第6話
「明日の黒蜜おばばの誕生日、プレゼント何が良いかなぁ〜?」
私は持ち手を咥えている相棒の買い物籠さんに聞いてみた。
「蜜ちゃんの気持ちが篭っていれば何だって大丈夫よ」と返って来たけれどもどうしょうかなぁ?
私は、買い物籠さんをテーブルに置き自分の寝床の毛布の下に仕舞ってある小さなチョコレートの缶を引っ張り出して中に入っている小銭を数えてみた。
お使いの時の余った端数のお金や時々貰うお駄賃を貯めて置いた物だ。
ちゅうちゅうタコかいなっと数えみたら350円丁度ある。
うーむ、安いお店でならショートケーキを一つ買えるかな?
後、蝋燭を一本10円で付けて貰って多分消費税込みで買えるはず。
私は、明日のお使いの時、ケーキを買う為にチョコレートの缶を買い物籠にソッと忍ばせる。
次の日、黒蜜おばばに頼まれた魔法薬を届けるお使いの後に買い物籠さんに頼んで東京にある黒蜜おばばが大好と言っていた老舗洋菓子店がある商店街に寄り道して貰った。
すると商店街の中程で側溝の穴を四つん這いになって覗いている女の子を発見した。
近づいて丁度私の目線と同じ高さになっていた女の子の顔を見ると目に涙を溜めて今にも泣きそうになっている。
買い物籠を咥えたままどうしたの?と首を傾げると女の子は「うゔぐぇぇーん!犬さん私、お母さんに頼んで初めてのお使いをさせて貰っだどにーおがね落としちゃっだー!」
鼻水も出しながらグチャグチャの泣き顔で泣く女の子。
私は、買い物籠からティッシュを出して女の子に渡す。
ティッシュで、鼻水をチーンして涙を拭いた後「ありがとう、犬さん」と言ってペコリとお辞儀をした女の子。
女の子が覗き込んでいた側溝を見ると水を使う時間帯なのかかなりの水量が流れている。
ここにお金を流したなら見つけるのは無理ねきっと・・・。
側溝から顔を上げて女の子の目を見てダメみたいねと顔を横に振る。
「やっぱりダメか〜。100グラム80円の豚バラ400グラムと消費税で350円貰って来てたけど今夜の鍋は肉無し野菜鍋かぁ・・・」
肉無し野菜鍋・・・とても恐ろしいわねそれは・・・。
私は意を決して買い物籠の中から小さなチョコレートの缶を取り出して女の子に渡した。
不思議そうに缶を受け取った女の子、缶を開けて中を見て
「えっ?良いの?犬さん丁度350円あるけれど!」
私は大丈夫と首を縦にコクコクした。
缶を握りしめながら私の首に抱きついた女の子。
ヴェ〜丁度気管を絞めてるわよ!チョークチョーク!
私は前脚を地面にタップして参ったをした。
ようやく気が付いた女の子が手を離してくれて何とか呼吸をする私に
「ありがとう犬さん、私嬉しくってつい・・・」
荒い呼吸のまま大丈夫と首を振る私を見ながら女の子が
「今度、犬さんがこの商店街に来たらこの御礼は必ずするから、ありがとうね」
そう言って女の子はお肉屋さんのある方へ走って行った。
買い物籠を咥え直した私は黒蜜おばばの元へ帰る為に近くの暗闇にトボトボと歩き出した。
その日の夕食はチキンの丸焼きがメインの豪華な物だったがケーキは無かった・・・。
私は黒蜜おばばに
「プレゼント・無いの・ごめんなさい」
と声を飛ばした。
「買い物籠に聞いたよ。蜜はケーキを買うお金で困っていた女の子を助けてあげたんだろう?私にはそんな蜜の優しい心が掛け替えのないプレゼントだよ。偉かったね蜜・・・」
私の頭を撫ぜながら黒蜜おばばはとても優しい顔で言ってくれた。
「さぁ、冷めない内にチキンを食べようじゃないか」
その日の夕食はいつもよりとても暖かく美味しい物だった。
数日後、晩御飯の惣菜を買った後、この前女の子に会った商店街を何か他に無いかなぁと歩いていたら黒蜜おばばが大好きと言っていた老舗洋菓子店から白衣姿のおじさんが、泡立て器にクリームを付けたままのを片手に持って飛び出して来た。
「豚バラ400グラム350円の買い物籠を咥えた黒い使い魔!!」
と叫んだ。
何だか偉く具体的な事を言うわね?この人。
「あの日、肉無し野菜鍋になる所を救ってくれたんだよね?君は?」
肉無し野菜鍋?その恐ろしいフレーズどこかで聞いた様な?
すると店から出てきたエプロン姿の女の人が丸い銀のトレイでスパーンと白衣のおじさんの後ろ頭を叩いた。
「肉無し野菜鍋とか家庭の事情を大きな声で吠えるな!スカタン!使い魔さんも困っているだろうが!」
そんな漫才を商店街の人達と見ていた私にエプロン姿の女の人が
「驚かせてごめんね。真っ黒な使い魔さん。私はこの前、貴女がお金を落として泣いていたのを助けてくれた娘の母親なんですよ。あの時は本当にありがとうございました。あの夜、娘が来週の自分の誕生日ケーキに買い物籠を咥えた黒い犬を描いて欲しいと言い出して、その上そのケーキを買い物籠を咥えた黒い犬に渡してくれと言いだしてね。問い詰めたらお金を落としたと・・・」
泡立て器を持った白衣のおじさんが
「いや〜ぁ、あの日、使い魔さんが居なければ肉無し野菜鍋になる所でした。ありがとうございました。次の日に商店街で聴き込んだら娘を助けてくれたのが先代からの常連さんの黒蜜おばばの新しい使い魔さんだと解って待ってたんですよ」
するとタッタッタと言う足音がしたと思ったら後ろからドンと言う衝撃の後に首をギューっと絞められた。
ヴェ〜!チョークチョーク!
前脚でタップするとこの前女の子が
「ごめんね、つい力が入って」
と首を絞める手を離した。
この子、絞めの才能があるわね。
ヤバイわねこの子の将来。
ゼェゼェと荒い呼吸の私を見た商店街の人が
「流石、元悪役レスラーマッハ八重さんの娘。見事なチョークスリパーホルド!!」
とか言ってる。
余り深い所には触れない様にしときましょう・・・。
「コラ!
「ハイ、助けてくれた黒い犬さんに出会えて嬉しくて足音に気を回せませんでした!次は無音で仕留めます!」
敬礼をする女の子、ヤバすぎこの母娘。
泡立て器を持った白衣のおじさんそんな二人の会話を無視して
「買い物籠を咥えた黒い犬の型紙を作ってあるからホールケーキに黒いパウダーで今すぐに絵を描いて持って来るんでちょっと待ってて、あっ使い魔さんの名前は何て言うのかな?」
地面に置いていた買い物籠がガタガタ震えてチョークで書いた様な字で「蜜」と書いた。
それを見た白衣のおじさん店の中に飛び込んで行く。
しばらくすると黒いパウダーで犬が買い物籠を咥えた姿の絵の上にチョコレートで『蜜ちゃんありがとう』と書いてある大きなホールケーキを持って白衣のおじさんがやって来た。
私は九重ちゃんとお母さんの八重さんお父さんを見て良いの?貰ってもと首を傾げる。
「泣いている娘を助けてくれた御礼だよ。遠慮しないで貰って頂戴な。あの缶に入ってたお金は蜜ちゃんの大事なお金だったんでしょ?そんな大事なお金を娘にくれた優しい蜜ちゃんの気持ちに対してのケーキだから受け取って」
九重ちゃんのお父さんが箱にしまったケーキを買い物籠に入れてくれる。
九重ちゃんが背負っていたランドセルから私のチョコレート缶を出して買い物籠に入れてくれた。
私は買い物籠を咥えて皆にお辞儀をしてから近くの暗闇に飛び込んだ。
黒蜜おばばにケーキを見せるととても喜んでる。
買い物籠から事のあらましを聞いた黒蜜おばば。
「蜜の優しさが大きなケーキになって返って来たねぇ〜。蜜が私の使い魔なのは誇りだよ」
この前に増して優しい顔で私の頭を撫ぜてくれる黒蜜おばば。
でも、ちょっと顔を顰めて。
「蜜や、今度からあの商店街に行った時には後ろからの奇襲に気をつけるんだよ。九重ちゃんの良い練習相手として認められた様だからね。九重ちゃんだからまだ良いけれども八重さんにやられたら命は無いからね気をつけて・・・」
それからあの商店街に行った時には後ろを警戒しながら早足で買い物をする私が居た。
何なのあの母娘?
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