デートに行く為の服がない。同じ学校の友人に言っても、度を超えたミニスカートとか背中の開いた服しか持っていない。ということで、またしても友人の制服を借りてデートに行った。今思えばその友人に洋服を借りれば良かったんだけど、言い出すのが面倒で辞めた。

そんなことでもたもたしていたら普通に遅刻した。自分の人間としてのクズさ加減を改めて実感する。

待ち合わせ場所に、既に静河はいた。

そのときあたしは携帯を持っていなかったので連絡もできない、もしかしたら居ないかもしれないと思っていたところだった。


「遅れて、ごめんなさい」


一生に一度使うかどうかの言葉。

あたしの周りはあたし以上に時間を守らない奴が多い。


「全然、待ってない」

「……嘘。絶対15分くらい前には着いてるでしょ」

「それより、なんで制服?」


静河はきょとんとした目をこちらに向ける。


「今洋服全部クリーニングにだしてて、これしか着るものなかったの」

「え、全部? しかも制服以外?」

「うん」

「葵って面白いね」


からりと晴れた天気のように笑った静河は、あたしの手を握った。








テレビをつける。昼前のバラエティー番組。ネットショッピングの宣伝番組。化粧品のCM。結局バラエティー番組に落ち着いて、リモコンを置く。

画面の向こうからする音を耳で拾う。知らぬ間にうとうとしていた。

結局テレビは消して、ラグマットの上に寝転ぶ。カーテンを開けた窓の外は綺麗に晴れていた。こんな日に外に出ないなんて馬鹿だ、と言われているよう。


「昼ごはん……」


冷蔵庫の中身を思い出す。買い置きの焼きそば、半分残ったたまねぎ、ピーマン、あとはソーセージが要る。

キャベツもあったら尚良し。

化粧はせずに、財布と鍵だけ持って家を出る。マンションの前の通りにスーパーがあるので、そこで食料を調達しよう。


平日のスーパーは夕方以外は閑散としている。あとはタイムセールのときとか。

ふらふらと精肉コーナーに行く前に、惣菜コーナーを通ってしまった。あ、唐揚げ美味しそうと思って手に取ったら終わり。今日の昼ごはんは唐揚げ、夕飯に焼きそば。

ソーセージを探していると、スペアリブのパックを持って思案している青年がいた。あたしはいつも買っているソーセージを手に取る。何をそんなに考えるのか、とパックから青年に目をやると、驚いたことに、静河だった。


「スペアリブ食べんの?」

「え、葵、何で?」

「それはこっちの言葉」


方や唐揚げとソーセージを持つ女、方やスペアリブを選ぶ男。家畜様どうもありがとう、と最初に手をあわせるべきかもしれない。

静河の返事を待っていると、この前見た清楚系がやってきた。


「あ、この前の店員さん」

「こんにちは。あー、デート中だったんだ」


邪魔して悪かった、と手を少し挙げて、あたしはレジの方へ歩く。


「葵!」

「なに?」

「そうじゃない、今先輩の家にみんなで泊まってて」

「へえ、仲良いのね」


目をぱちくりさせる静河は頷きかけ、いやいやと首を振った。


「葵は、どうしてここにいんの?」

「買い物しに」

「家近くってこと?」

「かな、彼氏の家がね」


金森ごめん、暫し彼氏の代わりでいてくれ。

その彼氏は恋人の家に引っ越してしまったけれど。帰って来ないことを願っているけれど。

静河は少し固まって、口を開く。


「葵、今度遊ぼう」

「……彼氏が駄目だって言うと思う」

「じゃ、彼氏も一緒に」

「は!?」


あんた、正気か。

本当、頭の良い奴って何考えてるのか分からない。普通に考えてみようよ、カップルと遊んでも楽しくなくない? あたし、カップルと三人の空間にいるだけでも嫌なんだけど。


「無理、ない、絶対」


首をぶんぶん振るのはあたしの番。でも、静河は頑固だった。あれ、こんなに融通のきかない奴だっけ、と思ってしまった。


「これ、俺の連絡先」


渡された紙。



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