第5話

「ふ〜〜んふふん〜ん」

今日は私の大好きな中華まんを買いに行く途中。

買い物籠を咥えたままだけれども鼻歌を歌いながら大阪の街を歩いている。

私、55○の中華まん大好き〜♡

辛子をたっぷりと付けて熱々のをホフホフと食べる。

普通の犬なら辛子とかダメだけど使い魔の私なら大丈夫!

うっれしいなぁ〜っと楽しみだなぁ〜っと!

お店が近くなるとあの匂いが漂って来る〜。

あー結構並んでるなぁお客さん。

最後尾にチョコンと座った私の前に並んでた男の子が振り向いて「あんさんお使いの使い魔でっか?お疲れ様でんなぁ」とニッコリしながら話し掛けて来た。

髪の毛がアンテナみたいになってて細い目の笑った顔の男の子。


私はありがとうと頭をコクンと下げた。

「ワイはケンいいまんねん。よろしゅうな使い魔はん」

私はチョコンと御辞儀をする。


咥えていた買い物籠から「前の男の子に自分を渡して」と声が来たので買い物籠を男の子にグイっと差し出す。

「おっ?買い物籠はんわてにご用意でっか?」

と言い買い物籠を受け取ると自分の耳に当てるケン君。

「ふむふむ、どこかで見た事のある買い物籠だと思っとったら黒蜜おばばの使い魔はんでしたか〜。何々?この蜜ちゃんは暗闇から暗闇に移動出来ると?ほんなら一つ頼みがありますねん」


ケンちゃんの言う事には自分の名付け親の親族で子供の頃から知っている青年が船乗りになっているが、数日前に帰って来ている筈だがまだ港に到着していない。彼は55○の中華まんを深く愛しておりこれを一定期間食べないと力が出なくなりションボリして落ち込んで使い物にならなくなるそうだ。

なのでこれから買う中華まんを青年に届けてくれないか?との事。

私は、お安い御用と首を縦にコクコク振った。


順番が来て中華まんを買う段になったらケンちゃんが青年へのお土産分と、私達の分まで買ってくれた。

「お使いのお駄賃でんがな」

と言いながら私の頭を撫ぜてくれた。


良い匂いがする中華まんを買い物籠に入れて貰い私は青年の乗る船へ向け近くの暗闇に飛び込んだ。

(買い物籠に搭載されたGPSシステムで船の名前が分かれば買い物籠には船の位置が分かるらしい。恐るべし買い物籠)


コンテナ船の甲板の上にあるロープの裏の暗闇から現れた私はキョロキョロと周りを見回す。

?なんだか変な感じ・・・ピストルを持った覆面姿の人が数人いる。

咥えている買い物籠から「海賊!注意して!」と声が来たのでサッと物陰に隠れる。


ケンちゃんの知り合いの青年はどこかしら?

中華まんが食べられなくてションボリしてるから見れば分かるよと言われたけれども・・・。


あっ!コンテナの前に物凄くションボリして縛られたまま座っている青年がいる!きっとあの人ね?


見張りが居ないのを確認して青年の後ろから姿を現した。


ションボリしたまま動かない青年の前に買い物籠を置いて縛られているロープを噛みちぎる。

目の前の買い物籠から出る中華まんの匂いで青年がグワッと眼を開けて籠に手を突っ込む。

青年へのお土産用の三個入りの箱を取り出して付属の辛子を掛けるとまだ熱いのにバクバク食べ始めた。


あれよあれよと言う間に三個の中華まんを食べ終えた青年。

近くにあった鉄パイプを握ると「お前ら!!よくも俺の乗っ取る船にカチコミ掛けてくれたな!!目に物見せたるデェ〜」

それからは青年の独壇場だった。

唸る鉄パイプ!!

海賊達は紙の様に吹き飛ぶ。

物凄い速度で動く青年に銃も役に立たない。

あっという間に10人いた海賊を成敗した。

海賊達をロープで縛り船室に閉じ込められていた船員さん達を解放してから私の前に来た青年。

「イヤァ〜大好物の中華まんが籠に入っていて思わず食べてしまったけれどもすまなかった」

と頭を下げた。

買い物籠がカタカタ震え甲板の上に黒い文字を書いて行く。

鉛筆で書いた様な字で

『大阪のケンちゃんからの差し入れだから大丈夫』


それを見た青年

「うおおおぉ!ケンちゃんから差し入れか!ナイスタイミング!中華まんが食べられなくて力が出なくて海賊にやられてしもうたんや。嵐で遅れて本来ならもう大阪の港に入っているころやったんやがな。真っ黒な使い魔はん買い物籠はんありがとうな」


ほうれん草を食べたポパイみたいに力瘤をギュッと盛り上げた青年。

さっきのションボリとは大違いね。


青年が後、三日したら大阪港に到着するからそしたら今回の御礼に串カツとドライカレーを食べさせてあげるから是非とも会いに来てと言われた。

そしてケンちゃんに一緒に会いに行こうと誘われた。


それから船長さんや他の船員さんに見送られ私は買い物籠を咥えて黒蜜おばばの元へ急いだ。

だって私達の分の中華まんが冷えちゃうものね。


三日後、青年に会いに行くと船長さんがこれで美味しい物を沢山食べていらっしゃいとお小遣いをくれたのでホクホク笑顔で青年と大阪の街に出かけた。


串カツ屋さんでソース二度付厳禁と書いてある張り紙を見て「ホェ〜」そうなんだと感心し串カツをガッガッ食べ。

ドライカレーの生卵にビックリして中華まんを買って通天閣にやって来た。


通天閣の展望台でどこかで見た事のある金色のお人形さんが・・・。

青年は人形の前に中華まんを置き人形の足の裏を撫ぜながら「無事に帰ってこれました。差し入れありがとうございます。ケンちゃん」と言った。


ビックリしてる私に青年は

「俺の曾祖母がこの近くで昔芸者さんをやっていて「ビリケン」と言う名前を付けたらしいんだ。それからうちの家族は何かあればビリケンさんにお話しにくる様になっててね。船で海賊に捕まって力が出なかった時に中華まんを持って蜜ちゃんが現れ「ケンちゃんから差し入れ」と聞いてピンと来たんだよね。皆んなビリケンさんと言うけれども俺はいつも『ケンちゃん』と心の中で呼んでたから俺の名前・・・『健』と同じ呼び名でとっても大事な友達として」


健さんはビリケンさんの足の裏をこちょこちょっとくすぐってから、とっても良い笑顔で友達のケンちゃんに笑い掛けた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る