1話 棺桶図書館の司書……と、その弟子

 戦場だった荒野に黒樫の扉を背負い、黒い衣服をまとう者がふたり。


 ひとりは煙草をくわえた年老いた白髪頭の女。もうひとりは背の小さな髪型を三つ編にした女子高生くらいの少女。


 ふたりの出で立ちは、頭に黒のキャスケット帽をかぶり、ワイシャツにネクタイ、ズボン、革靴に至るまで全て黒。

 その上からボタンまで周到に黒で統一されたピーコートを羽織っていた。


 地面に転がる者たちとは顔形はおろか、人種も、出で立ちも、肌の色さえ全く違う。

 ふたりは、人間。この世界ではとうの昔に絶滅品種危惧に指定されている脆弱な種族だった。


 くわえ煙草のまま、年老いた女が手を額に当てて目を細める。

 目的のものを見つけると、立ち上がり、後ろにいる少女に声をかけることなくすぐさま駆け始めた。

 少し慌てながらも少女も女の後を追う。


 女は異常な速度で戦場を駆け抜ける。それは走るというより跳躍と呼んだ方がしっくりくるほどに。


 徐々に少女との距離が開いていく。

 なにせ足場に邪魔なものがごろごろ転がっているのだ。


 死体、死体、死体の山。

 歩きづらいことこの上ない。


「光ばーちゃん、待ってぇ!?」

「教官と呼べ、ボケ孫が。それに、そんな悠長にしている暇は無いよ!」


 齢70を越えているとは思えねー!!

 夜空野花火はそう心で叫ぶが声にはだせない。

 そんな暴言を吐けば、目の前の鬼教官でもある祖母夜空野よぞらのひかりに家に帰ってどんな罰を与えられるか分かったものではないからだ。


「ひぅうう、死体踏んだよう!?」

「む、仏様踏むとはなってないね。帰ったら腕立て、腹筋、スクワット200回ずついつものに追加さ」


 …………それはつまり、500回ということですよね?


「あぁ、また私の桃色の高校生活が、青春と恋が遠退いていきますぅ!?」


 花火は帰宅部でありながら、脱いだら凄い。

 そりゃあもう、女子にしておくのがもったいないほどのガチムチ細マッチョなのだ。現実世界では普通に高校に通っているのだが、絞まりすぎた体がばれないようにいつも長袖を着用している。


 それもこれも鬼教官様の日々のしごき……もとい、ご指導ご鞭撻のお陰だ。


「は、ははは……りょーかい」

「立派な送り人たるもの心技体強くあれ、さ!」


 花火が乱れた呼吸で乾いた笑いを漏らす。

 光は息一つ乱さずありがたい格言を孫へ贈るのだった。


 辿り着いた先には、緑色の肌をしたオスゴブリンが小さな呻き声を漏して倒れていた。


「発見したよ、花火!」

「ぼぇ、ぜはっ、りょーかいです。かはっ……光ばーちゃん」

「……情けないねぇ。それと、教官と呼べアホ孫」

「りょーかい、鬼教官」

「帰ったらあたしをおぶってマラソン追加な」

「は、ははぁ……りょーかい」


 オスゴブリンは首からかけたペンダントのロケットに焦点の合わない瞳を向けて、何かずっとうわ言を漏らしている。


 誰の目にも、もう長くないと分かった。


「花火、準備!」

「はい、光ばーちゃん!」

「教官だ、バカ花火」

「了解です、教官!」


 言われる前に花火は動いていた。

 花火の役割は対象者のバイタル確認。

 家が医者な事もあり慣れたものだ。


 花火は肩から斜めがけした鞄から、手慣れた手つきでまだ蕾の白菊を取り出して、それを祖母へ手渡す。


 菊を受け取った光は泥がつくのもいとわずに膝をつく。男の胸に左手を置き、頬に右の掌を這わす。

 だが、男は瞳に光を映さない。


「……死神よ、間際の命に間際の時間を与えたもう」


 光が小さく呟くと掌から黒い光が灯される。痛みを知らせる脳内の分泌物を錬金術で変換しているのだ。

 頬に手を当てられた男が、混濁していた意識を少しばかり取り戻し、目の前の女に気がつく。


 これは回復魔法ではない。

 そもそもこの世界には、ゲームのように死から救うそんな都合のいい回復魔法は存在しない。

 他の魔法も、錬金術も、何かを成すためには同等の対価が必要なのだ。


 これは棺桶図書館の司書に与えられた権能。間際に弱く続く生命力を今この一瞬にかき集める錬金術。

 不必要な時間を対価に、強い生命力を錬金するのだ。


『あんたらは……誰だ……』

「あたしらは、棺桶図書館の司書さ」


 オスゴブリンの瞳が揺らぐ。

 棺桶図書館の司書。

 その言葉はそのまま死を意味する。


『棺桶……図書館。『白菊の死神』か』

「あぁ、その通りさね。あたしは、夜空野よぞらのひかり。あたしらは、あんたの未練・・に呼ばれてやって来た」


 異世界の言葉は、死神より与えられし加護により翻訳される。

 死に立ち会う者として、いかなる者でも末期の言葉を聞き届けられるように。また、死を迎える者へ歌を届けるために。


 黒樫の扉は棺桶図書館の司書を導く扉。

 未練ある者の元へ司書を導く扉だ。

 棺桶図書館の司書が念じて扉を開くと、現実と異世界が繋がる仕組みになっている。


『……そう、か』

「あんたを弔い記すためにきた。名を」

『……シャンプー・ハット』


 ここは戦場。死が溢れる場所。

 棺桶図書館の司書と聞いて、男は何かを悟り青い空を仰いだ。


『あぁ、生きてぇな……でも、それが叶わぬ願いなら、せめて頼む。……『白菊の死神』様、俺を……』

「あぁ。それがあたしら棺桶図書館の司書の仕事さね。あんたの死を任せておくれ」


 腹が裂かれた男の腹からはおびただしい量の紫色の血が流れ出ていた。血みどろの臓物がはみ出て、むせかえるような臭いが鼻をつく。


 オスゴブリンのそれだけではない。

 ここには死の臭いが充満していた。


 周囲には肉の焼ける臭い、鉄の香り、腐敗臭が立ちこめている。見渡す限り死体の山。

 そこかしこに、戦の相手であろう種類の違うゴブリンも目を閉じることもなく骸と化していた。


『俺の『遺品カタチ』を、リンスに……俺の……女房に』

「あぁ、必ず棺桶図書館に納める。だから、もう喋らなくてもいい」

『そうか、ありが……とう……』


 棺桶図書館の司書の制服は全て黒。

 その中で唯一目を引く白がある。


「あたしの白菊にかけて誓わせてもらうさ」


 制服の肩口に大きく刺繍された棺桶図書館の司書の紋章である『白菊』。

 棺桶図書館の司書は、死に逝く者を弔うために黒をまとい、導くための『誠実』を白菊に添え魂を安寧へと導くのだ。


「汝、最後に記すべき言葉を」


 光が男の口元に耳を寄せる。


『……が……てぇ』


 言葉を聞き届けた光が柔らかに微笑む。オスゴブリンも、紫の瞳を向け目尻を緩めて見せた。


「そうかい。確かに賜ったよ」


 光のその言葉で、ふらりと男の顔が揺らぐ。安心した事で意識が途切れかけているようだ。

 もう、あまり時間が残されていない。

 

「後は任せな」


 皺のある両手が蕾の菊を祈るように包む。

 額に接触した蕾の菊が淡く輝きだす。男の心臓に垂直に白菊を構えると、花が意思を持つかのように茎の先から根を伸ばす。

 男の体に菊が根付くと、不思議な事に死に化粧を施したかのように男の深い傷が消えた。


 白菊の放つ白光が男の全身に回る。

 傷は消えたが、それでも訪れる死が消えたわけではない。

 これは、死を迎えるために花咲かせるための準備だ。


「光ばーちゃん!」

「教官だ、タコ花火」

「もう、脈が弱くなってます!」


 オスゴブリンの手首で脈をバイタル確認していた花火が叫ぶ。


「あたしの孫とあろう者が慌てるんじゃないよ。特級司書夜空野よぞらのひかりの辞書に不可能はないのさ!」


 光が白菊の蕾を両手で包む。


「口上を捧げます」


 小さな、それでも荘厳な声で囁く。

 息を潜めたように風が止み静まり返る。

 光が皺だらけの指をしゃんと伸ばし、印を象作り眼前へと構えた。


「――かしこみ、かしこみ申す」


 光が立ち上がり口上を述べる。

 口上に呼応して菊の蕾が踊るようにささやかに揺らぎ始めた。


「一つ、この世に産声上げたこよみには」


 ――――花火が光について異世界を訪れるのには理由がある。


 理由の一つは、自分に才能があるからだ。

 父である星には棺桶図書館の司書としての才能が無かった。

 だから、花火は棺桶図書館の司書になるために光の助手として日々修行を積んでいる。


(光ばーちゃんは、やっぱり最高に素敵です!)


 だが、高校生の花火がこんなにも真剣に死に立ち会うのには別の理由がある。


 前世の記憶。それが花火には残っているのだ。いや、厳密には思い出した、といった方が正しいか。


 人間である花火にとって異世界であるこの世界。ここで花火は、前世人々が忌むべき魔物だった。


 家族を育てるために村を襲い、人を食った。自然の摂理に従い生きていた。それだけだ。


 それだけの事だが、逆もまた然り。

 人々にとって忌むべき魔物となった蜘蛛花火は、村の依頼により雇われた冒険者の手によって討伐され死ぬ事になった。

 暗い森でただいっぴき、孤独に、他の生物の餌になる定めを受け入れながら寂しく死ぬことに。


 そして現世。

 花火が14歳の誕生日を迎えたその夜、前世の死に際の記憶を夢に見て、全てを思い出したのだ。そして、その前世の記憶は花火の生き方を決めた。


 蜘蛛の魔物であった醜い存在だった自分。

 手足がもげて冷たく暗い水の底――死へと引きずり込まれる感覚は今思い出しても身震いする。


 死と生との境界が曖昧で分からなくなり「あぁ、まだ死にたくないなぁ」と家族を思い出し、家族の笑顔を反芻しながら死に至るまどろみに沈みかけていた。


 息絶えかけたその間際、蜘蛛花火の元に現れたのが棺桶図書館の司書だった。

 彼女は、体液が漏れ血で汚れた蜘蛛花火をきつく抱きしめ何かを囁く。その時自分どんな未練を語ったのかは覚えていないが、とても心安らいだのは覚えている。


 心も体も冷たくなった蜘蛛花火に温もりが伝わってきた。

 その時、むっつの目に映した彼女の優しい笑顔を、花火は夢から覚めた後片時も忘れた事はない。


 彼女は孤独で迎えるはずだった死を『遺品カタチ』にかえて救ってくれた。形残らぬ孤独な死を形にしてくれたのだ。

 その時、花火を孤独死から救ってくれたのが、棺桶図書館の司書である、まだ若かりし祖母――夜空野光だった。


「二つ、お前とおっかさん二輪の微笑み花咲いた」


 棺桶図書館の司書はこの世界の死神様に認められた存在だ。

 そして、花火が光の元に人の子として転生したのもおちゃめな死神シンダンデス様の粋な計らいあってのものだった。

 だから、花火は死神様に死ぬほど……いや、実際に一度は死んでいるのだが、とても感謝している。


 素敵な死をくれた光に。

 粋な生をくれた死神様に。

 棺桶図書館の司書として歩める二度目の人生に。


 この世界には死があふれている。

 生きる事を渇望しても、それでも生物は死ぬ。

 それは祖母である光もまた同じ。


 普通に生きれば祖母である光は、花火より早く死ぬ。どんなに光がハイスペックババアであっても、寿命という枷は人である限り逃れる事はできない。


 前世で受けた恩を、光が死を迎えるその際に安らかで幸せな死を持って報いたい。

 それが、花火が異世界で光とともに死を学ぶ理由。棺桶図書館の司書として日々鬼教官の元で、死ぬほど辛い修業を重ねる理由なのだ。


「三つ、聞かせておくれ繋ぎ紡いだ君がえにしの物語」


 故に夜空野花火は、棺桶図書館コフィンライブラリ祖母である夜空野よぞらのひかるの元で異世界の死を学ぶ。真剣な表情で彼女の横顔を一瞬たりとも見逃さぬように心に刻む。

 いつか、祖母を『遺品カタチ』に成すために。


ぬこと恐れるなかれ坊よ

 きれば誰しも死ぬのだから」


 ゆっくりと口にする数え歌。

 まるで子守歌のように流れる声音。

 花火は光の語る口上が好きだった。


 心に直接触れるような母に抱かれるような声音。

 死は怖くないのだと語り、死に向い合せる数え歌。


 花火が光の真似をしてみても同じ結果はまだ出せない。印も韻も全て同じようにやっているのに、何も変化は起こらない。

 光曰く、死の意味と、弔いへの理解がまだ足りないのだそうだ。


 数え歌で韻を踏み、指先から出された白い光の軌跡が菊の花を形作るように印を結ぶ。結んだ印は、印と印とを結びつけ、あやとりの糸のように菊の花を宙に描いていく。

 糸から粉雪のように、極細の光の粒子が降り注ぎ、オスゴブリンの体に吸い込まれていった。


話をたんと聞かせておくれ

 いたり笑ったお前の半生を

 宿るべき本に記憶を刻むため」


 蛍のように小さな光が手もとに集い、菊の蕾がゆっくりと花開いていく。

 緑の肌に花開く純白の白菊に小さな光球が集いだした。


 光球の正体は、この地の微精霊。

 死を弔い、死を祝い、死に寄り添うために集まった精霊たちだ。


久遠に君の心音こころね忘れぬように、誰かの記憶に刻むがために」


 大輪の白菊を咲かせた花弁が球をカタチ作り、男の体を包みこむ。まるで菊でできた花弁の中で男は姿を変えて『遺品カタチ』に生まれ変わるのだ。


棺桶図書館コフィンライブラリ夜空野光が弔い記す、汝の物語ここに産声上げよ。死してなお、言の葉伝える遺品カタチとなろう、終結の言葉をくくりに置いて」


 白菊の前で韻を切り、印を結び切る。

 五芒の星を両の掌で白菊へ贈る。


「『ブックエンド』」


 光が白菊の繭に手を差し込み、口上を締めくくる。

 菊一文字の大輪が更に花弁を大きく膨らませ、爆ぜた。次の瞬間、白い菊の花の花吹雪が戦場に舞った。


 光はその手に本を握っていた。

 深緑の無骨な本を。


 男の緑色の皮膚は背表紙に、白濁の鋭い牙は本の題名を記し、瞳の赤は背表紙に小さな宝石となって埋め込まれている。

 光は手にした本をひと撫ですると、丁寧にページを捲った。その本の中で、さっきまで苦悶の表情を浮かべていたオスゴブリンは挿絵の中で笑っていた。


 たくさんの子供と、リボンをつけたメスゴブリンと一緒に。

 豪勢とはとても呼べない芋ばかりの食卓を囲んで、オスゴブリンは、たんぽぽのような温かい笑顔を緑色の顔に咲かせていた。

 おそらく傍らにいるのが妻なのだろう。


「光ばーちゃん、この人最後何て言っていたんですか?」

「ドジ花火、教官な」

「あ、ごめん。師匠、それで最後は何て?」


 例え孫であったとしても仕事につくときは公私混同しない。

 それが光のモットーだ。特に異世界で仕事をする時は、呼び方を口すっぱく注意してくる。


 光がため息をついて眉を上げる。

 ……あ、怒ってるかも。


 考えれば儀式のすぐ後だ。

 送り人たる司書として、死者を尊ぶ気持ちが足りなかったかもしれない。

 そんな花火の心配をよそに、すぐに光は破顔する。


「花火。こいつな、まずい飯が食いたいってよ」

「え? まずい飯?」

「あぁ、まずい飯さ」


 ……聞き間違いだろうか?

 不味い飯が食いたいと、そう聞こえた気がするが。

 それが最後の言葉というのは、理解不能だ。


「ま、まずい飯? それ、旨い飯の間違いじゃなくて? 普通はもっと、こう幸せな……最後の言葉がそれ?」


 残す言葉は死ぬ者それぞれだ。

 末期の言葉に宿るは死にゆく者それぞれの未練。

 だから、千差万別であって当然なのだが。


 いや、しかし、ねぇ?


「んな顔するんじゃないよ。コイツはさ、まずい飯が好きなんだ。世界で一番好きな嫁さんの、塩辛くてまじぃ飯が食べたい……そう言ったのさ」


 光がオスゴブリンの『遺品モノ』を花火に手渡す。

 深緑の表紙を開けページをめくると、木のスプーンを口に運び、顔をしかめるオスゴブリンの挿絵が目にとまった。

 その顔は不満ながらもとても幸せそうだ。


「そっ、か。そういう事なんですね」

「そうさ。世界一旨くてまずい飯なんだと」

「光ばーちゃん、それ矛盾してます。でも、うん、納得!」

「教官な。ったく、このたわけた孫が」


 ふと花火を見て光が笑う。

 その笑顔は、まだまだ未熟者だと言っている。未練の真意を見抜けなかったのだから、まぁ、そうだろう。


「光ばーちゃん」

「あ?」

「とても、素敵な未練だね」

「あぁ、悪くないね」


 死に逝く者に白い菊を添える理由は前に教わった。


 菊の花言葉は『高貴』『高潔』『高尚』。

 菊を添えるのはその者が例えどんな者でも、歩んだ生を誇るべきだという意味を込めて。


 白い菊を添えるのは仏花としての弔いの意と、そこにその者が心から願った『誠実』な『真実』を記すため。


「かっ、花火もまだまださね。さて、棺桶図書館に『遺品カタチ』を届けにいくよ。嫁さんに連絡も届けてやらなきゃね」

「うん!」


 光が指をくわえ指笛を鳴らす。

 すると、何もない空間から体がつぎはぎだらけのぬいぐるみの黒龍が現れる。光のバディであるくろちんだ。


「は!? ぐぇ、て、えぇ!?」


 光が花火の足を払ってこけさせた。

 突然の事だが受け身はばっちり。日頃の訓練のたまものだろう。


 オスゴブリンの『遺品カタチ』は、倒れこむ際にしっかり奪われた。ひょいと光が黒龍に飛び乗ると、花火が乗るのを待たずに飛び立ってしまう。


「ちょ、待って光ばーちゃん!? こんな所に置いてかないでくださいぃ!?」

「仕事中にばーちゃんって言った罰さ。何度言っても直しやしない、グズ花火は体で叩き込むしかないようだ。1キロ先で待ってるから走っておいで」

「お、鬼教官!?」

「5キロ先に変更。5分でこい」


 かんらかんらという笑い声。

 婆ちゃんは仕事に煩く厳しい。


 いつも優しくても犯したミスには覚えるために罰を与える。

 5キロ5分……単純計算で1キロ1分。プロより速いよねそれ無理ですよね!?


 死体だらけの歩きづらい荒野を半泣きで全力疾走する黒服の女子高生。

 夜空野花火は鬼教官でもあり、祖母でもあり、尊敬する憧れの特級棺桶図書館の司書でもある夜空野光の元で今日もしごかれる。


 いつかその憧れの祖母を弔い、幸せな死を贈る立派な棺桶図書館の司書になるために。


「ひ、光ばーちゃん待ってぇええ!」


 その日はまだまだ遠そうだが。

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