第2話

深い森にある地脈からの魔力を集め魔法薬を作る為に私の主人、黒蜜おばばは深い森の中の山小屋に住んでいる。

私の前の使い魔は極楽鳥の使い魔だったそうだけれど加齢による能力の衰えで引退した。

(深い森から遠くの街まで何度もお使いをさせられ逃げ出した)


「蜜、富山の魔法薬問屋、丸屋さんに魔法薬を届けた後に東京のデパ地下で晩御飯用にお惣菜を買って来ておくれ。蜜の好きな物を買って来て良いから。それとデザートも頼むよ」

意思を持つ魔道具の買い物籠に魔法薬とガマ口財布を入れて頭を撫ぜてから買い物籠を咥えさせてくれた黒蜜おばば。

私の咥えている買い物籠は意思を持っていて私が行った事の無い場所へ導いてくれたり時には買い物のアドバイスをしてくれたりも。

(インターネットに接続して常に地図や情報を更新しGPSで位置を確認している)

先ずは富山の魔法薬問屋さんへ。

居間にある食器棚の間の暗闇にタッタッタと走り出す。

蔵を改装して店舗にした魔法薬問屋前にある自販機裏の暗闇から現れた私は店の引戸を鼻先で開け店内に入った。

「おや?蜜ちゃんお使いご苦労様。丁度、地獄人参茶を淹れた所だ。飲んで行きなさい」

入り口横にある接客用のテーブルでお茶とお菓子の用意をしていた背広の上に白衣を羽織ったこの問屋の社長、丸山さんがニコニコしながら言ってくれた。

引戸を鼻先で閉め丸山さんの前の椅子にピョンと飛び上がる。

顎を上げて買い物籠を丸山さんにどうぞと差し出す。

買い物籠を受け取った丸山さん、買い物籠の中から魔法薬を取り出し一緒に入っていた二枚複写の伝票にサインして下の複写伝票を買い物籠に戻してくれる。

小皿に載せた富山銘菓の甘○丹(かん○○たん)と言うフワフワスポンジ生地にカスタードクリームを包んだお菓子と地獄人参茶を私の前に用意してくれた。

地獄人参茶は使い魔用に少し深めのお皿に淹れている。

お辞儀してから地獄人参茶をフーフーしながら頂く。

そして甘○丹をパクリ。

こってりとしたカスタードが口の中で広がった。

うーん!美味しい。

「気を遣わずに帰る時は店内の暗闇から帰って良いよ蜜ちゃん」

お茶とお菓子を堪能して口の周りをペロリと舐めてからご馳走様とお辞儀をして買い物籠を咥え引戸前にいた私に丸山さんが言ってくれた。

私は丸山さんに振り返り小さくお辞儀して引戸の隙間にある暗闇へ姿を消した。

次に現れたのは東京の老舗デパート地下食料品売り場。

エスカレーター横にあるベンチ裏の暗闇から姿を表し買い物籠を咥え店内をキョロキョロと見回す。


夕方には届いていない時間帯のデパ地下はまだ其れ程混んではいない。

初めてのデパ地下にドキドキしながら探検を開始。

ピカピカの床は少し滑るけれども買い物籠を咥えタッタッタと人の間を縫う様に通路を歩く。


入り口近くの焼き鳥と手羽先、唐揚げのお店の前で数秒固まってしまったけれど一通り店を見てから買おうと歩を進める。

量り売りの惣菜屋さん。

何々?ローストビーフが今日のお勧め?それに串カツがこの惣菜屋さん名物ですって!

「クンクン」

甘〜い串カツに掛かったソースの香りが堪らないわ。

買い物籠を咥えた口から涎が落ちそうになるのを堪えて次のお店へ。

まだデパ地下巡りは始まったばかりよ。


前方に居るお母さんに手を引かれた三歳位の男の子が笑いながら私を見て手を振っている。

やだ、涎垂らしそうになったのを見られたかしら?

「ワンワン、ワンワンがいる」

「偉いわねワンワンお買い物よ」

あー良かった。

男の子は、ただ手を振っていただけね。

恥ずかしい所を見られたので無くて良かったわ。

手を振っている男の子に尻尾をパタパタと振って挨拶を返して次のお店へ。

中華のお店で掌位あるジャンボ餃子にビックリしたり、漬物屋さんで漬物を試食したりした後。

今川焼き【御座候・大判焼き・回転焼き等言われる事もある】のお店の前で店員さんが今川焼きに餡子を入れている姿に見ほれていると私の横に白いブレザーを着た【マネージャー・石上】と言うネームプレートを胸に付けている白髪交じりの男の人が立っていた。

買い物籠を脇に置いてマネージャーさんにこんにちはとお辞儀する。

ニコリと笑ったマネージャーさん。

「真っ黒な使い魔さん当デパート地下食料品売り場を御利用頂きありがとうございます。今川焼きが気になるのかな?」

コクコクと頷いた私を見て。

「僕もこの良い匂いとクルクル回りながら焼けて行く今川焼きを見るの好きなんだよ。普段は立場上立ち止まりこんなに近くで見ているのは出来ないけど使い魔さんが座って見ているのを見つけて横に立ち止まり一緒に見てしまったよ。あっ!僕と同じ様に今川焼きが焼けるのを見るのが好きな仲間がいると思って・・・内緒だよこれ」

ウインクしながら私に笑いかけるマネージャーさん。

するとガラス越しに今川焼きを焼いていたお兄さんが。

「石上さんが今川焼きが焼けるのを眺めるのが好きな事は有名ですよ?このフロアの人で知らない人は居ませんよ。僕の前任者に言われたんです。マネージャーの石上さんがウチの店を1日に何度も見にくるけど文句があるからでは無くて今川焼きが焼ける匂いとかクルクル回りながら焼けて行くのを見るのが大好きだから気にし無い様にと言われたんですよ」

えぇ?バレてたの?と言う顔をしているマネージャーさん。

「石上さん、そこにいる真っ黒な使い魔さんやお母さんに手を引かれても動かないでジーッと今川焼きが焼けて行くのを見ている小さな男の子みたいな顔をして今川焼きを見てれば誰だって分かりますって。でも、この事を皆んな知ってて石上さんを馬鹿にしたりしてませんよ。石上さんはデパ地下が大好きなんだなぁって思って見てるんです。それに、石上さんが今川焼きが焼けるのを見てるなら売り場にトラブルも無い平和な日なんだとフロア中の人が判断するバロメーターになっているんですよ」

頭を掻きながら周りを見回すマネージャーさん。

近くのお店の店員さんだけで無く常連のお客さんも頷いている。

本当に有名だったのね。

その後、デザートに粒餡の今川焼きを二つ買い。

晩御飯に串カツとローストビーフサラダを買った私はマネージャーの石上さんに見送られ来た時と同じベンチ裏の暗闇から黒蜜おばばの元へ帰った。


それから私がデパ地下へ行き今川焼きのお店の前に座って今川焼きの焼けて行くのを見ていると石上マネージャーさんが横に立ち。

「蜜ちゃん、当デパート地下食料品売り場を御利用頂きありがとうございます」

と言うと今川焼きが焼ける様を店の目の前で堪能して私にウインクして立ち去る様になった。


初めて私に出来たお友達はちょっと子供っぽい所のあるおじさんだった。

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