第12話 目的と謎
「さて、まずは今までの情報をまとめるけど、顔剥ぎの能力は儀式を行うことで顔を剥いだ者の姿形を真似ることが出来、かつその者の知識は自身の中に蓄積する。そしてプロであることに誇りを持つため無用な殺しを嫌う傾向にある。そのため研究者7名に警備兵1名、そして擬態がバレた一名以外は殺していない。ここまではいいかな?」
俺とネリアは黙って首肯する。若干擬態がバレたために殺したという新しい情報も含まれていたが、恐らく今の説明はバニラとルドルフのための物だろう。この男既に二人に協力を頼む気満々である。
「ではこれを踏まえた上で本題に入ろうか。先日顔剥ぎがネリア様を襲撃した理由についてだけど……」
「え!? 襲撃って何!?」
いきなりバニラが食いついていたが無理もない、ついこの前襲撃されたばかりにもかかわらず当人含めこの屋敷の連中は平然と過ごしているのだ、間違っても危険と隣り合わせなどと思わないだろう。
「うん、五日前にネリア様は顔剥ぎって男の襲撃にあってるんだ。正直ミストの機転がなかったらネリア様は間違いなく殺されていた。ただあまりに絶望的な状況だったのにあっさりミストが助けてしまったから、逆にこの屋敷の人たちは彼がいればなんとかなるという安心感を持ってしまったみたいなんだよね……」
アースが困ったように言っているが本当に困っているのは俺である。あんなのはほぼ運量だけでどうにかしたようなものだ。次も成功するとは限らないというか、次はほぼ間違いなく助けられないだろう。アースには俺の悩みが分かるらしく、
「人って一度成功すると確証が無いのに安心して信じ切ってしまうからね。仕方ないと言えばそれまでだけど。ただ今回の場合顔剥ぎクラスが刺客として送り込まれている以上、そんなことを言って呑気にしている暇はなさそうだ。だからこそ僕たちは一刻も早く雇い主の狙いを把握する必要がある」
「その件についてだが私から一ついいだろうか」
と、そこでネリアはアースの話を遮った。まだネリアには特に何も話していなかったはずだがひょっとして何か知っているのだろうか。そして全員の注目が自身に集まったことを確認するとようやく彼女は口を開き、
「奴の狙いは恐らく私のフリをしてこの国を先導することだ」
と言い出した。これにはさすがに恐らく事情を知っているであろうアースも頭に疑問符を浮かべており、バニラとルドルフに至っては事情も知らないため、最早頭でもおかしくなったのだろうかと思っているようだが、当人はいたって真面目だった。
「ミストやアースは知っての通り私は中央協会の現トップの娘だ。つまり私に成りすましてしまえば簡単にこの国を支配下に置くことができる」
最初は妄言だと思っていたルドルフ達も、俺やアースのただならぬ雰囲気を感じて唖然としていた。が、それよりも俺はネリアの言葉の方が気になっていた。
「なぁ、それはいくらなんでもありえなくないか? だってあの時顔剥ぎが仮にお前を殺し、なり替わることに成功したとしても、あんだけ大事だったんだ、お前のことを知る連中が気が付かないはずがないだろう?」
しかしそんな俺の指摘にも動じず、彼女はどこか確信めいた表情をしていた。
「ああ、確かに君の言う通り通常であれば私の死は上層部の間では騒動になるかもしれない。だがそれはあくまで通常であればだ。だが現実に起これば恐らく騒ぎにはならず内々で処理される」
「成る程、お前は上層部にもスパイがいると、そう考えているんだな?」
そこで初めて今まで一切口を開かなかったルドルフが口をはさんできた。ネリアもそのことに少し驚いた表情を見せていたが、
「あ、ああ。その通りだ。上層部にスパイがいれば私の死など簡単に隠蔽できる。何より私が死ねば前国王のように得をする人間がいる以上何もおかしい話ではない」
確かに言われてみればそうだ。表に出てなかろうが、いやむしろ一切表に出ていないがために一般人にはネリアが入れ替わっていることなど分かりはしないだろう。後は一部の事態を知る者を処分してしまえば隠蔽工作は完璧なものとなる。
だが仮にスパイがいたとしても目星がつかない。いるとすれば先手を打ちたいところだが、目星を付けることが出来ない時点で後手に回るしかない。
「おいアース、さっき顔剥ぎの能力には対象の知識を蓄積するというものがあると言っていたな。それは顔を剥がれた人間が持つ記憶ごと引き継がれるのか?」
俺が手詰まりの状況にもどかしく感じていると、再びルドルフが口を開いた。
「えっと、どうだったかな。イザベラ、どっちだったか覚えてる?」
「ええ、記憶は引き継がれません。警備兵の一人に成りすました後、もう一人別の警備兵を殺害した理由はそれですから」
そこまで聞くとルドルフは何か考えるそぶりを見せ、
「成る程、大体見えてきた。アース! 悪いが一度警備兵を徹底的に調べさせてくれ。恐らくその中に数名紛れ込んでいる」
と、彼はそう断言してみせたのだった。
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