第10話 7人の王候補
「前回からの続きといこうか。確か君にはこの代理戦争はペアで行われるもの、というところまでは話したな?」
俺は黙ってうなずく。顔剥ぎとの戦闘を終えた翌日、俺はネリアから再び代理戦争について教えてもらえることになった。あの時彼女を王にすると言って見せたはいいものの、具体的に何をすればいいのか分からなければ手伝いようがない。だから指針だけでも決めるためにあの時の続きから聞くことにした。
「で、だ。あの時世界を牛耳っているのは世界の王ただ一人と言う話をしたと思うが、実のところ今期はその限りじゃない。なぜか、それは今回の王位争奪戦の形式にある」
聞くところによると王位争奪戦はその時の中央協会のトップが適宜形式を決めるらしい。例えば3世代前なら金融競争を行い最も稼いだものが次の王に選ばれるという制度が採用されていたし、最も異例のものだと一対一の戦闘で優勝したものが採用されるといったものまであったらしい。
「では今回は何を採用したか、その答えは政治だ。私の父、つまり協会の現トップは妾の分も合わせちょうど7人の子を為した。その時に奴は思いついたらしい、7人全員に一つずつ国を任せて争わせれば面白いんじゃないかと」
何と胸糞の悪い話だ。自分の子供たちを争わせるのが楽しい? 笑えない冗談だ。どうやら俺が想像していた以上に協会のトップは人格破綻者らしい。
「簡単に言ってしまえば国盗りに勝つのが王になるための条件と言うわけだ。が、お題がシンプルなだけにある意味歴代で最も厄介ともいえる。なんせ簡単なお題故に勝利条件そのものが明確ではないからね」
勝利条件そのものが明確ではない? 勝利条件は国盗りじゃないのか? これ以上明確なものはないと思うが。
「ああ、確かに字面にすれば簡単だ。だが考えてもみてくれ、国盗りと言うのは必ずしも支配から成り立ちはしないだろう?」
目が点になる。国盗りということは勢力の拡大を目的としているはずだ。にもかかわらず支配下に他の国を置かずにどうやって戦うつもりなのだろうか。
「いや君、国盗り=戦争という考え方は非常に安直であり、そして危険すぎる。それではいつか絶対に足元をすくわれてしまう。いいかい? 勢力を拡大するうえで最も厄介なものはなんだと思う?」
「考えるまでもないだろ。強大な敵だ」
しかし俺の答えは不正解だったらしくネリアは首を横に振り、
「答えは味方の裏切りだよ。戦争で国を盗るのは非常に簡単だ。けどね、戦争を起こしてしまえば必ず敗戦国と戦勝国では軋轢が生まれる、これは当たり前の話だ。一国や二国ならこれでもいいかもしれないが、全世界を支配しようともなればその軋轢は深い溝を形成する、自国が崩壊しかねないほどにね。これでは仮に一時的に覇権を握ってもすぐにクーデターや革命が起こり、下手をすれば世界を大混乱に陥れかねない。こんなものを国を盗れたと認めることはいくらなんでも出来ないだろうさ」
ではどうするのか。武力以外でどうやって他国を支配するのか。
「国盗りは何も支配だけじゃないさ、同調や和平、方法はいくらでもある。けれど当然これらにもリスクはあるため明確に答えも方法もまだ見つかっていないのさ」
ひょっとしたらこれから先も見つかることはないのかもね、と少し自嘲気味に笑うネリア。そこで俺はふとある疑問を持った。
「なぁ、ここ含めて7国はどうやって国盗りをするつもりなんだ? そこまで言うにはある程度国ごとにカラーがあるんだろう」
すると彼女は待ってましたと言わんばかりに、
「その通り。では今から各国のカラーについて説明していこうか」
そして棚から一冊のノートを引っ張り出しページを開く。そこには何やら理解の出来ない数式やグラフがごった返していた。しかしネリアは数式やグラフは銅でもいいと言わんばかりにその中の世界地図の書かれた部分のみを指していた。が、それらは国境によって分けられてるわけでもなんでもなく、まばらに青やら緑やらで鮮やかに彩られていた。無論俺には何を意味しているのかさっぱり分からない。
「さて、各国のカラーと言っても当然そこに住む人間の思考回路は一律ではない。国ごとに分けようなどと考えるのは愚かだ。しかしその国の指導者の思想が人々の思想に影響を与えるのもまた事実、それ故にその国で大部分を占める考え方から指導者の考え方を導き出すことが出来るのさ」
どうやらこの地図の色はその地域に住んでいる人々の主な思想を表しているらしい。各国200分の1スケールで描かれているところを見ると随分細かい。なお、彼女の中では
赤色:憤怒
青色:恐怖
水色:平和
緑色:秩序
黄色:欲望
橙色:勇敢
という意味を持っているらしい。
「ここまでくればもうわかるだろう? 赤色が多いグレナードは武力国家、水色が多いシェイムロークは中立国、緑色が多いロータスは法治国家というようになる」
となると残りは野心家のデイジーに英雄主義ロータス、そして恐怖政治のシープレスというような形になるわけか。そこでふと気づく。
「なぁオイ。俺たちの国のカラーはなんだ? これを見る限りまるで統一されていないんだが」
すると彼女は口角を上げて言ってのけた。
「私たちの国、ローゼンベルグのカラーは自由だよ」
ネリアはどや顔をしているが、それってつまり統制できないと明言しているようなものではないのだろうか。俺の胡散臭そうなものを見る視線に気が付いたのか、
「別にめんどくさがっているわけでも統制を端から諦めているわけではない。現に私は横暴な国王を即刻更迭している」
あーそういえば二年前かなんかに一人国王が突然辞任して代替わりしてたな。あれはコイツが原因だったのか。
「私のやり方はただ一つ、各々に任せるということだ。あくまで最低限のルールは布くがな。つまるところ私は信じているのだよ、人という生き物の可能性をね」
「自由であることの強さか」
ネリアの講義を聞き終え外に出た俺は、彼女の言っていたことを反芻していた。彼女曰く人間と言うのは自分で考え行動したときに真価を発揮する生き物だそうだ。故に下手にルールや恐怖で縛ってしまうとポテンシャルを引き出すことが出来ないという。一理あるとは思うが、それは下手をすれば手綱をとれずに国家が崩壊してしまうような諸刃の剣ではないだろうか。
いや、俺より賢い彼女のことだ、そんなことをわかっていないはずがない。つまり最初に言った通り、正解がない以上自分が最も信じられる可能性に賭けてしまえといったところか。行き当たりばったりな策はある意味ネリアらしいと言えばらしいのかもしれない。
「旦那様~お客様ですよ~」
俺がぼーっと王位争奪戦について考えていると、門の方からアイシアの声が聞こえた。俺に客人? 誰だろう。アースが顔剥ぎの一件で何かつかんでいち早くそれを伝えに来たのだろうか。ただそれならアース様がお見えになるというような言い方をしそうなものだが。だとすると誰だろうか……。そんなことをずっと考えていると不意に背後から懐かしい気配を感じた。
「よぉ、ミスト。久々じゃねぇの」
「ちょっとちょっとぉ! あんたの体がデカすぎて見えないんだけどぉ!! って、あ! ホントにミストじゃんおっひさー!!!」
あまり感情の起伏のない男の声と対照的にやたらテンションの高い女の声。俺はこの二人をよく知っている。そして振り返るとそこには俺の予想通りの人物がいた。
「ルドルフにバニラ? お前ら何でここに……」
そう、そこにあったのはかつての俺の同僚、元第四魔王軍の幹部たちの姿だった。
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