第3話

困ったわね・・・迷子らしき子供がさっきから私の後を付いて来てる。

横浜の有名な商店街で夕飯のメンチカツを2個買って他に美味しそうな物が無いかしらと買い物籠を咥えてゆっくり歩いていたら商店街入り口近くにあるお肉屋さんの近くから小さな男の子が私の後を追って来た。

3歳になるかくらいの小さい子。

近くに住んでるのかしら?でもあんなに小さな男の子が一人で出歩くものでも無いし・・・買い物に一緒に来たお母さんとはぐれてしまったのかしら?

この商店街は脇道はあるけどアーケード街で一本道だからお母さんが居ればきっと見つかる筈、商店街の探索がてらお母さんを探してあげようじゃないの!

私は、付いてくる男の子にクルリと向きを変えてニッコリと微笑む。


けれども買い物籠を咥えた真っ黒な甲斐犬が牙を剥き出し自分に向けて笑い掛けたものだから男の子は『ヒッィ!』と言って尻餅を付いてしまった。


心外ね・・・飛びっきりの笑顔のつもりだったのに。


でも気を取り直して買い物籠を下に置き男の子に近づいてお辞儀をする。

そんな私を見て男の子もコクコクと首を縦に振る。

ふーう。

何とか意思の疎通が可能そうね。


私は男の子に問いかける様に首を傾げる。


男の子は自分を指差して「よっちん、よっちん」と言う。

んー私はまだ喋れないからなぁ、どうしようかしら?

あらら、よっちんニコニコ笑顔で私の顔をペチペチ叩いて来る。

まあ、慣れてくれたからいいけど・・・。

今度は、買い物籠に顔を突っ込んでの中のメンチカツの匂いを嗅いでるし。

意思を持つ魔道具の買い物籠にチョッカイを掛けるとビリビリっと電気が出て危ないわよ!


あらら?よっちん買い物籠に手を突っ込んでまだ暖かいメンチカツを一個買い物籠から取り出してパクパク食べだした‼︎

買い物籠さん良いの?こんな事許して?


私が呆然としているとよっちんズボンで手を拭いて買い物籠さんに「ありがと」と言うと私にコイコイと手招きする。

仕方ないわね〜お母さん見つかったら文句を言ってやる。

今夜のオカズ減っちゃたじゃない!

買い物籠を咥えてよっちんの後を付いて行く。

するとよっちん一軒のお惣菜屋さんの店先に立ち止まり私を指差しお店の女将さんに「メンチもらった」と言っている。

よっちんはこの店の子なのかしら?

すると女将さん「あら、真っ黒な使い魔さんお使い物のメンチカツをよっちんに分けてくれたの?悪いわね〜。じゃあ減ったメンチカツの代わりにこれを持って行きなさいな」と小分けされたポテトサラダを買い物籠に入れてくれた。

私は、ありがとうございますとお辞儀してお母さんを探す任務完了と近くの暗闇から帰ろうとしたらよっちんがまたコイコイと手招きする。

?と思いながら付いて行くとお次は魚屋さんの店先に。

ダミ声の魚屋さんの大将にまた「メンチもらった」と私を指差しながら言う。

魚屋さんの大将も「お使い物が減っちまったろう真っ黒な使い魔さんよぉ。これを持ってきな!」とネギトロを1パック買い物籠に入れてくれた。

またコイコイと手招きするよっちんに付いて行くと焼き鳥屋さんが唐揚げと焼き鳥をくれたし、韓国食品のお店の人はキムチを八百屋さんは蜜柑を乾物屋さんはイリコをくれた。

その他行く先々でよっちんが「メンチもらった」と言うと私の買い物籠にお店の人が何かをくれる。

何なの子の?

買い物籠が貰い物でいっぱいになり商店街の反対側の入り口近くになった頃、フト見回すとついさっきまでいたよっちんが居ない!

何処に行ったのかキョロキョロ見回しているとどこかで見た事のあるヒョロっと痩せたおじいちゃんがニコニコしながら私の方に歩いて来る。

「真っ黒な使い魔さん。私はこの商店街の会長をしてる歌○と言う落語家だよ。今日はよっちんにお使い物のメンチカツを分けてくれてありがとう。よっちんは余程あなたの事が気に入ったんだねぇ。商店街中に触れ回ったんだから」。

歌○さん買い物籠を指差しながらニコニコ笑顔。

私はよっちんを探してキョロキョロする。

「あー、使い魔さん探しても見つからないよ多分。私なんかもずーっとここに住んでるけどよっちんを見たのは今まで数回だもの」

私は「?」と首を傾げてると。

「あの子はねこの商店街の守り神なんだよ。ずーっと昔からいる座敷わらし見たいな物かな?十何年ぶりかによっちんが現れたと惣菜屋さんの女将さんから連絡があって見に来たんだよ。貴女のお陰で久しぶりに小さな頃にこの商店街で一緒に遊んだよっちんを見れて嬉しかったよ。ありがとう」

私は別に何にもしてないわと首を横に振る。

「いや、この頃の子供はねゲームとか勉強とかで疲れてるのかよっちんが見えなくなってしまったらしいんだ。きっと純粋で素直な使い魔さんだからよっちんを見ることが出来たんだと思うんだよ。その上買い物籠から美味しそうなメンチカツの匂いがして我慢出来なくて出てきたんじゃないかな?(笑)」

私はやっぱりメンチカツ目当てだったのか〜と思ったけれども買い物籠にギッシリの食べ物を見てまぁいいかと怒るのをやめた。

私は、歌○さんにお辞儀して近くの暗闇へタッタタと駆け出しながら次からこの商店街にお使いに来てメンチカツを買う時は、黒蜜おばばと私の分に一人分足した3個買う事にしようと考えいた。

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