甲斐犬黒蜜のお使い〜もう一つの物語
牛耳
第1話
深い森の中にある山小屋から声が聞こえる「頼んだよ蜜、気を付けて行っておいで」蜜の口に竹で編んだ買い物籠の持ち手を咥えさせながら黒蜜おばばが優しく言う。そして蜜の頭を撫ぜてから食器棚を指差した。
買い物メモとガマ口財布の入った籠を咥えた私は居間の食器棚の間に在る暗闇へ向けタッタッタと小走りで突っ込んで行く。スッと暗闇に紛れ姿を消すと次の瞬間には東京にある古いお寺の塀と電柱の間の暗闇から現れた。
現れた場所の目の前には老舗の寒天卸問屋さん。買い物籠を咥えた蜜を見付け店の奥さんが「いらっしゃい蜜ちゃん。いつもの豆寒天で良いの?」と声を掛けてくれる。
籠を咥えコクンと頷く私の口から籠を外し買い物メモを確認して、「業務用豆寒天六人前入りね」と冷蔵庫からビニール袋に入った寒天と黒豆を取り出しレジ袋に詰める。長細い容器に入った黒蜜と求肥も入れてから買い物籠に。ガマ口財布からお金を出しレジから出たレシートとお釣りを財布に入れ籠の中へ。
買い物籠を私の口に咥えさせてから「いつもありがとうね蜜ちゃん」と言うと手を振ってくれた。
私は籠を咥えお辞儀してから先程出て来た暗闇へタッタッタと向かって走り出す。電柱裏へ消えた次の瞬間、黒蜜おばばの待っている居間の食器棚の間からスッと現れた。
暗闇から出て来た私を出迎えて「蜜が私の新しい使い魔になってくれて本当に便利になったわ。昔いた普通の使い魔では移動に時間がかかり過ぎて中々食べられ無かった遠くの甘味も簡単に食べられるもの」と私から受け取った買い物籠に入った豆寒天のレジ袋を覗き込みながらとても嬉しそうに言う。
私の名前は”黒曜の蜜”魔法薬作りを生業としている魔女”黒蜜おばば”の使い魔。産まれて数ヶ月の仔犬の時におばばの元に貰われて来た。
来たばかりの私には、すぐ使い魔の契約魔法が掛けられた。
魔法に寄り人間の言葉を理解する知恵や常識を授かる。それと同時に普通の使い魔は空を飛んで移動する能力を授かるが私は黒蜜おばばの特別な魔法薬を飲んでから契約魔法を掛けられたので普通と違う移動能力を授かった。
仔犬だった私は一見正常に見えたが契約魔法を施す事前検査で普通の仔犬より魔力が弱い事が判った。黒蜜おばばは、魔力をもっと高める為にこの山小屋がある森からもっと奥の石器時代の遺跡から出土した太古の魔力を帯びた黒曜石から魔法薬を作り私に飲ませた。
使い魔の契約が終わり言葉が理解出来様になった私に「身体を浮かせてご覧」と黒蜜おばばが最初に言った。けれどもいくらやっても私の身体は宙に浮かない・・・。
「おかしいね魔力は足りてる筈なのに魔力が足りて無きゃ契約自体が出来ないし」と頭を捻るおばば。
契約により知恵が付きおばばに初めて言われた事も出来ない自分が恥ずかしくなった私はおばばの前から隠れて仕舞おうと目の前の食器棚と箪笥の間の暗闇に飛び込んだ。
黒目が大きく真っ黒な身体をした私は薄暗い物陰や暗闇だと何処に居るか判らなくなるから。
このまま暗闇で隠れて居ようと思っていたけれども食器棚と反対側に置いてあるソファと壁の間から飛び出してしまった。
びっくりして顔を見合す二人。もう一回食器棚の間へ飛び込んでご覧と言われて飛び込むと今度はソファの下にある隙間から出て来たのでまたびっくり。
顎に手を遣り考え込むおばばが「魔力を帯びた黒曜石の魔法薬が強過ぎて飛ぶ能力でなくもっと進化した移動能力を授かったのかも太古の魔女の使い魔も空間を移動する能力が有ったそうだし」と結論付けた。
私の頭に掌を乗せて「お前の名前は私の本名、黒田蜜子から一文字取り”蜜”を授けようそして蜜の真名は”黒曜の蜜”」。蜜は名前を貰った。
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