第3話
「……ということで、目が覚めたら俺はこの世界にいたんだ」
俺は、何もかも素直に打ち明けた。もっとも、別に隠す必要もないのだが。古い本を探し、それを枕にうとうとしてしまったこと、そして目覚めたらこの店の中にいたということ――。
俺の目の前には、姫様――カタリナ=アマリウスという少女が座り、真剣な眼差しで話を聞いてくれていた。俺たちは結局、この桜山書店に内装がそっくりという不思議な書店の控室で、話しをすることになったのだ。
「なるほど……それでコウがこの世界に来た、のね」
俺はコウと名乗った。本名は
「信じられないだろうけど……」
「信じるよ。私は例え相手が誰であっても、その人が一生懸命に語ってくれたことなら信じる」
カタリナはそう言うと優しく微笑んだ。王族という感じがしないほど謙虚で誠実な人のように感じる。
「どうして、私がこの世界にいるのか……って、コウ尋ねたよね?」
「それは……! だって、俺は間違いなくウチの店であなたのことを見たんだ、それなのに……」
俺が異世界に飛ばされたら、そこにはついさっき出会ったはずのお客さんがいて、しかもその人は異世界のお姫様だったなんて。ありえないを通り越して理解不能だ。考えれば考えるほど脳内がぼんやりとしてくる。
カタリナはふふっと軽く笑うと、俺の方をまっすぐ見据えて言った。
「多分、コウ――君の話以上に信じられない話になってしまうけれど。もし、私の話を君が信じてくれるというのなら……すべてを打ち明けることは一度もなかった私の秘密を、教えてあげましょう。別の世界を経験したことがある、私たちは仲間みたいなものだしね」
その前に、と言い彼女はいたずらっぽく片目を閉じた。
「何か聞きたいことがあるみたいだから聞いてあげる、なんでも質問しなさい」
俺は内心を見透かされたような気がして、ドキリとした。お姫様なはずの人と、二人きりだということで複雑な心境なのだ。
「あの、カタリナ様って護衛とかいないんですか? この国のお姫様なんですよね?」
「『様』はいらない。君は、そもそもこの国の民じゃないし、私は一度でも君のお店のお客さんだったわけだしね。もっと気楽に口を利いていいのよ。あと、そうそう……護衛、そんなものはいない」
「め、珍しいっすね……」
偉い人、それもお姫様なんて一番危ない立場じゃないのか?
「そうね、実はこうやって出歩くのも結構怒られたりするんだ。お父様……あっ、この国の王様なんだけど、すごい厳しいからバレたら結構怒られる。だから、内緒でやってるの。でも、一人で行動するのも慣れてるから」
カタリナは、一呼吸おいて部屋の中をぐるりと見まわしていた。俺たちの座るテーブルとイスの他には、木目調の美しい中世的な家具や何かの器材が無造作に置かれ、白い埃を被っている。部屋の上の方に設けられた窓からは光が差し込んで、中空に舞った埃を煌びやかに照らしていた。
「私が、あの世界にいて……そして君の店に現れたその理由を話すよ。
――私はね。過去も、未来も、いくつもの異世界へと渡っていくことができる……『文明トラベラー』なの」
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