと可愛く鳴いた。

今は丁度、お八つ時。

嫌ねぇ育ち盛りの使い魔はすぐにお腹が空いてしまうのよ!!


お腹が鳴いて恥ずかしそうにモジモジしてる私を見たおじさん楽しそうに笑ってる。

「使い魔さん。俺も丁度小腹が空いた所だ一緒に賄いを食べて行かないかい?」

その言葉に私は舌を出しながらコクコクと頷く。

あっ!賄いを食べさせて貰えるならアレが良いなぁ。

この店の名物のご飯にお豆腐を乗せて出汁を掛けた奴。

私は、古風な木のお櫃と銅鍋の中の豆腐を鼻先で示した後にオタマを鼻先で示す。

「ん?お櫃のご飯に豆腐、それとオタマと言うと・・・ご飯にオデンタネの豆腐を乗せて出汁を掛けるのか?これも旨そうだな使い魔さん」

おじさんはニコニコしながらご飯を茶碗に盛りお豆腐を乗せて出汁を掛けた。

カウンターの私の前にコトリと茶碗が置かれた。

お箸と茶碗を持ったおじさんと「頂きます」とお辞儀して賄い豆腐飯を食べる。

固めの木綿豆腐、中まで味が染みてる!

出汁のかかったご飯も最高!

何度食べても飽きない味ねぇ。

シャクシャクと夢中で食べるおじさんと私。


同時に食べ終わって笑顔で頷き合う。


「使い魔さん。コレ良いねぇ、これからうちの賄いの定番になるよ。おっ!先程のお揚げさんも煮えたな食べてみようか」


巾着を乗せて出汁を掛けた小皿が目の前に置かれる。

また、頂きますとお辞儀してハフハフと食べて行く。

お餅がニューっと伸びる。

銀杏がアクセントになりとても美味しい。

あーもう食べ終わっちゃった。

美味しい物は直ぐに食べ終わっちゃうのね。

これも同時に食べ終わったおじさん。

「これは、新しいオデンタネになるぞ!何が出るか楽しみだし。ヨシ、コレを餅巾着と呼ぼう。使い魔さん新作のオデンタネと美味しい賄いを教えてくれてありがとう。今日はお代は要らないから好きなオデンを持って行ってくれ」

おじさんの申し出に私は椅子の上で飛び上がって喜んだ。

おじさんは買い物籠から取り出した鍋に食べ切れ無い程のオデンと出汁を入れてくれた。

もちろん先程作った餅巾着も。

ズシリと重い鍋の入った買い物籠を咥えた私はおじさんにお辞儀してお店を出る。

フト振り返ると先程の建物よりお店が新しくなってるみないな?

でも重い買い物籠を咥えてそれどころじゃない。

早く帰って大量のオデンを黒蜜おばばに見せなきゃ。

私は近くの植え込みの中の暗闇に飛び込んだ。

その夜、大量のオデンにニコニコしてる黒蜜おばばと私はお腹がパンパンになるまでオデンを堪能させて貰った。

「ふぅ〜お腹パンパンだよ蜜。お豆腐のオデンと出汁が残ってるから明日はご飯に乗せて食べようか?そういえば先先代のオヤジさんこの豆腐の賄いと銀杏入り餅巾着をフラリとやって来た買い物籠を咥えた真っ黒な使い魔に教えて貰ったと言う話だけど昭和の初めの頃の事だけど一体何処の使い魔だろうねぇ?」

私の顔を覗き込む様に黒蜜おばばは私に話し掛けるが、私はお腹がパンパンになってコクリコクリと眠ってしまっていた。

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